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低反発バットが高校野球を変えている

夏の甲子園で異変が起きている。優勝候補と目された強豪が、序盤戦から姿を消すケースが相次いでいるのだ。その要因として考えられるのが低反発バットの導入だ。今年の春から全国で用いられ、圧倒的な打力で鳴らす学校がその実力を封じ込まれているようだ。春の選抜大会に続き、夏の全国選手権でも投手力優位の傾向は顕著といえる。


大阪桐蔭がまさかの完封負け

その象徴は、大阪桐蔭の2回戦敗退だ。小松大谷(石川)との対戦で5安打に封じ込まれ、夏の甲子園50戦目という節目の試合で初の完封負けを喫した。従来の大阪桐蔭であれば、相手をねじ伏せるような打力を見せたものだ。しかし、この日は小松大谷のエース、西川大智を前に凡打を重ね続けた。

毎日新聞の記事によれば、履正社(大阪)を2019年夏に全国制覇へ導き、今は東洋大姫路(兵庫)を率いる岡田龍生監督は「大阪桐蔭戦も、前のバットだったら外野の頭を越えるような打球がアウトになる場面があった」「(強力打線を擁しても)相手投手に丁寧に投げられると、打つのは難しい。接戦になれば(どちらに転ぶか)分からないし、タイブレークになったらもっと分からない」と話している。

ロースコアの試合が増えると当然、延長戦が増える。今は延長に入ると十回からタイブレークになる。試合を長引かせないため、無死一、二塁の場面からプレーを始める。早く決着をつけるための制度であり、ワンチャンスを生かしたチームに勝機が転がり込む。今大会でも、強打で知られる智弁和歌山が、霞ケ浦(茨城)に接戦に持ち込まれ、延長タイブレークの末、4-5で敗れた。

他にも強豪の敗退が相次いでいる。選抜大会の覇者、健大高崎(群馬)や同準優勝の報徳学園(兵庫)などが2回戦までに甲子園を去って行った。

投手の受傷事故防止が目的だったが

高校野球に金属バットが導入されたのは1974年からだ。メーカー側は改良を重ね、飛ぶバットの開発が進んだ結果、打力優位の傾向が強まってきた点は否めない。しかし、試合が大味になり、大差の試合も多くなる。試合時間は長くなり、投手の投球数も増えていく。現在、木製バットが使われている社会人野球も、金属バットの時代は本塁打が量産され、野球そのものが変わってしまうとの危惧から木製バットに統一された歴史がある。

高校野球では、投手を直撃するようなライナーの打球に危険を指摘する声も上がっていた。練習試合では死亡事故が起きた例も報告されている。以前、日本高校野球連盟ではバットの重さを900㌘以上と規定することによって、バットを振りにくくする方策を取った。だが、筋力トレーニングの発達により、高校生でも重いバットを振りこなせるようになった。


アメリカでは反発を抑えた金属バットが用いられている

そこで、今回はバットの反発力を抑える「低反発バット」の導入に踏み切った。2022年から2年間の移行期間を経て今春から正式導入され、全国の加盟校に日本高野連から3本ずつが配布された。

新基準のバットの変更点は①バットの最大直径をこれまでの67mm未満から64mm未満と変更する②打球部の肉厚を従来の約3mmから約4mmとする――という2点だ。日本高野連による実験では、従来のバットより打球の初速が約3・6%減少したという。基準を満たしたバットには従来の「N」に代わって「R」のマークが表示されている。

低反発バットが初導入された今春のセンバツでは、本塁打がわずか3本しか出ず、金属バット導入後では最少を記録した。外野手の頭を越すような打球も減り、投手優位の傾向が明らかになった。

「7回制」が導入されれば野球はもっと変わる

近年、次々と改革案を打ち出されている高校野球だが、今後、最も注目されるのは「7回制」導入の是非だろう。酷暑下の大会運営で「朝夕2部制」が実施しやすくなるだけでなく、投手の負担も大幅に軽減される。選手、審判、観客の熱中症対策としても有効だろう。すでに18歳以下(U18)ワールドカップなど同年代の国際大会でも採用されている。

今夏の甲子園大会開幕を前に、7回制の検討が日本高野連内で既に行われていることが発表された。監督経験者や医師らをメンバーとするワーキンググループが議論を重ね、12月の理事会にメリット、デメリットを踏まえた報告書を提出するという。

7回制が導入されると、もっと投手傾向が強まることは間違いない。投手の負担軽減を目指すため、近年は「複数投手制」が提唱されてきた。先発、中継ぎ、抑えと複数の投手を抱えるチームが有利に試合を進める。だが、7回制が採用されれば、1人でも少ない球数で1試合を投げ切れる。そうなれば、多くの投手を有する強豪校でなくとも、「スーパーエース」的な存在が1人いれば、接戦に持ち込み、勝てるチャンスが高まるというものだ。

日本高野連の検討の行方は?

強豪といわれる私立校と、地方の公立校との実力差は年々広がっているのが現状だ。7回制はそういった状況に歯止めをかけることになるかもしれない。

強豪校の監督の間からは「9回やるのが野球だ」「7回にすると戦い方が変わってしまう」「選手の出場機会が減ってしまう」などと現行の9回制維持を求める声も上がっている。ただ、選手の健康や安全を重視する意見と比較した場合、どちらに合理性があると判断されるか、議論の行方を注目したい。


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