番十兵衛

スポーツジャーナリスト・評論家。スポーツを文化的な視点で論じていきます。

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最近の記事

野球用品から手を引くアシックス   ―球児減少の影響は避けられず

スポーツ用品メーカー、アシックスが2025年9月で、スパイクなどシューズを除く野球用品市場から手を引くことになったという。もともとはシューズメーカーだが、今回の動きを単なる事業の「選択と集中」とみなすわけにはいかない。日本を代表するメーカーが、グラブやバットの製造・販売から撤退する背景には、競技人口の急速な減少があることは疑いがないからだ。 ダルビッシュや鈴木誠也がアドバイザリー契約 アシックスとアドバイザリー契約を結ぶプロ野球選手は11人いる。メジャーリーガーではダルビ

    • ベースを大きくするというMLBの発想

      米大リーグ(MLB)、ドジャースで活躍する大谷翔平の「50-50(50本塁打、50盗塁)」という記録達成をめぐって、注目したいルールがある。昨年から米国ではベースを大きくするという規則改正を行ったからだ。なぜそのような変更がなされたのかを考えてみることは興味深い。 わずか11.43センチに見る攻防 MLBでは2023年から一塁、二塁、三塁のベースの大きさが拡大された。日本には、米国のルール改正が1年遅れで入ってくるが、今年、日本で発行された「公認野球規則」の2.03には次

      • トヨタに続きパナソニックも-相次ぐ五輪協賛社の撤退

        オリンピックの最高位のスポンサーである「ジ・オリンピック・パートナー(TOP)」であるパナソニックが、今年末をもって契約を更新しないことが発表された。すでにトヨタ自動車も国際オリンピック委員会(IOC)との契約をパリ五輪を最後に今年で終了することが報じられており、世界的な日本企業の相次ぐ撤退となる。五輪のマーケティングに何が起きているのか。 37年間も最高位のスポンサーであり続け 契約終了にあたって、パナソニック・ホールディングスの楠見雄規社長は「これまで37年間、協賛活

        • 「ボストン1947」-孫基禎の生涯に思いを巡らせる

          孫基禎(ソン・ギジョン)といえば、1936年ベルリン五輪のマラソンで優勝した名ランナーとして知られる。日本が朝鮮を支配していた時代であり、孫は日本代表として五輪に出場し、今も金メダルは日本選手が獲得したものとして数えられている。第二次世界大戦後、植民地支配から解放された朝鮮で、孫はどうしていたのか。8月末に封切られた韓国映画「ボストン1947」がその姿を伝えている。 民族問題に発展した日章旗抹消事件 ベルリン五輪のレースを制した孫は、3位に入った南昇竜(ナム・スンニョン)

        野球用品から手を引くアシックス   ―球児減少の影響は避けられず

          「パリ・パラリンピックに参加しない」 一石を投じるアスリートたちの訴え

          パリでの熱戦が始まったパラリンピック。開幕を前に、各国の選手たちが「私はパリ・パラリンピックに参加しない」というメッセージをSNSに投稿し、話題になった。どういう意味が込められた発信なのか。その経緯を見ると、障害者スポーツを取り巻く意識の変化が見えてくる。 上地結衣選手もインスタで 日本の選手の中では、車いすテニスの上地結衣選手がインスタグラムに英語のメッセージが表示された画像を投稿した。 “I won’t be participating at the Paris 2

          「パリ・パラリンピックに参加しない」 一石を投じるアスリートたちの訴え

          離島でもう一つの「甲子園」―村田兆治さんの願いは今も生きている

          阪神甲子園球場で高校球児の熱戦が繰り広げられている同じ時期に、遠く離れた長崎県壱岐市で、もう一つの“甲子園大会”が行われていた。全国離島交流中学生野球大会、いわゆる「離島甲子園」だ。 全国から中学生の23チームが出場 地理的条件に恵まれない離島の中学生に全国大会の機会を設け、島と島の友好を広げる目的で毎年夏に行われている軟式野球のトーナメントは、今年で15回目を迎えた。大会は2008年から始まり、全国各地の離島で開催されている。 今年は佐渡島、伊豆大島、八丈島、隠岐の島

          離島でもう一つの「甲子園」―村田兆治さんの願いは今も生きている

          低反発バットが高校野球を変えている

          夏の甲子園で異変が起きている。優勝候補と目された強豪が、序盤戦から姿を消すケースが相次いでいるのだ。その要因として考えられるのが低反発バットの導入だ。今年の春から全国で用いられ、圧倒的な打力で鳴らす学校がその実力を封じ込まれているようだ。春の選抜大会に続き、夏の全国選手権でも投手力優位の傾向は顕著といえる。 大阪桐蔭がまさかの完封負け その象徴は、大阪桐蔭の2回戦敗退だ。小松大谷(石川)との対戦で5安打に封じ込まれ、夏の甲子園50戦目という節目の試合で初の完封負けを喫した

          低反発バットが高校野球を変えている

          パリ五輪が残した「宿題」とは

          パリ・オリンピックが閉幕を迎えようとしている。「花の都」の観光名所を活用した会場設定で、世界の人々に街の美しさや華やかさをアピールした大会だった。ただ、競技を運営していく面では大きな課題が残された。参加選手数が男女同数になったと国際オリンピック委員会(IOC)は強調したが、その半面、ジェンダー平等の環境を実際の競技にどう落とし込んでいくかは見えないままだ。 女子ボクシングの「性別」問題 国際的な論争に発展したのは、ボクシングの女子種目における「性別」を巡る問題だった。昨年

          パリ五輪が残した「宿題」とは

          クーベルタンの思想を2冊の本から読み解く(下)

