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「黒人」とは誰を指す?アメリカの報道をみて南アフリカから思ったこと

ちょっと時間がたちますが、アメリカの大統領選挙が終わりましたね。

副大統領のカマラ・ハリスさんは、女性初、有色人種/黒人初として話題になりました。

アメリカの著名人の中には、"黒人"の方も多くいますが、いわゆる"黒人"南アフリカ人のパートナーは「とはいっても、アフリカ系アメリカ人と言ってもほとんどはミックスでしょ?」と。

ちょっと気になったのでいろいろ調べてみました。

カマラ・ハリス氏は黒人か?

日本語や英語のニュースをみても、「アフリカ系アメリカ人」「インド系の血も引く」「African and South Asian」「woman of color」などと書かれています。

メディアによっては日本では「黒人女性」と言い切っているものもいくつかあるみたいですね。

とはいえ、彼女はジャマイカ系とインド系の移民である両親のもとに生まれたようです。

アフリカ大陸で、アフリカ系黒人のパートナーと暮らしているものとしては、「なるほどそれでもアメリカでは、有色人種は黒人になってしまうのか?」と感じます。

いずれにせよ、マイノリティであることは事実で、アメリカの歴史に残る快挙だと思います。

アメリカにおける「黒人」の定義には、興味深い歴史があるようです。

アメリカにおけるOne-Drop rule

カマラ・ハリス氏が「黒人」と呼ばれるのは、おそらく「One-drop rule」というかつてのルールがあるようです。

これは、「一滴でもアフリカ系(黒人)の血が流れていれば黒人」だとする定義で、20世紀前半に法的に定められました。

「見えない黒人」を特定するために、センサスなどの統計の時も、自分自身のアイデンティティや見た目に関係なく、黒人の祖先をもつものは「黒人」と明記しなければいけませんでした。
(現在は廃止されています)

元大統領のバラク・オバマ氏も、黒人大統領として扱われていましたが、バラク・オバマ氏の片親はいわゆる"白人"です。
しかし、彼の白人性について語られることはほぼありませんでしたよね。

これについて調べていてはじめて知ったけれど、有名なゴルファーであるタイガー・ウッズも、本人のアイデンティティは「黒人(アフリカ系)」ではなく「アジア人」の方が強いといいます。本人は自身のエスニシティをCablinasian(Blend of Caucasian +‎ Black +‎ Indian +‎ Asian)という言葉を作って使っています。
母親は、タイ、中国、オランダのミックス、父親はアフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカン、中国のミックスらしいのです。

と、ひとことで黒人、アフリカ系といわれる人たちも、かなり複雑なバックグラウンドを持っている人も多いんですね。

アイデンティティもそれぞれ多様なのだと思います。


アメリカにおける人種区分は常に変化している

南アフリカに住んでいると、アパルトヘイトが終焉して、リベラルな国になったと言っても、人種を意識する瞬間やニュースを聞くことが多々あります。

(余談ですが、今年大きな話題になったものの一つは、大手薬局の広告。アフリカ系のモデルを使って、アフロヘアを「ダメージヘア」、ヨーロッパ系のモデルを使って「ノーマルヘア」などと表現して大きな批判を受けました👇)


最近「レイシズム(ルース・ベネディクト著)」を読んでいるのですが、人種の歴史は非常に興味深いです。

誰が白人(特権階級)か、黒人か、などは時代や時の権力、社会情勢によって変化します。

初期のアメリカでは、少遅れた移民してきたアイリッシュやポーランド系の移民は劣等とされていた歴史もあるようです。

今の時代、人々のルーツはより多様になっています。
アメリカにおけるセンサスの人種カテゴリーについて少し調べてみたら、時代によって変化していて面白かったので少し書かせてください。

2020年のセンサスからは、「白人」と「黒人/アフリカ系」、「ネイティブアメリカン」を選んだ人は、さらに細かいルーツを記載することになるみたいです。

興味深いのは、レバノンやエジプトなどのアラブ系の人も白人の中に入っていることですかね。
上述したように、昔はアイリッシュやポーランド系まで、白人と分けて考えられていた時代もあると思うと、かなり変化していますよね。

黒人/アフリカ系と一言で言っても、アフリカ系アメリカ人(奴隷として連れてこられて、以前のルーツが辿れない人)、ナイジェリア、エチオピア、ジャマイカなど、多様です。

かなりカテゴリーが多いですが、アイデンティティが複数にまたがっている人は、その他に記載するのかな‥?


