リレー日記(2024年5月13日~5月19日)文・nszw
バナナ倶楽部のメンバー4人が、1週間ずつ交代で日記を投稿します。今週の担当はnszwです。
5/13
夜、使いたいと思ったごま油が切れていることに気がついたが、もうスーパーとかコンビニとかに買いに行く感じでもなく、けっきょくサラダ油を代用したのだが、そういえば家からすぐ出たところに自販機があり、もちろんそこにごま油が売っているということはないのだが、一列に八個くらいの飲み物が並んでいるのがたぶん三列か四列ある、そうするとその自販機だけでも二、三十種類の飲み物が売られているはずで、そのうちの一個くらいごま油にしてくれてもよかろうにとも思った、しかし僕が自販機でごま油が買えればいいのにと今日のように思う機会なんてせいぜい年に一度くらいなもののはずで、僕の他にも近所のひとたちが同じことを思うとしても、せいぜいごま油は年に二十本くらいしか売れないだろう、そうなると自販機に置くには少し弱いか。自販機の横にも木が生えているが、僕はその木の名前ももちろん知らない。昨日長々とメモしたなかにあの木の名前はあるだろうか(*1)。
5/14
アンビエントっぽい音楽というのは散歩のときにこそその真価を発揮するのではないかというのが僕がさいきん気づいた大きな発見である。そのきっかけは、四月にイーノ&フリップの『イヴニング・スター』というアルバムのLPを、聴いたこともないのにメンツとジャケットのよさだけで買った帰り、実際にアルバムをアップルミュージックで流し、イヤホンで聴きながら歩いたときに、夕暮れの街並みに溶けてゆく表題曲の素晴らしさに思わず涙が出そうになったことだった。僕が散歩をするときにはイヤホンをせずに歩くか、イヤホンをする場合はラジオか音楽を流すという感じなのだが、その音楽の選択肢として急浮上したのが、一曲一曲が長いインスト、あるいはそれをつきつめたアンビエントっぽいものなのであった。『イヴニング・スター』からの流れでここ一ヶ月くらいはよくブライアン・イーノを聴いた。この土日の散歩ではイーノに加えて、サム・ゲンデル&サム・ウィルクスのダブルサムの新譜や、トータスの『TNT』、そして自然教育園を歩きながら思い出した流れでフィッシュマンズの『LONG SEASON』も聴いた。そして今日の昼には会社の周りを少しだけ歩きながらジム・オルークの『バッド・タイミング』を聴いた。これがほんとにいいアルバムで、そのまま長い散歩に移行してもいいくらいの気持ちよさがあったのだが、ちゃんとオフィスに戻った。こういうその日なにを聴いたかみたいなことだけを書く日記というのもかなり大切だと思っている。過ぎ行く日々のなかで、なにを聴いて感動したかなんてことさえも簡単に忘れてしまうからだ。
5/15
夜の二十二時頃まで雨が降らないという予報だったためベランダに洗濯物を干して会社に行ったのに、十八時頃に窓の外を見るとなにやら怪しげな曇り空。曇り空といっても、雨が降り出す場合と、ただ曇っているだけで雨が降らない場合がある。三十年近くも生きていればどっちなのかわかりそうなものだがたいていはわからない。でも今日の曇り空は雨が降り出すタイプの重苦しさを明らかに含んでいて、スマホで「天気」とググると──僕は一日に三度は「天気」とググる、そうするととうぜん僕のグーグルでの検索回数が最も多くなるので、スマホでグーグルの検索窓をタップすると候補の一番上に毎回「天気」が出るようになる──やはり雨が降り出す予定時刻が十九時台に早まっているのだった。
そうなると僕が帰るまでに雨が降り始め、洗濯物は濡れる。僕はその濡れた洗濯物をもう一度洗濯しなおして、明日あらためて干すことになる。でもここは一日に何度も「天気」を検索している僕なりの余裕が少しあって、僕は明日も晴れることを知っているので、さいあく今日濡らしてしまったとしても明日があるという心持ちに切り替えることができる。もちろん濡らさないに越したことはないが、しかし十九時までには帰れない──と諦めムードでいたところ、同居人が早く帰れそうだということで、洗濯物の取り込みをお願いした。そんなわけで洗濯物を濡らさずに済んだ。ありがたかった。
けっきょく洗濯物は濡れていないので、なにも起こっていない。こんな話も日記だから書ける。
ついでに日記くらいにしか書かなさそうなことでもうひとつ書いておくとすると、さっきペットボトルのごみ出しに行ったときに、ついでに自販機でなにか飲み物でも買おうと思って──というと僕がごみ出しをするたびになにか飲み物を買う奇妙な浪費癖を持っているようだが、そうではなくてまったくの気まぐれとして──見てみたところ、ひときわ目立っていたのがドデカミンだったのでまんまと買ってしまった、そもそもドデカミンとはなんなのかと思って調べると、ウィキペディアによれば
ということだそうだ(*2)、販売開始二十周年おめでとうございます!
