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主役は“人と料理” BALMUDA The Plate Proが生み出すホットプレートを超えた新体験|Deep Dive into BALMUDA


キッチンシリーズ新製品、BALMUDA The Plate Proが2023年10月12日に発売となりました。前回のDeep Dive into BALMUDAでは、発案者である岡嶋シェフの話を交え、ホットプレートの企画が社内でどのようにして進んでいったのかを紹介しています。

今回は、BALMUDA The Plate Proを実際に形にし、量産へと導いたスタッフの話と共に、開発現場の想いをお届けします。

イノベーション本部プロダクトデザイン部リーダーの杉本遼平(左)とエンジニアリング本部プロジェクトマネジメント部の岸本亮(右)

黒子に徹したデザイン

BALMUDA The Plate Proは、本格的な調理ができるだけでなく、見ている人も一緒に楽しめるホットプレートを目指しました。デザインは、製品が実際に使われているシーンを頭の中で描きながら決めていったといいます。

「デザインの基調はBALMUDA The Toaster Proと同じ“モダンクラシック”の流れを汲んだものですが、比較的大型ということもあり、シンプルに抑えています。何よりも鉄板の上に乗った食材や料理、そして調理するその人自身が目立つよう、黒子に徹するようなデザインを心がけました」(杉本)

デザイン学校出身の杉本は、2013年にOBの紹介がきっかけでバルミューダに入社。BALMUDA The Plate ProではUI・UXを含むデザイン全般を担当している
主役は人と料理であることを念頭にシンプルさを追求した本体。クラッドプレート周囲の樹脂は、油や薬品に耐性のあるものを使用している

「無駄を削ぎ落としたデザインは凹凸や隙間を減らし、角も少し丸みを帯びているので拭きやすいといったメンテナンス性の向上にもひと役買っています。ただ、シンプルさゆえの設計上の課題も多く、初めてデザインを見た時は、これを量産できる道筋がすぐには思い浮かびませんでした」(岸本)

元々、家電メーカーに勤務していた岸本。家電=消費していくものというイメージが色濃くなりつつある中、もっと人の心に届くものを届けたいと願って2019年、バルミューダへの転職を決意。BALMUDA The Plate Proにはコンセプトメイキングから携わり、プロジェクトリーダーとして品質・スケジュール・コスト管理の責任を負う

外観をシンプルかつ上質な見栄えにするため、逆に製造工程は複雑になりました。例えばクラッドプレート(鉄板部)は、表面にバイブレーションと呼ばれる加工を3工程、施すことでマットな仕上げを実現しています。

バイブレーション加工により油の広がりを程よくし、油はねを抑える効果もある

「クラッドプレートは、レーザー・スポット・MIGと呼ばれる3種類の溶接と、バイブレーション・ヘアライン・バレルといった3種類の研磨を施し、かつヒーターの熱を直接受ける裏面をブラックに塗装しています。試作はできても量産できるかという課題が常に立ちはだかりましたが、機構設計と製造技術のチームが、いつも理論的に解決してくれました」(岸本)

クラッドプレートに命懸けで取り組んだと話す岸本。過去の経験や理論に基づき「必ずできるはずだから、あきらめずに方法を見つけよう」という信念が、常にチーム内にあったという

触れる部分に安心感を

クラッドプレートのハンドルと温度調節ダイヤルは、直接ユーザーが触れる大事な部分。安全性を第一に、デザインや質感を全体とのバランスを見ながら決めていきました。

クラッドプレートのハンドルと温度調節ダイヤル。ダイヤル付近にあるPOWERランプが点滅から点灯に変わることで、設定温度に達したことがわかるようになっている

「温度調節ダイヤルの形状・質感は、ビルトインのコンロから着想を得ています。近くのPOWERランプに点滅機能を設けたのは、クラッドプレートの温度が設定値に達したことをわかりやすくするためですが(搭載に至る経緯は前回記事を参照)、もちろん安全面への配慮もあります。ハンドルも同様に安全第一で、鉄板やトレイにユーザーの手が容易に触れぬよう、高さ・位置・サイズを何十通りも試した中からベストを決めました」(杉本)

ハンドルのデザインに、全体の半分近い時間をかけたと話す杉本

「デザイナーは、どうしても“カッコいいもの”を求めがちです。今回のハンドルも安全面の課題をクリアした上で、より上質な感触と見栄えを意識し、金属のデザインをいくつか試作しました。しかし、チームで話し合い、手で触れる部分は樹脂のほうが心理的な安心感があるという結論に達しました。“主役は人と料理”という観点で、不自然さがなく、かつ実用的な形状に仕上げています」(杉本)

何十枚もの金属板を試す

BALMUDA The Plate Proの大部分を占める分厚い鉄板、クラッドプレート。他のどのホットプレートよりもおいしく調理ができるという体験価値のかなめとなる部分ですが、仕様が決まるまでには、さまざまな種類の“金属の板”を何枚も試したといいます。

