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私の好きなある小話(頭の大きな不気味な男)

あるところに、妻と別れた男がいました。
男は美味しい料理を作りたいと考えました。


男はある時、料理をするために綺麗なキッチンを、動きやすい服を、立派な果樹園を作ろうとも思いました。けれども、いつまでも何もせず、働きもしないので生米ばかりを齧っていました。考える頭はどんどん大きくなりました。

とうとう食べるものがなくなりました。男は自分の足と胴と腕を食べました。自分を食べて、とうとう大きな頭だけが残りました。


これは私の好きな作家、北大路魯山人の「料理の第一歩」という話にある。彼は本文でこんなふうに言っている。

この男の考えることは、一つも間違ったことはなかった。ただ一つも行わなかっただけだった。世の中には、この気味のわるいおとこのはなし男の話を時々思う。

私たちは、したいと思っても、しようと思うのはなかなかだ。しようと思っても仕上げるまでには時を要する。だが、したいと思っている心を、しようと決心するには1秒とかからない。

北大路魯山人「料理の第一歩」

要は「行動が何より大事」という今となってはよくある教訓なのだけれど、嫌に心に残っている。頭の大きな不気味な男、とても耳が痛い話だ。



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