本屋への愛しさと恐怖 2020_09_13(日)
社会人になり、たくさんの本を我が家の我が棚(棚も今年度になってから買った)に招き入れてきた。読みたい本をあらかた買って、棚の7割は未読か半読だ。そんなわけで本屋に行くのを控えていたが、昨日はフラグメント・ケースに七百円だけ突っ込んで、散歩と様子見に本屋へ行った。目的地は新宿で、ブックファースト新宿店と紀伊國屋本店をぶらりと梯子した(新宿の地下道ほど、「ぶらり」という言葉が似合わない場所って他にあるんだろうか?)。
ブックファーストに行くと、Paypayに対応した旨を告げるのぼりが立てられていて、七百円作戦はその効果を半減させる。今や、金銭的に物が買えない状態でウィンドウ・ショッピングをするのは困難だ。店内には相変わらず、ぞっとするほどの量の本が犇いている。必読!読むべき!綺麗な表紙!受賞歴!おもしろそうなタイトル!『冬の夜ひとりの旅人が』(イタロ・カルヴィーノ著)の第一章を思い出す。私は「あなた」と違って優柔不断だから、現在あなた(私)が没頭している事柄に関する本だとか、はっきりした理由はわからないが不意にやたらと好奇心がそそられる本だとかをうっかり手にとってしまいそうになる。ああ、だから本屋は嫌だったんだ!早足で店内を歩いて、目的の本、『時間の比較社会学』(真木悠介著)を探す。岩波現代文庫の棚を隅から眺めていたけれどなかなか見つからない。青色だよね?amazonの商品画像。青色だ。ないぞ!検索機で調べると「在庫あり」。学術108番。棚に戻って番号を頼りに探すと、最上段の真ん中にあるじゃないの。手を伸ばそうとしたが、棚の前に迫り出した平積みたちに腿が当たってしまう。左手後方に踏み台があったけれど、他にも現代文庫の棚前に何人かいたので、気後れしてしまった。私の手が届かない場所にあるのだし、まぁいいか、紀伊國屋も見たいしそっちで確認しようと諦めて店を出る。
地下道を通って紀伊國屋へ向かう。事前に調べたところPaypayは使えないがPASMOは使えるらしく、つまりそれは購入可能ってことだ。 階段を登って2階にたどり着くと、褐色の床と、黄土色の(木材の色を土で形容するのは奇妙だ)本棚が並んでいる。天井が低い。岩波現代文庫の棚を見つけて、背番号を辿ると、青ラベルの108番は欠番していた。なんだかどうでもよくなって、来た道を引き返す。
それからもう一度ブックファーストに戻って、岩波現代文庫の棚のところへ行くと、そこには誰もいなかった。爪先立ちになって、右腕を伸ばし、優しく108番を引き出す。幸いにも本棚には少し余裕があったので、くっと力を入れて引き出すと本は右手に収まった。
ぱらぱらと頁をめくって、目次を、次に内容を眺める。
文字だ。
一定の間隔で配置された、様々なかたちのインクの染み。それが何枚にも渡って続く。内容はまったく入って来なかった。わたしは疲れていた。
『時間の比較社会学』は今後読むリストに追加された。
下書きとして残っていたものを、辛うじて読める程度にして公開する(2020/10/31)