新川万詩郎
一人の若手作曲家とSNSで歌のカバー動画をアップしていた女の子が出会い、 音楽と人間性に触れて心動かし、共に歩んでいく物語を お互いの側面から語る小説『琴線ノート』のまとめです
この目で見ている物のことを世界というけど 本当に存在しているかは分からない 目に映る人も景色も全部 夢のように自分で作り出しているものかもしれない 怪我もすれば病…
帰りの新幹線で思う “後何回会えるかな“は 数の事じゃない いつまでも元気でいてほしい もっと見せたい顔がある 聞いてもらいたい話がある そんな愛情を噛み締める事…
期待なんかしなければ 裏切られて悲しい思いをする事もない 期待なんかしなければ 思うように行かなくて落胆する事もない 期待なんかしなければ 踏み躙られて傷つく事も…
よーいどん よちよちとでもゴールを目指せばよかった よーいどん 走れるようになってからは1等賞を狙えばよかった よーいどん 少しするとスタートの合図は走るだけじゃ…
お母さんがちょっと心配しそうな時間の 夜のファミレス もうドリンクバーも飲みたくなくて 空のグラスが乾いていた 君と二人 語り合うのは好きな人の話事ばっかり でも君…
ピコンとスマホに「着きました〜」と通知が届く ドアを開くと相変わらず赤々としたインナーカラーの ヒナ太がぺこりと頭を下げる もう仮歌の録音も三回目になると迎えに行…
鉛筆を持ち白紙のノートの開いたまま もう何十分も地蔵と化した私は自分の作詞の 才能の無さを痛感していた 全く言葉が出てこない 何かないかと見慣れた部屋を見渡してみ…
「恥ずかしながらお聞きするんですけど、 編曲ってそもそも何をするんですか?」 作編曲家の娘としてはそれを生業にしている父に 少し聞きづらい質問だった 「それな、編…
父に自分の仮歌を聞いてもらった以降 SNSにカバー動画をアップする頻度が減っていた 更新しないと忘れられてしまうという焦りも 今となってはすっかり消えてしまっていたけ…
ヒナ太が仮歌を入れてくれた曲を聴き終わると 恩田さんは少し考えるようなそぶりを見せてから 「仮歌としてはいいんじゃないか?」と答えた “仮歌としては”というのが“…
下北のいつもの居酒屋に着くと恩田さんは先に 奥の半個室でビールを片手にパソコンを開き イヤホンで何かを聴きながら何か作業をしていた 「お疲れ様です。待ちました?」…
髪はボサボサで無精髭の姿のまま コンビニでホットコーヒーを買って帰ると パソコン前の定位置に腰を下ろし 一口飲んでから横に置いたミニテーブルに置く 音楽家はコーヒ…
「甘いのと辛いのどっちにする?」という父の言葉に 普段の私なら甘口を要求して できるだけ無傷でいたいタイプだけど 歌が良くなりたいと思って燃えている私は 当然のよう…
「ちょっと聞いてほしい音源があるんだけど」 そういうと父はなんだなんだと興味ありげな表情で こちらの様子を伺っている 「小川さんの曲に私の仮歌を入れたデモなんだけ…
バイトの帰りに寄った楽器屋さんの書籍コーナー いつもは通り過ぎる棚の前に私はいた “作曲、作詞、DTMコーナー” 昨日作曲について色んな話を聴かせてもらったけど も…
目が覚めると昼の12時を回っていて 久しぶりにすっきりとした目覚めだった 昨夜0時が締め切りのデモ曲をギリギリで提出し 長時間椅子に座っていたせいでバキバキになった…
2024年9月21日 17:25
この目で見ている物のことを世界というけど本当に存在しているかは分からない目に映る人も景色も全部夢のように自分で作り出しているものかもしれない怪我もすれば病気もするもし作り出したものならもっといい事ばかり起きればいいのにそれでもリスタートできるボタンはどこにもないし結局は自分の足で進んでいくしかないここが現実逃避をしたその先かもしれないならもう現実でも想像でも構わない
2024年9月20日 19:13
帰りの新幹線で思う“後何回会えるかな“は数の事じゃないいつまでも元気でいてほしいもっと見せたい顔がある聞いてもらいたい話があるそんな愛情を噛み締める事なんだ離れて暮らすことはある意味道を分かつことだけど物理的な距離よりも思い合う心の方がきっと近くに感じられる
2024年9月19日 18:50
期待なんかしなければ裏切られて悲しい思いをする事もない期待なんかしなければ思うように行かなくて落胆する事もない期待なんかしなければ踏み躙られて傷つく事もない期待なんかしなければ失わないで入れたものもあったかもしれないでも僕らは人間だから悲しみ 落胆し 傷つき 失う不感症でいる事なんて望んでいない期待しないことを期待するのは誰かに期待を押し付けている弱い自分だ期
2024年9月18日 19:03
よーいどんよちよちとでもゴールを目指せばよかったよーいどん走れるようになってからは1等賞を狙えばよかったよーいどん少しするとスタートの合図は走るだけじゃなくなったよーいどんもう少しするとゴールはテープじゃなくで時間になったよーいどん大人になる手前で誰かがゴールを教えてくれなくなったよーいどん時間内の成績が人生を分けるようになったよーいどん大人になると合図は自分
2024年9月17日 19:09
お母さんがちょっと心配しそうな時間の夜のファミレスもうドリンクバーも飲みたくなくて空のグラスが乾いていた君と二人語り合うのは好きな人の話事ばっかりでも君の好きな人は私の好きな人でもあった親友の君の事が大好きで大切だからこの恋は私の奥深くに隠すと決めているそれに彼が君の事を見ていることも本当は知っているでも大好きな君と本当は大好きな彼二つを足しても大大好きに