5/16
夕飯は食べたのだがなんとなく小腹が空いてしまい、はてどうしようかと考えたところ家にそうめんがあることを思い出した。家にはそうめんとめんつゆがあるはずだった。ちょうどこの前の土曜日の昼にそうめんを食べたので僕はそれを知っていた。そのときにはそうめんをただめんつゆにつけて食べたのだが、それだとあまりにもさびしかった。なんといっても薬味、欲張ったことをいえば大葉やごまがあるとよいが、それが無理でも、まず、なにはともあれしょうがは欲しい。削ったりしなくていい。チューブでいいのだ。エスビーのチューブから二センチか三センチ分のしょうがをひねり出しておちょこに投じ、かき混ぜる。黄色い繊維が琥珀色のめんつゆのなかを舞う。あれがやりたいのだ。というわけでしょうがのチューブを買うべく、会社の帰りにコンビニに寄って、調味料エリアを見ると置いてあったのはお徳用、ふつうサイズのチューブ四本分のめちゃでかバージョンだった。
一般的にものごとはでかいほうがいいが、こと調味料にかんしていうと、一概にでかけりゃいいというものでもなくて、僕はエスビーのふつうサイズのチューブでさえ使いきれないことがしばしばだ。それが四本分ともなれば、最後の最後にブリュッと音を立てながら使いきっている姿などとうてい想像できない。四本分! それを買うということはすなわち、この夏めちゃくちゃそうめんを食いまくるということを宣言するか、あるいは不審な人物に襲われたときに目くらましとして発射するための護身用として携帯するか、その二通りしかありえないということになるが、とにかく僕はその四本分のお徳用しょうがチューブを買ってしまったのである。
どうしたものか!
帰宅したら炊飯器が光っていて、そういえば昨日の夜に炊いたご飯がまだ残っていたということを思い出した。なので今日はそれを食べた。しょうがチューブはまだ開けていない。しょうがでご飯はいけない。
5/17
今日は激ネムのため寝る。
5/18
昨日は『恋するプリテンダー』を観た。基本的にはアホなことしか起きていないのにやたらとテンポがよく、やたらと美しい瞬間もあったりして、とても楽しく観ることができた。登場人物それぞれの事情はほのめかしつつ、テンポが悪くなりそうなのであれば(あるいは、物語であっても個人の事情にはむやみに立ち入らないという主義ゆえにか)詳細には描かない。そんな時間があったらハプニングを描くことに費やす。心や身体が強く揺さぶられる瞬間を映す、という映画の原則にきちんと則っている感じがあって、気持ちのいいラブコメだった。次の日にほとんど余韻が残っていないのもいい。
というその次の日である今日はまず同居人が午前中に美容院を予約していて、僕も家にいてはだらだらするだけだと思ったので一緒に家を出て、同居人を美容院まで送り届け、しかしその美容院がどの駅からも微妙に遠い場所にあったために近くに時間をつぶせそうなカフェっぽい施設がなく、しばらく屋外をさまよった。天気予報によれば今日はたしか二十九度近くまで気温が上がるはずの日で、おとといだったか、二十五度くらいの日にもなかなかに暑さを感じて、来たる夏におののいたばかりだったので、二十九度という今日の気温をどう感じてしまうのか興味半分怖さ半分という心持ちだったのだが、いざ外を歩いてみると、たしかに日差しも二十五度のときより強いし汗ばむのだが、不思議とこれはこれで受け入れられたというか、これが昔のJ-POPで歌われていたように「カラダが夏にナル」ということなのかもしれないと思った。僕のカラダはもう夏にナッたのだろうか。心のなかを探ってみると、たしかに僕はもうこの五月中旬という現在を春だとは思っていないのであり、しかしかといってもう夏であるというつもりがあるわけでもなかったのだが、カラダは正直だということかもしれない。
