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14. ディジュリドゥのジェンダー問題 前編 - 女性はディジュリドゥを演奏してはいけない?

女性がディジュリドゥを演奏するのはタブー?

「女性がディジュリドゥを演奏するのはタブーである」とか「ディジュリドゥの音を聞く(演奏する)と妊娠しやすくなる/不妊になる」といった風説を聞いたことがあるかもしれません。

実際にぼくが訪れるトップエンドのアボリジナルの人々から上記のような言説を直接聞いたことがあるかと言えば、20数年の個人的な経験にはなりますが一度もありません。彼らがそういったことを女性に向かって話していることも、ぼくたちノン・アボリジナルに指導することも一度もありませんでした。


女性もディジュリドゥを作る

北東アーネム・ランドでヨォルングの人々のイダキ作りを手伝っていると、多くの女性が男性と共にユーカリの森へおもむき、自ら斧を手にディジュリドゥ作りに必要なログを探します。

そして自分がカットしたログは最後まで自分で作ることもあるので、マウスピースに口を当ててテストをする光景も見られます。また多くの場合、ディジュリドゥのペイントを行うのは女性が中心ですので、ディジュリドゥに日常的に触れ合っていると言えるでしょう。

[Zelda Gurruwiwiが描くアート]イダキ・マスターD. Gurruwiwiのイダキが娘のZeldaが描くアートに彩られていく。奥さんのDhopiya Yunupingu以外にも娘たちが彼の作品にペイントを施しています。彼自身がペイントすることもありましたが、95%以上の確率で女性たちがペイントしていました。逆に息子たちがペイントに携わることは限りなくゼロに近かったように見えました。


儀式の場で女性も踊るのでディジュリドゥの音を聞くのは日常

葬儀や割礼といったパブリックな儀式の際には女性はダンサーとして活躍するため、女性がディジュリドゥの音をまったく聞かずに過ごすということは彼らの生活の中では不自然なことだと思われます。

歌を歌うのもディジュリドゥを演奏するのも男性が中心で、女性がその役を担うことはありませんが、女性たちはダンサーとして儀式に参加しますし、彼女たちがディジュリドゥの音を聞くことは日常です。直接的に触れ合うこともいたって普通で、楽器作りの場においては女性は製作者としてもペインターとしても重要な役割を果たします。

マニングリダ地域では、女性がディジュリドゥを演奏することはない。それは厳格な禁忌があるからというわけではなく、単に女性がディジュリドゥを演奏するということが一般的でないという理由からです。Borrollola付近のようなカーペンタリア湾の一部や西オーストラリア州のKimberleyの一部では、アボリジナル女性が実際にディジュリドゥを演奏することがあります。この事はかなり知られていることでもあります。

Murray Garde  - That didjeridu has sent them mad

北東アーネム・ランドのイダキ・マスターとして名高いB. Wunungmurraも、D. Gurruwiwiも妻と共に森に分入り、互いに支え合いながら楽器作りを行なっていました。そしてディジュリドゥのペイントは共通して彼らの妻たちが主役でした。

もし「ディジュリドゥの音を聞く(演奏する)と妊娠しやすくなる/不妊になる」という風説が本当だとすれば、トップエンドのアボリジナルの女性たちはみな多産、あるいは少子化が進むということになってしまいます。ましてや、ディジュリドゥ作りにたずさわる女性たちが楽器のテストをする風景も見ますし、この風説は現実から乖離している気がします。

後編へ続く

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