2024年9月16日 19:00
ピコンとスマホに「着きました〜」と通知が届くドアを開くと相変わらず赤々としたインナーカラーのヒナ太がぺこりと頭を下げるもう仮歌の録音も三回目になると迎えに行かなくても自分で部屋まで来てくれるようになった「いつもカラーが安定してるけど美容室まめにいくの?」「もうこうじゃないと落ち着かなくて。。」もうすっかり雑談くらいは出来るようになっていた女性と二人きりが苦手なのはきっと大
2024年9月15日 18:26
鉛筆を持ち白紙のノートの開いたままもう何十分も地蔵と化した私は自分の作詞の才能の無さを痛感していた全く言葉が出てこない何かないかと見慣れた部屋を見渡してみても生後間もない赤ちゃんのようにこれっぽちも言葉が浮かんでこなかった作詞をしないと、父が言うように作曲できたところでどこにも披露できない新曲ですと言って鼻歌でふんふん歌われても誰も聞いてもくれないだろう、私だったら聞きた
2024年9月14日 19:19
「恥ずかしながらお聞きするんですけど、編曲ってそもそも何をするんですか?」作編曲家の娘としてはそれを生業にしている父に少し聞きづらい質問だった「それな、編曲って何やってるの?ってやつ世のほとんどの人が知らなから無理もないか」(はい、実の娘でもそんな感じです…)「まず作曲が何かをおさらいすると、作曲はメロディを作ることだ。コード進行もいらない。著作権もメロディにしかなくて
2024年9月13日 19:18
父に自分の仮歌を聞いてもらった以降SNSにカバー動画をアップする頻度が減っていた更新しないと忘れられてしまうという焦りも今となってはすっかり消えてしまっていたけどその分私は歌う事と作曲をすることに今夢中だったあの日父からもらった歌のアドバイスは技術的なものはほとんどなくて気持ちだったり歌詞の解釈の必要性とかの精神面が多く、それが自分で考える余地をくれてそれだけで歌がワンランク上
2024年9月12日 18:39
ヒナ太が仮歌を入れてくれた曲を聴き終わると恩田さんは少し考えるようなそぶりを見せてから「仮歌としてはいいんじゃないか?」と答えた“仮歌としては”というのが“それなりに”という意味に聞こえてしまうが恩田さんにはどう聞こえていたのかがもっと知りたくなった「仮歌やるの初めてだったみたいなんです個人的にはいいなって思うんですけど恩田さんからするとどんな印象でした?」そう聞くと恩田さ
2024年9月11日 18:55
下北のいつもの居酒屋に着くと恩田さんは先に奥の半個室でビールを片手にパソコンを開きイヤホンで何かを聴きながら何か作業をしていた「お疲れ様です。待ちました?」恩田さんは待ってないよとジェスチャーをしつつイヤホンを外してパソコンをしまい始める初めて会ったのはバンド時代にレコード会社の主催するオーディション企画に参加した時に第二次審査くらいで早々と落選したけどちょっと面白いかもと
2024年9月10日 19:58
髪はボサボサで無精髭の姿のままコンビニでホットコーヒーを買って帰るとパソコン前の定位置に腰を下ろし一口飲んでから横に置いたミニテーブルに置く音楽家はコーヒージャンカーが多く自分もそれにもれずいつもコーヒーだ自分で淹れた方がコスパがいいのだけど自室に篭りがちの作曲家には何かと理由をつけて部屋を出るようにしないと体も固まるしそれなりに気分転換ができるので年間通すとそれなりになるコ
2024年9月9日 19:18
「甘いのと辛いのどっちにする?」という父の言葉に普段の私なら甘口を要求してできるだけ無傷でいたいタイプだけど歌が良くなりたいと思って燃えている私は当然のように辛口のアドバイスを要求した“仮“の歌だろうけど私なりにしっかり歌ったものだ自分ではこのデモ曲の歌は結構いいと思っているだからこそ私の考えの及ばないところの意見を父なら言ってくれる気がしていた「おーいいね。それならまずこ
2024年9月8日 22:18
「ちょっと聞いてほしい音源があるんだけど」そういうと父はなんだなんだと興味ありげな表情でこちらの様子を伺っている「小川さんの曲に私の仮歌を入れたデモなんだけど」「小川さん?誰だっけ?」と父「小川奏多さん!七色スマイルの!」少しイラつく私「ああ、“多く奏でる“で奏多な」まったく、この人は一緒に仕事した人の名前を覚えない上にこの間話したばかりなのに…やれやれと鼻から息を漏らすと
2024年9月7日 18:34
バイトの帰りに寄った楽器屋さんの書籍コーナーいつもは通り過ぎる棚の前に私はいた“作曲、作詞、DTMコーナー”昨日作曲について色んな話を聴かせてもらったけどもっと具体的な”はじめの一歩”のやり方はないかと一番簡単そうな作曲の教則本を探すけどスケール、コードトーン、転調メソッド…どれも呪文のような言葉ばかりで理解できる気がしなくて父や小川さんなどの作曲家はこんな難しいことを理
2024年9月6日 18:44
目が覚めると昼の12時を回っていて久しぶりにすっきりとした目覚めだった昨夜0時が締め切りのデモ曲をギリギリで提出し長時間椅子に座っていたせいでバキバキになった体を引きずりながら深夜2時まで営業しているスーパー銭湯に駆け込み最近ハマりつつあるサウナで気持ちも体もリセットするこれが最近のルーティーンだ先方の楽曲コンペの締切はなぜか午前0時が多いなのでデモ曲を提出した後に誰かと食事