カナダ最古の国立公園の保護管理から見る、日本の生態系保全の未来

私はカナディアンロッキー、カナダで最も古いバンフ国立公園でガイド会社を主催している。1996年にカナダに移住して以来、カナダで最も人気のある国立公園を日本からのゲストに案内し続けてきた。

バンフ国立公園は人類の自然保護と共に歩んできた歴史がある。そしてその自然保護とオーバーツーリズム対策は現在の日本のツーリズムにも十分参考になる事だろう。

バンフ国立公園は世界で3番目、1885年に制定された。制定された当時の国立公園のモットーは「この景観を変わる事なく次世代に残そう」であった。
国立公園の管理には当時は残念ながら「環境保全」という言葉はなかった。

国立公園がまず進めたのは山火事の消火である。森が燃えると自然が壊れると考えたのである。
しかしながら、現在は山火事には自然界で大きな役割を果たしていることが知られている。
自然発火の山火事により森林の世代交代を促す、生態系のリセット、太陽の光が地面まで届くようになるので草食性野生動物の餌場が増える等である。
先住民は獲物である動物が少なくなるとわざと山火事を起こして狩猟の場を作っていた。彼らは経験で山火事の重要性も知っていたのだった。この山火事の消火によって50年ほどほとんど山火事がない時期があり、これで国立公園内の草食性野生動物が激減してしまった。
その結果国立公園内の生態系が大きく変わってしまったのは言うまでもない。
他にも「プレデターコントロール」と呼ばれるハンターの的となるオオツノジカを食べてしまう捕食動物を駆除する作業なども行われた。

1950〜70年代になると、世界中で公害が発生した。
当時は生態系保全などの考えはなく生産性を上げるのが最優勢された時代だ。
その結果、ドイツの酸性雨やロンドンのスモッグ、日本では水俣病やイタイイタイ病などの公害が問題になり「どうやら自然壊すと人間住めない」という事件が多発することになる。
そこでやっと「生態系保全」が重要視される。

現在のバンフ国立公園のモットーは「全に対してが生態系保全が優先する」に変更されている。
なんと山火事を消火してしまった場所に「プリスクライブド・ファイヤー」と呼ばれる人工的に森に火を放っている。プリスクライブとは薬などを処方するなどという意味があり、その文字通り壊れてしまった生態系に本来起きるはずだった「火事」という薬を処方している。
大規模火災延焼を避けるため、毎年まだ残雪が残る5月に行われる事が多い。

このように、バンフ国立公園では自然保護の方法は時代によって大きく変化している。
そして日本はどうであろうか?

日本とカナダの自然保護の方法は全く異なる。
バンフ国立公園の場合、ほとんど人が住んでいなかった。少数生活していた先住民も狩猟民族故に一箇所にとどまって生活しないため、下水道のようなインフラを作るわけでもなかったのでほぼ人のいない状態といってよかっただろう。

一方日本は昔から多くの人が谷間の小さな土地でも定住しながら住んでいた。山林も林業でほぼ原生林はないと言って良い。

最近良く聞くのが「里山を守れ」
機械の入らなくなった田んぼなどが放置されると水が入らないのでどじょうやタニシなどがいなくなり、コウノトリなどの餌がなくなってしまう。
また、林業をやる人が少なくなったので山林が荒れるなどという声も聞く。
つまり日本では古来から生態系に人間が密接に入っている。
カナダに来て大自然を見た日本人が「カナダの自然はすごい!」と言うのはよく聞くが、実際のところ日本の方が人間が自然に近い生活をしていると感じる。

日本では人間が生態系に組み込まれているので、人間が生活様式を変えると生態系が変わってしまう。
カナダのバンフ国立公園と日本では生態系保全の方法や目的が全く異なる。

日本では生活様式を変えると生態系が変わってしまう。つまり、日本で生活する人全員が生態系保全に関われるという事でもある。
カナダの国立公園では政府が主導して大規模な生態系保全活動が行われる。
一方、日本では個人個人が生態系保全をコントロールできるという意識を持てば未来のためにできることの結果がカナダよりも大きのではないだろうか。

#未来のためにできること

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