セビージャマラソン回顧録:マラソンランナーであることに幸せを感じた瞬間(1/3)
2月18日、スペイン南部のセビージャでマラソンを走ってきた。その記録を3回に分けて述べる。3回の構成は以下を予定。
第1回 セビージャマラソン回顧録
結果、背景、メンタル、幸せを感じた瞬間
第2回 セビージャマラソンの魅力、気付き
大会の魅力発信
第3回 セビージャマラソンまでの取組
前回のベルリンから約半年、在籍するパリのクラブでの活動とその結果
第1回は、以下の構成で述べる。
1 結果、振り返り
(1)結果
2:35:04(グロス)
2:34:48(ネット)
379位(全体)/9375人
337位(男子)/7771人
50位(男子年代(40-44歳))/1470人
生涯目標のサブ2.5や、一昨年12月の自己ベスト(2:33:12)更新が未達だった点は残念。
しかし、今回自分が立てた目標はサブ2:35(その背景は第3回で述べる)。結果的にネットタイムでしか切れなかったが、最後の最後まで、自分と向き合い、ギリギリながら達成できた点は満足。
順位は上を見るとキリがないので、レース中ずっと1人で走ることもなく、周囲のランナーとひたむきにそれぞれのゴールに向かって突き進み、その結果、自分のゴールを達成することができたのだから、ランナー仲間達に感謝するばかり。
(2)出場背景
2年前に続いての2回目の出場。
パリ赴任の期間が有限であることを考えると別の大会に出た方が、新たな発見もあって楽しいと考えていた。しかし、あえてもう一度挑戦することを決めた背景には、ともに練習するクラブの仲間の多くがこの大会を目標にした点、2年前のたくさんのいい思い出ができた点の2つ。
結局、在籍するパリのクラブからは計16名が参加。レベル差はあれど、約3ヶ月に渡り、コーチ兼選手の下、それぞれの目標に向かってともに汗を流し切磋琢磨してきた過程は、振り返ると、厳しい練習もあったので、大変貴重であり、この大会を選んでよかったと改めて感じた。
クラブ最速は39歳の仲間が2:19:53、強いと言わざるを得ない。クラブ記録を更新した模様。
(3)レース中のメンタル
側から見るとどうでも良い、レース中の自分自身とのメンタル面での駆け引きを記す。自己ベストを目指すランナーならば、共感する点もあるのではないかと思い、綴る。
以下が、公式サイトが発表している私の5キロ毎のラップタイム(ネットタイム)。
18’17,18’09,18’15,18’12,18’09,18’11,18’55,18’45,8’05
作戦は3’40で押していき、余裕があれば後半上げるというもの。イーブンで押した場合、ゴールタイムは2:34:43。
30kmまでは、3’40(5km 18’20)よりも若干速いほぼイーブンで、そこからタイムを落とし、最後ギリギリ目標タイムを切ったという形になった。
10数キロ以降、集団の中にいたものの、ある女性ランナーがその集団のペースを少しずつ上げていったため、私は、それに無理をしてつくことによって後半に来るであろうダメージを考慮し、無理には付かず、徐々に詰めていく作戦を取る。
その結果、集団から遅れてくる選手は捉えられるものの、前をいく集団はなかなか追いつかせてくれない。
その後、ぼろぼろこぼれてくるランナーの中から、比較的勢いが残っている者と力を合わせて、最後30キロ以降を走る形となった。
集団についた方が楽ともよく言われるが、第3回に詳しいことは譲るが、今の自分の力からすれば、集団に付かず自分のリズムで走る方がよほど楽だと考えていた。
決して楽ではなく、しかし厳しいペースでもない、いわゆる微妙なペースで耐え続ける形になったのだが、その時の心情は、「2年前よりも遅いからまだまだいける」、「このしんどい時間はなかなか体験できない貴重な時間、この瞬間を楽しもう」という心情であった。
しかし、30キロを通過した時、「目標達成には、約1分の貯金がある」と思う一方で、「守ったら貯金はすぐになくなる、攻めよう」と思った。
そんな心情とは裏腹に、自分のペースが落ちていることは、体感からも分かり、気になって時計を見始める。
時計は嘘をつかない。目標ペースの3’40よりも数秒遅れ出していることに、やばいという気持ちは高まる。
マラソンYouTuberの「できっこないをやらなくちゃ」、「超えろを超えろ」の声が聞こえてきた。
動かぬ体に危機感を抱いたところで、動きがよくなるわけもなく、とにかく、周囲のランナーと力を合わせて、遅れを可能な限り減らすこと、走りのリズム、フォームを崩さないということに焦点を当てて、時計ではなくて、前に前に粘りついていくことに集中した。