さまよった末にけっきょく最寄り駅のほうに戻ってカフェに入って千葉雅也の『勉強の哲学』をようやく読み終えた。
美容院を出た同居人と合流。かなりいい髪型になっていた。今日の夜はBLUE NOTE PLACEで三週間前くらいに予約したレゲエの演奏を聴く予定があったので、その前に『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を観ておこうという話になり、うどんを食べてから観に行った。映画自体はどうにもテンポがあまりよくない感じがしたが(ためてためて最後に帰国後のコンサートを描くところがクライマックスなのかと思いきやそこをやらずに終わってしまったので拍子抜けした)、ボブ・マーリーのことやレゲエの精神を学べたのと大音量で曲が聴けたのはよかった。一度帰宅してから、わりと近所にあるのに一度も行ったことがなかったBLUE NOTE PLACEへ。今日はジャマイカ出身のMacka Ruffinというレゲエミュージシャンの演奏で、正直そのひとのことを知っていたわけではなく、前々から一度行ってみたかったところにちょうどレゲエという盛り上がりそうなプログラムが組まれたのでいいチャンスとばかりに予約してあったのだった。しかし映画を観たあとでは「レゲエは盛り上がりそう」なんて軽薄なことばかりをいっているわけにもいかない。実際盛り上がる音楽であることに間違いはないのだが、そこには多分に宗教的・政治的要素も含まれることを忘れてはならない。
演奏はかなりよくて、端的に、やっぱり生演奏ってちゃいますね、という感想を持った。Macka Ruffinは日本歴が長いということもあって日本語も交えながらの盛り上げが非常にうまく、終盤にかけて客席の手拍子も徐々に大きくなり、Macka Ruffinも元気よくステップを踏む、ドレッドヘアをぶん回す、ボブ・マーリーの曲もふんだんにやる。レゲエという音楽はやはりベースとドラムがかなり重要で、演奏中に次のタメを何回にするかを指で合図していたのがかっこよかった。
帰ってきてからは『THE SECOND』を追っかけで見たが、途中で同居人が疲れて離脱したので僕も停止して寝る。
5/19
以前同居人がYouTubeで見つけた、ハリセンボンの二人が藤井隆にガイドされながらシズラーのモーニングサラダバーを体験するという動画を僕も何週間か前に見て以来いつか行ってみたいと思っていたのだが、今日ちょうど同居人が友だちとシズラーに行くというので、少し申し訳ないと思いつつ僕も同行させてもらった。シズラーはロイヤルホスト系列の最高のレストランっぽいのだが、僕はこれまで聞いたことがなく、それもそのはず、店舗数はロイホよりも遥かに限られる。都内にも店舗はあるのだが、今日はみなとみらいにまで行った。そんなわけで早起きをした。
桜木町駅からコンコースの動く歩道に乗って、ランドマークタワーに向かう。その一階にシズラーはある。同じフロアには他にも飲食店があって、たとえばコメダ珈琲の和風の業態、その名も「おかげ庵」というのが入っていたりしてモーニング激戦区となっている。
シズラーサラダバーメモ:シーフードサラダはカニカマがかなり入っていてうれしい。ヤングコーンがあってうれしい。注文時に一枚八十円でプラスできるチーズトーストがうまい。オニオンスープはコンソメがしっかりきいていてロイホを彷彿とさせる味。グリーンゴッデス(Green Goddess)というかっこいい名前のドレッシングがある。タコスコーナーがあり、アボカドのクリームもあってうれしいが、盛りすぎると飽きる。ジャワカレーがうまい。ビーフカレーもうまい。ボロネーゼもうまい。カフェラテがうまい。ただしコーヒーマシンは抽出に時間がかかるため、後ろにひとが並ぶと圧を感じてしまう。僕が遅いんじゃなくて、マシンの都合で時間がかかっているんです、ということを伝えるために、ほんのり片足体重でマシンの進捗をしっかり凝視する必要がある。ちっさいプリンがうまい。パンケーキもうまかったらしい。