          前回の投稿(上)では1962年に初版が出た「ピエール・ド・クベルタン オリンピックの回想」(大島鎌吉訳、カール・ディーム編)を紹介した。今回取り上げるのは、それから約60年がたった2021年に出版された「ピエール・ド・クーベルタン オリンピック回想録」(伊藤敬訳、日本オリンピック・アカデミー監修)である。原文からの直訳で、より読みやすくなったクーベルタンの言葉から今の五輪や世界の平和構築につながる思想を考えたい。 新訳書はフランス語からの直訳 大島鎌吉氏が訳した旧訳書は、

          クーベルタンの思想を2冊の本から読み解く(下)

          クーベルタンの思想を2冊の本から読み解く(上)

          近代オリンピックの創始者、ピエール・ド・クーベルタン男爵が残した書物を日本語で読めるのは、現在2冊しかない。一つは1962年に発刊された『ピエール・ド・クベルタン オリンピックの回想』(カール・ディーム編、大島鎌吉訳)だ。もう一つは2021年に改めて翻訳された『ピエール・ド・クーベルタン オリンピック回想録』(日本オリンピック・アカデミー監修、伊藤敬訳)である。クーベルタンの故郷、パリで開かれる五輪に合わせ、この2冊から五輪のあるべき姿とは何かを探ってみたいと思う。 パブリ

          クーベルタンの思想を2冊の本から読み解く(上)

          パリ五輪に無条件で出場するイスラエルの歴史的背景

          パリ・オリンピックは、世界で二つの「戦争」を抱える中で開幕を迎える。ウクライナに侵攻したロシアと、それに協力したベラルーシの選手は国家の代表としての出場を禁じられている。一方、パレスチナ自治区ガザに攻撃を続けるイスラエルは何の条件もつけずに出場できる。この違いは何なのか。 ロシアとベラルーシは出場が禁じられているのに 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、ロシアがウクライナ東部の一部地域のスポーツ組織を併合したことが「ウクライナ・オリンピック委員会の領土一体性を

          パリ五輪に無条件で出場するイスラエルの歴史的背景

          日本人初の五輪参加はアイヌ男性だった

          日本選手団の壮行会も終わり、パリ・オリンピックの開幕がいよいよ近づいてきた。ところで、日本の五輪史を振り返ると、気になる話がある。日本人として初めて五輪に参加したのは、金栗四三(マラソン)と、三島弥彦(陸上中短距離)だとされているが、本当にそう言い切っていいのか、という問題だ。2人は大日本体育協会から派遣され、1912年ストックホルム五輪に出場した。しかし、それ以前に五輪の舞台に招かれた人たちがいる。北海道に古くから根を張って暮らしてきたアイヌ民族だ。 1904年セントルイ

          日本人初の五輪参加はアイヌ男性だった

          反骨のスポーツジャーナリスト、谷口源太郎さん逝く

          スポーツを社会的視点からとらえ、政治利用や商業主義化を徹底批判したジャーナリスト、谷口源太郎さんが86歳で亡くなった。スポーツを感動的に報じる風潮が強い中で、谷口さんはそれを食い物にしようとするものを許さないという姿勢を貫いた。権力にも屈しない、まさに反骨の人だった。 長野五輪で堤義明氏を徹底批判 1938年、鳥取市に生まれ、早稲田大を中退後、講談社や文藝春秋の週刊誌記者として報道の世界に足を踏み入れた。1985年にフリーランスになった後、闘志を燃やして取り組んだのは、長

          反骨のスポーツジャーナリスト、谷口源太郎さん逝く

          夏の甲子園は「7回戦制」で酷暑の問題を解決できないか?

          夏の甲子園を目指す全国高校野球選手権大会の地方大会が始まった。南北北海道と沖縄県が22日に幕を開け、7月上旬からは全国で大会が本格化する。夏本番に向け、運営側が警戒するのは酷暑下での熱中症だろう。今年は8月の甲子園大会で3日間のみ「朝夕2部制」が採用されるが、まだ試験導入という。選手や観客の健康を守るには、どんな手があるのだろうか。 朝夕2部制に立ちはだかる「1日4試合」の壁 朝夕2部制は、8月7日開幕の甲子園大会からの導入となる。主催者である日本高校野球連盟と朝日新聞社

          夏の甲子園は「7回戦制」で酷暑の問題を解決できないか?

          エムバペの政治的発言をどう読むか

          サッカーの欧州選手権(EURO)で、フランス代表主将、キリアン・エムバペの発言が物議を醸している。記者会見で言及したのは、試合に関わる内容ではなく、フランスの国民議会(下院)選挙のことだったからだ。フランスで極右勢力が台頭する中、エムバペは「極端な勢力が権力の座を勝ち取ろうとしているのは誰の目にも明らかだ」と述べ、若者らへの投票行動を呼び掛けた。最近はトップアスリートの政治的発言が目立つ。どう考えるべきか。 「分断」の溝を広げると極右勢力を批判 発言が飛び出したのは、初戦

          エムバペの政治的発言をどう読むか

          部活動の不祥事とメンタルヘルスの関係

          部員による違法薬物の使用で日大アメリカンフットボール部が廃部となるなど、体育界系の部活動で不祥事が後を絶たない。高校でも上級生による暴力やいじめなどが常に問題となっている。根本的な原因を考えると、そこには選手たちのメンタルヘルスが関わっている。その鍵を解く一冊の本がある。 閉鎖的な環境が選手を追い込む 近ごろ発売された『10代を支える スポーツメンタルケアのはじめ方』(大和書房)は、若いアスリートたちが陥る精神的な問題を詳細に分析している。著者の小塩靖崇(おじお・やすたか

          部活動の不祥事とメンタルヘルスの関係