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石垣島で美ら星研究体験隊に参加したお話
みなさんこんにちは。先日、国立天文台水沢さんが主催される「美ら星研究体験隊」(以下美ら研)というイベントに参加してきました。沖縄県石垣市で、望遠鏡を使って新しい小惑星や電波天体を見つけよう、というプロジェクトです。漫画「恋する小惑星」に登場するきら星チャレンジのモデルとなったイベントですので、知っている方もいらっしゃるかと思います。
今回はそんな美ら研の体験記を書いてみました。少しの時間ですが、お付き合いくださると嬉しいです。
今回の記事公開にあたり、美ら研の主催者である国立天文台水沢VLBI観測所の廣田朋也助教に事前に連絡し、承諾を得ています。
当記事の撮影写真は特記のあるものを除き筆者が撮影したものです。無断使用・転載は御遠慮下さい。使用される場合は連絡をお願いします。
はじまり
「恋する小惑星」における美ら研(きら星チャレンジ)
私は元々天文や地学に興味があり、その経緯より前述しました「恋する小惑星」(以下恋アス)を愛読していました。美ら研のモデルとなるきら星チャレンジは単行本3巻、アニメ10話から12話に描かれています。
11話あらすじ
あおも見学者として参加が許され、いよいよきら星チャレンジがスタート!
天文台の見学などのプログラムが進み、そして夜。同じグループになった友利と蒔田とともに、ついに天文台で小惑星の探索が始まる。ところが、空に雲が広がってきて…。
12話あらすじ
きら星チャレンジ2日目。空には雲もなく観測日和だ。
撮影したデータのチェックを進めると、未知の小惑星らしき天体が見つかる。
高まる緊張。これが本当にラストチャンスと再度の撮影が行われる。みらとあおが、同じ班の友利と蒔田とともに画像をチェックすると…。
私も恋アスを読み、美ら研の存在を知り、ぜひとも美ら研に、石垣島に行きたいなと思っていました。
美ら研の開催状況
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行により石垣島に集まっての開催は難しくなってしまい、令和2年度の美ら研はオンライン開催となっていました。
そんな中、令和3年6月頃、昨年度はオンラインで開催した美ら研を今年こそ石垣島で開催しますよ、とのお知らせがありました。
今年度も美ら星(ちゅらぼし)研究体験隊、略称「美ら研」を開催します。今年度は、2年ぶりに現地での開催を予定しています。昨年1月か ら3月に放送されたアニメ「恋する小惑星(恋するアステロイド)」の主人公たちのように、ぜひ新しい 天体発見を目指した観測を体験して下さい。
今年こそ石垣島に行ける・・・!
そう考えた私は、必要な書類を準備。応募に必要な作文も書き、応募したのですが・・・
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緊急事態宣言の発令に伴い、美ら研は延期されることに。当初は9月に延期される予定でしたが、これもまた緊急事態宣言の発令により延期され、最終的に令和4年3月20日から21日にかけて、従来より短縮された形で美ら研が行われることになりました。
そして12月上旬・・・!
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見事に美ら研に参加することが決まりました!
こうして3月に石垣島へ行き、美ら研に参加することになりました。さて果て私たちは新天体を見つけることができるのでしょうか・・・?
石垣島へ
到着(南ぬ島石垣空港)
美ら研の前日、私は石垣島唯一の空港、南ぬ島石垣空港(新石垣空港)に降り立ちました。私にとって初めての沖縄です。
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「おーりとーり」というのは、石垣の言葉で「ようこそ」という意味なのだそうです。沖縄といえば「めんそーれ」のイメージでしたが、石垣島をはじめとする八重山地方は沖縄本島から200km以上離れているため言葉もかなり違い、以前は八重山の人と沖縄の人では話が通じなかった程なのだそうです。なるほど、納得です。
移動(空港〜石垣市街地)
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空港から市街地まではバスで30分、500円。夜も遅いですが、私は地理にも興味がありましたので、石垣市街地の探索を少しばかりしました。こちらはアーケード街「ユーグレナモール」。人口は5万人程度、八重山全部合わせてもほぼ変わらないくらいの人口規模ではありますが、観光客の多さや地域の中心であることも影響してとても栄えているように見えました。
晩ご飯(A&W 石垣島店)
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遅めの晩ご飯。730交差点の近くにある「A&W」さんでハンバーガーとポテト、りんごジュースをいただきました。こちらも恋アスの作中に登場します。つまり聖地巡礼です。
・・・ちなみにこの時、閉店間際に入ったのでゆっくり食べている余裕は全く無く、ルートビアを頼むのも忘れていました・・・。また石垣に行く時に頂きたいと思います。
宿泊(民宿 八重山荘)
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こちらが今回泊まる民宿。八重山荘というところです。ここも恋アスで真中あおちゃんが宿泊しています。作中ではレンタサイクルつき2500円でしたが、私が宿泊した時には3900円でした(レンタサイクルは使わなかったので不明です)。
聖地でご飯を食べて聖地に泊まり、いざ美ら研へ!
