スパゲテイー素麺の勧め
今や、世界的スーパースターとなった某野球選手がパスタを塩のみで食べているということが話題となっている。
蕎麦通は、はじめに、蕎麦のみをすすりその香りを堪能するのが流儀であると言われている。
それぞれ、道を極めた方々の食べ方はきっと理にかなっているのだろう。
わたしは、スパゲテイーを素麺として味わうのを無情の悦びとしている。
太さ的には、冷や麦、いや、冷やしうどんの範疇に入るかも知れないが、私にとっては
スパゲテーは、素麺でならなければならない。
スパゲテイーにとっては、これ以上の理不尽さはないと言うことは、重々承知の上である。
500g入りの袋をバッサリと切り、グラグラと煮立った鍋に放り込む。
不安げなスパゲテイーの一団に、心の中で
一言「案ずるでない」と言葉をかけ
すぐさま、用意してあった生姜とネギを刻みにかかる。
生姜は、この場合、決してすりおろしてはいけない。
口の中で程よく舌を刺激するためには、生姜は、キャビアの粒ほどの大きさが必要だからである。
ネギは、出来るだけ細く輪切りにしてから、必ず一度冷水にさらすべし。
さらに、焼き海苔を浮世絵の線を意識しつつ
ハサミで切っていく。
決して焦ってはいけない。焦れば無惨にも黒い粉が台所を汚すばかりである。
そろそろ鍋にビックリ水を入れる頃合いである。
人によっては、無用と思われるかもしれないこの行為は、スパゲテイーが素麺として生まれ変わる非常に大切な儀礼であり、また水を
注ぐ際、小声でスパゲテイー達に
「お疲れ様です」
と、声をかけるのを決して忘れてはいけない。
一気にザルに鍋からスパゲテイーを流し込む。
この時点では、まだ、スパゲテイーたちは、己が素麺としてたべられることに気づいていない。
流水でしっかりと揉まれ、滑りと熱を奪われたそれは、すでに、素麺としての自我に目覚めた立派な佇まいである。
予め冷凍庫に入れておいた小鉢にめんつゆを注ぐ。
薬味のネギ、生姜を、これでもかというほどにぶちこみ、割り箸の先で三度かき混ぜ
細かく砕いた氷の上に妖艶に横たわった
スパゲテイーの上に海苔をはらり。
海苔が湿気るまえに、素早くスパゲテイーをたぐり、つゆにつけるやいなや一気にすする。
ああ、これが、食べたっかったんだ!!