満腹状態でシズラーを出て、海沿いを散歩してから電車に乗った。早起きだったのもあって、電車では寝た。電車で寝るのはなんだか久しぶりだった。電車で寝るとき、顎を上げるか下げるか、ひとはだいたい二通りに分かれるが、僕は昔から顎を下げる、そうすると寝ているうちに首筋にほんのり汗をかいたりする、その感じが懐かしかった。そのまま僕は帰宅せずに文フリに行った。モノレールは何度乗っても楽しい。しかし今年の秋から東京の文フリは有明のビッグサイト開催になることが発表されているので、そうなるともう流通センターには用がなくなってしまうし、モノレールに乗る機会も減るだろう。と思ったがビッグサイトにはゆりかもめが通っていて、そちらはそちらで楽しいだろう。文フリでは、いぬのせなか座や、会社の先輩が寄稿している文芸誌のブースに行きつつ、ふらふらしているとどくさいスイッチ企画さんがいて、思わず話しかけた。すごく物腰の柔らかい方だった。落語台本集を買わせていただいた。あと少し回っているうちにお金がなくなってしまったので早々と退散した。文フリへの行き帰りではビリー・アイリッシュの新譜を聴いた。横綱相撲という感じがしてよかった。
最寄り駅まで戻ってドトールで読書。そのあとネイルを落としてきた同居人と合流してスーパーで買い物して帰宅し、夜ご飯を作って食べ、『THE SECOND』(*3)の続きを見、入浴、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を途中まで復習し、日記を書き、寝た。
*1 というのも僕はこの前の日(5/12)に目黒の自然教育園に行って、木にぶら下げられた名札を見てはその都度立ち止まり、スマホに木の名前をメモしていたのだ。どうしてそんなことをしたかというと、木を見て「木だ」としか思えないじじいになってはまずいという危機感があり、少なくともどんな種類の木なのかどうかくらいは把握できるようになりたいということで、手始めに実践演習から入ったのだった。メモ歴:「むらさきしきぶ ひめぐるみ もくれいし まゆみ くろまつ あかしで ちどりのき くぬぎ やまぼうし あらかし しらかし きはだ しきみ あかがし いぬざくら やぶつばき こぶし がまずみ あおき すだじい えのき こぶし むくろじ はくうんぼく くすのき はぜのき うるし こくさぎ ねむのき ねずみもち はまくさぎ たぶのき いいぎり いろはもみじ むくのき さわら ごんずい あかまつ えごのき かまつか あわぶき かや しろもじ さわしば いぬびわ しきみ こなら ほおのき はりぎり あさだ あぶらちゃん つるうめもどき」
*2 ちなみに「ファイトバクハツ」というコンセプトからとうぜん思い浮かべられる類似商品リポビタンD(「ファイト一発」)の販売開始年は一九六二年とかなり古く、商品の歴史もウィキペディアの長さも段違いだった。というかドデカミンのコンセプトが「ファイトバクハツ」だなんて僕は知らなかった。先行している商品にあからさまにかぶせていったにもかかわらずそこまで浸透せず、栄養ドリンク的な地位も築くことができず、しかしきちんと二十年生き残っている。それはそれでとても素晴らしい。
*3 ガクテンソクの一本目が一番好きだった。去年に続き、いい大会だと思った。