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暗闇のせんちめんたる10選(2010年あたりの個人的ベスト・ディスク)

本稿はどうしてそうなったのかはよく覚えていないんですが、自分自身が2010年ベスト10を選定した時に、ついでに作ったメモ書きがもとになっています。

※暗闇のせんちめんたると言いつつ、そうでもないアッパーな楽曲も含みます。

さらっと書こうと思っていたのに存外に4000字程度書いてしまい、毎日1記事はアップロードするつもりが2日もかけてしまいました。(次回この手のものを書くとしたら必ず10以下のアーティストに絞ろうと思います・・)

どれもよいアーティストだと思うので、また別の機会にちゃんとしたレビューを書きたいですね。

1.Tanlines「Settings」(EP)

どうしてEP盤の選出かというと、当時出ていたデビューEPがこれだったから・・なのですが、

タフ・アライアンス、エル・ギンチョのリミックスや、セイラムとのコラボという私の琴線に触れまくりのアーティストで個人的に好きなので選定しました。

少しBPM速めの四つ打ちに爽やかなバックコーラスは当時流行したブリージン・ディスコ的、別の曲ではパーカッションを大きくフィーチャリングしたこれも当時流行ったトロピカル要素を取り入れたエキゾチックなサウンドがあったりと、収録数は少ないながらとても面白い作品です。

(多分もう手に入らないけど)

余談ですけど、エル・ギンチョの「Antillas」なんて当時どこのクラブに行ってもかかってましたよね、クラスヌでも誰かかけてた記憶があります。

2.She sir『Ev'ry Thing in Paris』

重めに轟くギター、ドラムの高音域は聞こえるけどビートも消えそうになっていて、轟音にかき消されそうな囁くようなリヴァーヴの入ったヴォーカル・・こんな感じのシューゲイザーは、この時代のDreamendのような典型ですよね。レーベルメイトでもありますし。

3.Wu Lyf『Go tell  fire to the mountain』

WU LYF(World Unite Lucifer Youth Foundation)のようなバンドが当世の商業誌ベスト10に突然入ってきた違和感については、私が敬愛する音楽ライターである宮嵜広司氏のこの記事にて語られています。

「ルシファー」や「十字架」のモチーフを出しているあたりから、音楽性はウィッチハウスを想像するかと思うんですが、確かに聴いた感じはリバーブの聴いたブリリアントで軽やかなメロディがチルウェーヴ然としています。

ただ、乗っかっているカサついたエモーショナルなヴォーカルは、サンプリングしたうめき声などを多用するウィッチハウスやチルウェーヴとは真逆のアティチュードですね。不思議なバンドでした。

でも、彼らっていわゆる「オカルト」じゃないですよね。

(今何してるんだろ?って思ったら解散してた)

4.Small Black『New Chain』

トランスペアレント(Transparent)、メキシカン・サマー(Mexican Summer)、シークレット・カナディアン(Secret Canadian)、トライ・アングル(Tri Angle)、そしてジャグジャグウォー(Jagjaguwar)。

取りこぼした文脈もたくさんあると思いますが、

この辺りのレーベルがこの時代の音楽シーン「チルウェーヴ」というアンビエント然としたシンセポップ、或いはサイケデリックなバンドサウンド、或いは地下室で作られたカルトたる「ウィッチハウス」などの混沌を作り上げていたのではないでしょうか。

そのどれか一つを取り上げてこれが分岐点とみなすことも、明確なジャンルの区別を付けることも難しいファジーな佇まいが増えた時代だと思いますが、ただ一つ言えるのは、どれも「浮遊感」のあるサウンドだったかな、っていうことです。

どこにも属さない、ってことはある種の浮遊感ですよね、スモール・ブラックは明確なチルウェーヴですけどね。

5.This town needs guns『Animals』

私は内向きなアティチュードを持つバンド・サウンドを「シューゲイザー」と言いがちなんですが、TTNGは変拍子、マイナーコード、ストリングスにピアノを合わせるような感じ、ピット・アー・パット辺りのエクスペリメンタルに近いのかな。

余談ですけど、ジャケットだけを見るとポストロックっぽいですよね。

6.Gayngs『Relayted』

ボン・イヴェール、スワン・レイク等、Jagjaguwarから出ているアルバムはだいたい全部好きなのですが、『Relayted』はダウンテンポの曲が多いですよね。

これについては全ての楽曲のテンポを「69BPM」で作成されており、さらにライアン・オルソン曰く、「バンドを作る時にテンポとサウンドにルールを設けた」とのこと。

このアルバムは、曲のそのものはシンプルに構成されていますが、かといってミニマルというわけでもなく、楽曲のアプローチは実験的で面白くーR&B然としたものもあれば、ブリーピーなシンセサイザーのポップスもあり、また、ジャジーブレイクのようなレイドバックした雰囲気の曲も存在する。