35キロ以降は時計が怖くてほぼみられなかった。自身として、40キロ地点で、目標タイムの−9分(2:26:00)ならば、絶対に目標達成できると思ったので、ペースも落ちている中で厳しいはずであるものの、根拠もなくそうなると願いつつ、とにかく歩を進めた。
そして、40キロ地点。目に飛び込んできた公式時計は、
2:26:59、
目標まで残り8分。
願いの9分より1分も短く、正直、この状態ではかなり厳しいと思った。
しかし、過去にしんどくても8分位で走ったことはあるので不可能ではない、と思いつつ、体が動かない中でどこまでいけるかのチャレンジしよう、の覚悟だった。
ガーミンが41キロ地点の自動ラップを知らせる。GPS上は数百メートル短くなっていたため、早く鳴ったため、本当の41キロはまだ先なのだが、40-41キロのラップは3’46。
せめて3’40だと思っていたので、さすがに厳しいと思った。
でも諦めたくない。家族がラスト1キロのちょい先で声援を送っていた。手を振る余裕もない。
ガーミンが42キロを知らせる。その時、ラップタイムではなくて、2:35:00までの時間だけが目に入った。
残り1分27秒。
正直あとどれだけの距離が残っているかは分からなかった。しかし、2年前の記憶から、次のカーブを左に曲がれば、最後は直線200メートル位ということは分かっていた。
「絶対に後悔だけしたくない」
その一心で腕を振った、脚を動かした。
ゴールして時計を止めたら、
2:35:01
出し切ったものの、自分の弱さを悔いた。
こうした背景があっただけに、公式サイトで、2:34:58だった時の喜びはひとしおであった。
2 マラソンランナーであることに幸せを感じた瞬間
これまでもそうだったのだろうと思い出されるし、他のランナーもそうだろうと思うことを改めて感じた。
マラソンに向けて、練習、生活でコツコツと準備を重ね、緊張の下に、レースを走り、ゴールをして、達成感を味わい、全てから開放された、マラソンレース当日の夕食、美味しいビールを飲んで、美味しい食事をしながら、マラソンまでの取組、当日のレースを振り返る、あの瞬間が、たまらなく幸せに感じた。
このために走っていたのだと、改めて感じた瞬間だった。
今回は目標をギリギリながら達成したことによって、その喜びがさらにひと塩であったために、その幸福感は、通常よりも割り増しであったことは事実であろう。
ゴールしたという達成感があっても、8月のTDSのように、この上ない幸せが必ずしも感じられない時があることを思うと、今回の夕食の瞬間は相当貴重だったと思えてくる。
3 おまけ: 男女フランスマラソン記録更新
本大会は、大会受付、レースを見ても、日本だけではなくアジアからのランナーが少ないというか、ほぼいなかった。
時期的な問題もあろうが、まだまだその魅力が知られていないことも要因であろう。
魅力は次回書くこととして、少なくとも、ヨーロッパのランナーにとっては相当記録も望める大会と認識されており、今回、フランス、イタリア、イスラエル、スウェーデンなどの国内記録が更新された。
今回は、そのうちフランスのマラソン記録について述べたい。ランナーという視点ではなく、1マラソンファンでの視点で。
(1)男子
男子2位がフランスの選手が入り、フランス記録が更新された。
これまでのフランス記録は、2022年4月のパリマラソンの2:05:22。
この時、フランスのマラソン記録が、約19年ぶりに更新されてニュースになった。
日本のマラソン記録も、2018年の東京マラソンで、2002年以来に更新された時、自身大きく感動した。それは先日の大阪国際女子マラソンで、2:18:59で、19年ぶりの女子マラソン記録の更新も同様であった。
2年前にフランス記録が更新された時、私は、フランスもようやく針が動いたが、まだ日本のレベルには及ばない、と思っていたところ、今回、その記録が2:03:46にまで更新され、日本記録を1分以上上回った。
フランスはマラソン後進国なんて、思っていた自分が情けなく思った。
日本のマラソン界の層の厚さは、フランスの比ではない中で、トップオブトップは負けるという構図は見たくない。1日も早く、フランス記録に負けない、日本記録更新を期待したい。
(2)女子
今回の大会では、フランスの男子だけではなく、女子のマラソン記録も更新された。
記録は2:24:12ということで、上述のように、日本女子に比べると、フランス女子はまだまだの印象だが、近い将来、男子のようになっているかもしれず、女子も引き続き切磋琢磨してほしいと思っている。
前回の記事で、私のかつての仲間が、パリ五輪のマラソン代表候補の3番目に名前が上がっていることを書いた。
しかし、今回のフランス記録更新に伴って、私の知人はランキングが1つ下り、五輪への道行が怪しくなった模様。ここからさらに追加でマラソンを出るのは難しいと思われ、万事休すなのだろうか。
第2回に続く