(アパルトヘイト下の)南アフリカでは、バラク・オバマ元大統領は黒人ではない?

ちなみに、南アフリカの話をしますが、悪名高い人種隔離/差別政策であるアパルトヘイト政権下では、人種は4つのカテゴリーに分かれていました。

白人、カラード、インディアン、黒人

カラードとはいわゆる混血の人たちで、ヨーロッパから入植してきた人々が現地の住人や奴隷として連れられた人と通婚して生まれたといわれています。

白人の血が入っているバラク・オバマ氏は、南アフリカではカラードと呼ばれ、黒人とは異なる扱いを受けたのかもしれません。

また、南アフリカ生まれでアメリカで有名なコメディアンのトレバー・ノア氏も、南アフリカでは「黒人」とはみなされないかと思います。(実際に、彼が南アフリカの親戚を訪れるドキュメンタリーを見たのですが、幼少期彼の生まれのタウンシップでは、「白い子」と呼ばれてたそう)
彼も片親がヨーロッパ系なのです。

ちなみに、アパルトヘイト下では人種間の結婚や恋愛は禁止。その時代に、白人と黒人の間に生まれたトレバー・ノア氏は、その出生自体が違法なことでした。
(とはいえ、その時代にも違う人種の間に生まれた方はそれなりにいらっしゃるようです)


ちなみに、このアパルトヘイト時代に使われた4つの人種区分は、今でも見かけることがあります。
その背景には、かつての差別的な政策によって、資本や教育へのアクセスが限られていたグループに対して、アファーマティブアクションが取られていることがあります。その際に、この旧体制の区分が必要なのはわかりますが、私のような日本人やアラブ系の人は、どこにチェックをしたらいいか、迷いますよね。
(政府の調査や大学のアンケートでも、なぜか「その他」がないんですよ)

もちろん今では人種間の恋愛も結婚も自由。
カラードは、ピラミッドでいうと白人の次に来るけど、例えばインド系とアフリカ系のミックスの子どもは、どこにチェックするの?カラード?
私たち(黒人と日本人)の子どもはどこに分類される?

今は2020年。アパルトヘイトが終わり、1994年にネルソン・マンデラが大統領になってから26年経ちました。

今はまだ、この人種カテゴリーの見直しなどの議論は聞きませんが、人口動態や格差の解消具合(解消にはまだまだ程遠いですが)によっては、カテゴリーが見直される日もくるのかしら。とぼんやり考えたりします。


半世紀にもわたる差別政策の影響は大きく、今でも土地の8割は、人口でいうと1割を切っている白人の人が所有しています。

アファーマティブアクションは必要だと思いますが、それを続ける限り、不要になったはずの旧体制の人種区分を使い続ける必要があるのは、なんとなく皮肉な気もします。


あなたは人種を聞かれたらどう答えますか?

便宜上、白人、黒人などの言葉を使ってしまっていますが、その背景は複雑です。

国や文脈によっても異なります。

みなさんは自分の人種を聞かれたらどう答えますか?


日本人、は人種なんですかね。

アジア人であるというアイデンティティは、南アフリカに越してきてから強くなってきたように思いますが、アジアってめっちゃ広いです。

インドと中国をいっしょにするのは暴論な気もするし、アジアの西の端はどこでしょう?
西アジアというとトルコあたりまで入るのでしょうか?
アラブ圏も入るのでしょうか?アラブ人はアメリカのセンサスでは白人です。

答えはないのでしょうけれど、調べて考えたことでした。



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