「すべての金属板を試すわけにはいかないので、最初は理論から入りました。素材ごとに異なる熱容量や熱伝導率を、面積や重量などの値と共に専用のシートに入力し、加熱時の反応をシミュレートします。こうして得たデータを元に、実際に調理を試してみるものを絞り込んでいきました」(岸本)

岸本が取り寄せた金属板の一部。最終的には40〜50枚になったという

ネット通販や付き合いのある鉄工所から目当ての板を取り寄せては、それを熱した上で実際に岡嶋シェフが調理します。シェフから得たフィードバックを元に検証を重ねた結果、アルミをステンレスでサンドする“クラッド鋼板”の採用が決まりました。

「ステンレスは熱伝導の効率がよく、表面硬度も高いのでホットプレートの上で刃物が使えるという体験価値の実現にピッタリでしたが、重量があるため、他の素材と組み合わせて使うのがいいという判断をします。さまざまな組み合わせを検討した結果、アルミをステンレスの層で覆う“クラッド鋼板”で、いくつか試作機をつくろうということになりました」(岸本)

しかし、クラッドプレートの試作は困難を極めたといいます。

「ホットプレートの常識を覆す性能を出すには、鋼板に厚みが必要です。しかし、家電として常識外の重量にはできません。双方のバランスを考慮した結果、7mm以下の鋼板でクラッドプレートを試作をしようと考えました。ところが、この厚みのクラッド鋼板はほとんど流通していませんでした。国内外の業者に手当たり次第連絡してみましたが、試作用に少ロットでつくることはできないと、すべて断られてしまいました」(岸本)

偶然が導くチャンス

試作のできない状態で、プロジェクトは暗礁に乗り上げようとしていました。しかし、岸本の苦悩を知るひとりのスタッフが、偶然に訪れた打開の機会を見逃しませんでした。

「機構設計のスタッフがある展示会へ行った際、クラッド技術をプロモーションしていた国内の業者を見つけて繋いでくれたのです。早速、会ってみると、とても熱意のある方で、この厚みのクラッド鋼板は未経験とのことでしたが、試作を含めて前向きに検討してくれることになりました」(岸本)

こうしてクラッド鋼板の試作ができあがり、さらなる評価と調整を重ねて6.6mmのクラッドプレートが誕生することになります(シェフ視点による前回記事も、ぜひご覧ください)。

クラッドプレートの断面図

高度なヒーティング機構

隅々まで均一に行き渡る熱は、クラッド鋼板の特性だけでなく、真下に配したヒーターと、ソフトウェアによる温度制御の三位一体で実現しています。

効率良い熱伝導のために計算し尽くされたヒーターの形状

「別売アクセサリのTakoyaki PlateおよびGriddle & Coverがあれば、調理の幅はますます広がります。例えばTakoyaki Plateは、どこの穴に対しても均一に熱が届くようにヒーターの位置と連携しています。業務用と変わらないクオリティのたこ焼きマシンと言えると思います」(岸本)

家庭用たこ焼き機として、最高峰と言えるレベルに達している

金属ヘラのデザイン

BALMUDA The Plate Proには、ひっくり返す、押さえるなどの調理から、焦げを取るなどのお手入れにまで便利な金属ヘラが付属しています。先端の形状はシェフの意見を参考に、持ち手はハンドル同様、樹脂パーツを入れることで安心感のあるデザインになっています。

ヘラの試作品。一番左が製品になったもの

「デザインがフィクスして金型ができあがり、いよいよ量産試作というタイミングでシェフから先端に目盛りを付けたいという話が上がってきました。素晴らしいアイデアなので、どうにか実現したいとチームで大急ぎで対応することになりました。目盛りはレーザー彫刻、金型、印刷などひと通りの手法を検討し、最終的にレーザーエッジングで実現しています」(杉本)

先端の目盛りで食材の厚みをいつでも計れるようにすることで、適切な温度・時間で調理することを容易にした

主役は人と料理にありき

BALMUDA The Plate Proは、“人と料理”を主役に据えて開発したホットプレートです。お店で食べるようなワクワク感を家庭で味わうという新しい価値の創出に、デザインとエンジニアリングの力を結集して挑み続けました。

「発表会やその後の世の中の反応を見て、確かな手応えを感じています。後は実際にお客さまの手元に届いて、期待に応えることができたらうれしいです。BALMUDA The Plate Proは、刺さる人には刺さる、実にバルミューダらしい製品と言える気がします」(杉本)

「今回もいろいろなことがありました。特にあの(業者との)出会いがなければ、プロジェクトはさらに難航したでしょう。予約も好調なようで、ひとまずホッとしています。BALMUDA The Plate Proは、何をつくってもとってもおいしいので、ホットプレートと意識せずに、いっぱい使ってほしいですね。毎日でも使ってほしいと思っています」(岸本)

おまけの「★」

別売アクセサリのTakoyaki Plateの穴のひとつに「★」が……。たこ焼きだとわかりにくいが、ホットケーキミックスだとくっきり出るとか

マガジン「Deep Dive into BALMUDA」では、普段あまり語ることのない開発現場のディープな情報を、スタッフの声を交えて紹介しています。