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ディジュリドゥの黒い蜜蝋の謎 - 後編
前編ではアボリジナルが作るディジュリドゥのマウスピースに時折付けられる黒いミツロウは、養蜂家「うちのにわ」さんの指摘でプロポリスであることが分かりました。ではそのプロポリスって何なんでしょう?
ミツロウとプロポリスの成分の違い
ミツロウはハニカム構造になった蜜蜂の巣から採取されるもので、蜜蝋というだけあって蝋(ロウ)であり、古来ろうそくや接着剤などに使われてきました。プロポリスは巣の隙間を埋めるためにみつばちが集めてきた樹脂などで作られる樹脂製混合物です。
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ワックス成分が70%を占めるミツロウに対し、プロポリスは樹脂55%にワックス30%と成分がかなり異なっています。樹脂といえば日本人がイメージしやすいのは漆(うるし)や松脂(まつやに)でしょう。いずれも粘度がある状態で採取され、コーティング剤として使われています。
英語でミツロウがBees Wax(ロウ)と呼ばれるのに対して、プロポリスはBees Glue(接着剤)と呼ばれていて、その使用用途の違いが伺えます。日本語では蜂ヤニとも呼ばれています。
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ミツロウの融点は62~65℃でプロポリスは60~70℃なので、溶ける温度に大きな差はありません。
ディジュリドゥのマウスピースにはどちらが向いているのか
マウスピースにつけた時の使用感で見てみると、プロポリスの方が若干硬く、表面がよりつややかになる印象です。経年変化による硬化はプロポリスの方が強く、古いディジュリドゥや槍投げ器についているプロポリスは硬くなって割れていたりします。一方ミツロウは経年変化によって硬化することは少なそうです。
価格には大きな差があり、西洋みつばちの巣から大量に採取できるミツロウに対して、シュガーバグのプロポリスは巣の上下の部分と現地で鼻と呼ばれる出入り口部分しかありません。
マウスピースにはある程度の硬さが必要であることから、プロポリスの方がディジュリドゥのマウスピースとしての有用性が高いように感じますし、硬化が進む点では長期的な面で見ても優位性があるでしょう。
プロポリスの拾集とディジュリドゥ
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以前イダキマスターの奥さまと妹さんと共にブッシュに行った時、彼女たちはイダキ・カッティングそっちのけで、ハニー・ハンティングをしていました。ミツバチが蜂蜜をためこんでいる時期は限られていますし、彼らにとって天然のスイーツなので当然な事なのかもしれません。
ブッシュと呼ばれる疎林の空中を飛ぶハエのようなサイズのシュガーバグを見つけ、そのハチが木の空洞の中に作った巣の小さな入り口にとまるまで追いかける。
当時50代後半の彼女たちの目の良さに驚愕する。
そして木一本まるごと斧で切り倒して、ようやくハチミツを採取できます。
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彼女たちがハチミツを取り出し終えて、ぼくがそのプロポリスをイダキのマウスピース用にもらおうと集め出した時、「このハチのはやわらかくてダメだよ。別の種類のハチのじゃないと硬くない。」と止められました。
イダキのマウスピースに使うのに最適なプロポリスを作るハチの種類があって、そのハチのプロポリスを収集して手元に置いておくということは、知識と経験と驚くほど体力と手間がかかります。
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プロポリスを付けても内径3.6-3.9cmという大きさのマウスピースですが、オープンな空洞であることでMakoならではの響きになっています。
その希少性からプロポリスは現地でも高額で、シュガーバグのミツロウがついたディジュリドゥはかなり伝統的なアプローチで製作されていると考えられるでしょう。
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以上、黒い蜜蝋が何なのか、知られざるその謎にせまったディジュリドゥ奏者以外にとってはどうでもいい雑学ネタでした。いつの日かディジュリドゥ・クイズ早押し選手権が開催された時には役立つはず!
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