実験的なアティチュードを取り入れつつも、絶妙なバランスでコントロールされていて、しかもそれを各ジャンルのエキスパートたち(ギャングスは20名以上のミュージシャンで構成されている)が奏でているので、まあそれはさもありなんですね。

7.Kreeps『dead sounds』

エフェクトのかかった歪んだギター、怪しげなオルガン、どこから聞こえてくるのかわからないようなリバーブの聴いたヴォーカルに、シンプルな進行のドープなリフ・・モダンだけどオーセンティックなサイケデリック・バンドにも、ブルーズにも聞こえる。サイコビリーっぽくもある。

なんだこれ?っていうレビューは、商業誌やアマゾンのレビューなんかで散見します。

この当時ってホラーズ自身がジョイ・ディヴィジョンのカヴァーをしていたみたいに、ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーの亡霊がたくさん見えたと思うんですけど、後に出ることになるアルバム『Spilit Clinic』に収録されている楽曲「Geekula」のリフなんかは初期コーラルっぽくて、本当にかっこいいと思います。

8.The High Wire『The Sleep Tape』

チルウェーヴをして「入眠時の音楽」と表現することがあり、特にこういう「Sleep」というタームのレイドバックした音楽ってこの当時かなりよく耳にした気がします。

楽曲の構成をエレクトロに振るか、ギターストリングスに振るかによって音楽的なジャンルは違ったかもしれませんが、例に漏れずこのアルバムの週力曲は、どれも浮遊感のある耳触りのよいサウンドですよね。

9.Gamble House『Gamble House』

ギャンブル・ハウスは、ベン・ベッカー(Ben Becker)が始めたベッドルーム・ミュージック(いわゆる宅録のようなもの)のプロジェクトですが、

いわゆるレッツ・レッスル(Let's Wrestle)みたいなローファイ・ガレージ・ロックみたいな楽曲では決してないし、キッシーズ(Kisses)みたいに宅録のシンセポップでもなく、かなり完成度の高い、古き良きフォークのサウンド。

それもそのはず、マスタリングを手がけたのはアニマル・コレクティヴ、ダーティー・プロジェクター、グリズリー・ベアなんかを手がけたエンジニアのポール・ゴールド(Paul Gold)とのこと。

例えば、フリート・フォクシーズやパーリー・ゲイト・ミュージックのようなバンドが昔ながらのアメリカ音楽の持つ牧歌的なサウンドを鳴らした背景には明確な意図があるようですが、

それは抜きにしても、美しいコーラスを取り入れ、フルートやバンジョーの入った軽やかなフォークソングは純粋に聴いていて心地よいですよね。

10.Hype Williams『Find out what happens when people stop being polite...』

「この」ハイプ・ウィリアムズと、「あの」ハイプ・ウィリアムズは別物であるとまず断った方がよいかもしれませんが、「この」ハイプ・ウィリアムズはUKはホックニー出身のDean Bluntと、ロシア?のInga Copelandからなるアーティストです。

この音楽性をしてドラッギーなどと陳腐な形容をするつもりは毛頭ないのですが、セーフかアウトかでいうと思いっきりアウトに振り切っている佇まいに、(本来的な意味での)ヒップホップを見出すといった内容のレビューを多く見ました。

ちなみに、筆者は「Rescue Dawn」の中がこんな風になっているというのは全く気がつかなかったです。

Find Out opens with a gurgling, auto-tune adjusted wail.(中略)it’s followed by a dead-pan, monotone recital of pokemon, followed by “gotta catch ‘em all, gotta catch ‘em all, yeah, pokemon, I want to be the best there ever was.”

作者のクリエイティヴィティのあり方って多様であって良いと個人的には思いますが、ハイプ・ウィリアムズが言うところのソースはたくさんある、っていうのは、考えてみれば面白いテーマですよね。

<あとがき>

Gyangsの項目で69BPM(人間の平均的な心臓の拍動よりも遅いBPM)という言葉が出てきたので、気になってついでに調べていたら、楽曲のテンポと人間の覚醒(意訳)には影響があるとの文献を見つけました。

速いテンポの曲は脳が覚醒しやすく、遅いテンポの曲を作成するのもそういう意味があるのか?と個人的には思いましたが、真意はわかりません。

どっかのインタヴューに転がってるのかな?







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