美ら研 1日目
集合(1日目)
翌日、起きて朝食を済ませ、集合場所となっていた東横イン石垣島に向かいます。この時道を間違え、余裕を持って宿を出たはずが少しだけ遅れてしまいました・・・。(ちなみにこの時慌てていたせいか眼鏡も東横インに忘れてしまうことに・・・。)
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東横インにて集合し、車に乗せていただき、石垣青少年の家に向かいます。当日石垣島マラソンが開催されており、交通規制に引っかかっると面倒だな、と話題になっていましたが朝早いこともありそれはありませんでした。
概要説明・天文学講義(沖縄県立石垣青少年の家)
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石垣青少年の家に到着。恋アスの作中では「石垣青少年館」という名前になっていました。ここで手続きを済ませ、本格的に美ら研がはじまります。
美ら研の写真や話したいことはたくさんあるのですが、中には未発表の研究や個人情報が含まれているため、多くの写真や情報はお話できません。
ご了承ください。
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まず最初に天文学に関する基礎的な講義が行われました。例年であれば美ら研は、石垣島天文台の反射望遠鏡(むりかぶし)を用いた新しい小惑星の探索(恋アス作中で描かれているのはこちらです)と、VERA石垣島観測局の電波望遠鏡を用いた新しいメーザー天体(強力な電磁波を放出している天体)の探索の2つが行われるのですが、今回は短縮日程のため後者のみでした。そのため、講義も電波天文学に関するものに限定されており、今回の講義では光学系のことはあまり話されませんでした。
見学・観測(VERA石垣島観測所)
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講義を終え、私達が向かったのはVERA石垣島観測局。ところで、先程からよく登場しているVERAとは何なのでしょうか?
VERAは、銀河系の3次元立体地図を作るプロジェクトです。
VLBIという電波干渉系の手法を用いて、銀河系内の電波天体の距離と運動をこれまでにない高い精度で計測し、銀河系の真の姿を明らかにします。
国立天文台を中心に、多くの大学や研究所からさまざまな分野の研究者が参加し、2003年から観測が始まっています。
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VERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)とは、VLBIという手法を用いて電波天体を観測し、天の川銀河の3次元立体地図を作る国立天文台のプロジェクトです。水沢(岩手県)・石垣島(沖縄県)・小笠原(東京都)・入来(鹿児島県)の4箇所にある電波望遠鏡を用いて、直径約2300kmの電波望遠鏡を作って観測しています。そのVERAに用いられる電波望遠鏡のひとつがこの石垣島の望遠鏡なのです。
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いきなり現れる直径20mの電波望遠鏡。講義で詳細を説明されたとはいえ、実際に見るとかなり大きくて迫力があります。観測局に到着後、実際に動かしてみたり、停止させて上に登り、望遠鏡の中を見学させていただきました。
一通り電波望遠鏡の見学が終わったらお昼休憩。午後から本格的な観測がスタートです!
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電波望遠鏡の後ろにあるこの施設で観測を開始します。(当たり前ですが)ハブ居るのかさすが石垣島……。
まずはどのように観測するか相談します。新たなメーザーになりそうな天体の中から、どの天体を観測するのかを色々な情報や知識から絞り込んでいきます。電波望遠鏡は昼夜問わずの観測が可能なため、早く決めるとそれだけ観測可能な時間も増え、観測できる機会も増えます。できるだけ早く決めて新天体を観測します。
天体を決めたら観測スタート。その間は少し休憩や雑談。お菓子を食べながら談笑していました。新天体が見つかるといいねとか、石垣島のここがオススメだよとか、雑談も楽しかったです。
観測が終わったら分析。電波望遠鏡で観測したそのままのデータではノイズも多く、新天体があるのかよく分からないため、ノイズを除去するなどの分析をする必要があります。分析してそれっぽい電磁波が観測されたら新天体かもしれないのです。
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そんなことをしていたら日も暮れました。晩ご飯を食べて、あとの観測は望遠鏡にお任せして私たちは天文台へと出発です。
天体観望会(石垣島天文台)
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「恋する小惑星」11話の舞台となった #石垣島天文台 と #VERA石垣局 。現在、観望会等は中止していますが、石垣島天文台のむりかぶし望遠鏡や外観の見学はできます。VERA石垣局も外観の見学可能。 アニメで見た天文台の様子をお楽しみいただけます。#koias #恋アス #国立天文台 pic.twitter.com/6gHDlSXwjd
— 国立天文台 (@prcnaoj) March 22, 2020
石垣島天文台に到着。恋アスで小惑星の観測をしていた場所です。ここで天体観望会を行います。
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九州・沖縄では最大の口径105cmの光学・赤外線反射式望遠鏡「むりかぶし望遠鏡」を備え、太陽系天体や突発天体の観測研究、および天文学の広報普及を行っています。施設見学、4D2Uシアター、天体観望会など一般への公開も行っています。
石垣島天文台の反射望遠鏡「むりかぶし」。口径105cm、九州・沖縄では最大の望遠鏡です。平成20年の美ら研ではここの観測で小惑星「あやぱに」が発見されています。
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肝心の天体観望会なのですが、天気が悪く、なかなか星を見ることができません。これでは仮にむりかぶし班がいてもかなり厳しかったと思われます・・・。かろうじて雲の隙間からおおいぬ座のシリウスを見ることが出来ました。これは望遠鏡の接眼レンズにスマホのカメラをセットして撮影(コリメート撮影といいます)したシリウスです。
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(スマホなので画質悪いですごめんなさい…!)
天体観望会が終わり、ここで美ら研1日目は終了!最後に石垣島の夜景を眺めて記念撮影し、ホテルに戻りました。
本来ならば石垣青少年の家に泊まるのですが、コロナ禍の影響もあり今回は市街地にそれぞれ泊まる形となりました。青少年の家に泊まってみたかったなぁ・・・
美ら研2日目
集合(2日目)
朝食を食べ、同じく東横イン石垣島に集合し青少年の家に向かいます。
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さすが熱帯。美ら研の手続きの合間に青少年の家周辺を散歩したのですが、地元では見たことの無い植生でとても興奮していました。
観測・資料作成(VERA石垣島観測所)
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そして今日もVERA石垣島観測局に移動。電波望遠鏡が元気に観測してくれていました。
2日目は昨晩観測してくれていたデータを集め、分析するのが主な仕事です。データを見て、これは可能性がありそうだから残りの時間で再観測してみないか、などという話し合いをしていました。また、午後に行われる発表会のプレゼン作りも並行して行います。とても忙しいですが、楽しかったです。
発表会・お別れ(沖縄県立石垣青少年の家)
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お昼ご飯を食べ終わり、分析を終え青少年の家に移動します。美ら研の最後は発表会、2日間の結果のプレゼンです。
残念ながら今回は新天体らしきものは発見できませんでした。とても残念ですが仕方ありません。今後の美ら研に望みを託すことにしましょう。
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発表会が終わり、未来博士号が授与されました。
お世話になったみなさんと歓談して今年度の美ら研はおしまいです。
国立天文台の皆さまをはじめとしたお世話になりました皆さま、本当にありがとうございました!一生の思い出です!
おまけ
石垣島のご飯
美ら研が終わったあとの星まつりはありませんでしたので、美ら研終了後石垣市街地へ。現地の知り合いとお会いし、晩ご飯を食べたりしました。
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ラフテー、石垣牛ステーキ、八重山そばなど。石垣島のご飯、とても美味しかったです!
竹富島観光
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翌日は石垣島から船で10分ほどの竹富島を少し観光。ここは「のんのんびより ばけーしょん」に登場した場所で、ここでも聖地巡礼です。八重山ではまだ3月なのに既に海開き済み。さすが八重山、日本では数少ない熱帯地域。でもさすがにまだ海水浴客はいませんでした。
出発
竹富島観光後、新石垣空港に移動します。美ら研の翌日ですがもう八重山を離れることに。今考えればあともう一日滞在しておけば平久保崎や川平湾にも行けたのかな、と後悔中。曇りで星が見れなかったり他にも心残りはありますが、次行く時の楽しみにしておきます。
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ありがとう八重山!ありがとう美ら研!本当にいい思い出になりました。また行きます!
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短くも深く心に刻まれた4日間でした。天文ファンとして、恋アスファンとして、美ら研に参加出来たことは本当に光栄です。
これで私の美ら研体験記はおしまいです。本当にありがとうございました!
あとがき
ここまで長々と読んでくださりありがとうございます。もしまだ天文学を詳しく知らない方は、これを機に知っていただけると嬉しいです。そして、もし貴方が中学生・高校生で天文学や恋アスに興味がある方なら、参加して損することは全くないと思いますので、今後の参加をおすすめします!もし大学生以上の方でも、天文学を専攻されている方でしたらスタッフ側として参加できるかも……?
天文学専攻ではない大学生の方や社会人の皆様も、石垣島を訪れて、南の島でしか見れない星を見に来てみませんか?
この記事が天文学や美ら研、地学などに興味を持つきっかけになれば幸いです。
聖地巡礼は節度を持って。VERA石垣島観測局及び石垣島天文台は一般への公開を実施してはおりますが、訪問される際はくれぐれも現地住民や国立天文台の方に迷惑にならないようにお願いします。
さいごに、改めてお世話になりました国立天文台やスタッフ、美ら研参加者のみなさま、八重山のみなさま、応援してくださったみなさま、この記事を読んでくださったみなさま。
ありがとうございました!