成果とエンゲージメントの両立を目指すチームコーチング:GTC修了生インタビュー(HR編)【中編】
プロセスワークを応用したチームコーチングとして開発され、23年11月にスタートした「ジェネレーティブ・チームコーチング講座(GTC)」
※一般社団法人組織開発コーチ協会/バランスト・グロース・コンサルティング株式会社が主催
第1期プログラムには、大手企業〜スタートアップまで幅広い組織で人事に携わる方々が参加しました。本インタビューでは、約4ヶ月間のGTCでの学びを終えた人事パーソンのお二人とプログラム開発チームに、変化の激しい時代に人事がチームコーチングを学ぶ意味、組織内での活用・実践、人事としてのジレンマを乗り越えるヒントなどについてお話を伺いました。
本インタビューは前編・中編・後編で構成されています。「中編」では、集団を扱う代表例であり、組織内の多くのミーティングや意思決定の場で活用されることが多い「ロジカル・ファシリテーション」と「チームコーチング」としての「GTC」の違いについて語り合った様子をお伝えします。
前編:組織を預かる人事がチームコーチングを学ぶ意味とは?
後編:チームコーチングを社内で実践する人事の葛藤とは?
「対立の炎」にとどまり、深いレベルの合意を生む
ーーGTCはロジカル・ファシリテーションと何が違うでしょう?
岡田:
言動に現れていないところを意図的に場に出すこともそうですが(前編参照)、GTCは、対立に対する向き合い方も特徴的だと思います。対立というと普通はやりたくないし逃げがちだと思いますが、GTCでは、全員で対立に向き合うように場を作ることによって、対立を超えやすくできるのが大きいなと思います。
それによって、表面的な仲良しに留まらない深い一体感や、お互いのベクトルや信念がしっかりと合っていると感じられるようになると思います。頭だけで考えてパズルのピースをという作業ではなく、目に見えない地層にある断層のずれを直して強固な基盤にするということが起きている気がします。
長瀬:
ロジカル・ファシリテーションと聞くと、表面的には納得できるけど、最終的に心がついていっているのかっていうと違う場合もあるなと思います。GTCだと、表面的な合意だけではなく深い心理的なところで合意しているので、最終的なネクストアクションがもう「肚」に入っているというのが感覚的な印象です。
松田:
別の言葉でいうと、氷山モデルの上の方で会話するのがロジカル・ファシリテーションですが、GTCでは、ハイコンテンツ・ハイコンテクストまで扱っていると言えるかもしれません。
氷山の下の部分のところまでコミュニケーションし、ハイコンテクストまで扱うのが、チームコーチングの特徴です。ただ、これまでの企業の慣習として、そのようなハイコンテクストまで扱うと大変なので、ドライに正しさでやろうとしていた。GTCのように、氷山の下までコミュニケーションすることに何のメリットがあって、何が起きるのか!?疑問に思う経営者にも多いはずですが、いかがでしょう。
岡田:
そこを経営者にどう伝えたらいいかが私達人事の悩みです。基本的にはスピードを重視して、分かりやすい明確なゴールと現状のギャップを見つけ、できる限り最短で達成することを期待されます。でもそれだけだと解決できないものがあるからGTCがいいんじゃないかと思う信念と、立証したり、経営者に確信を持ってもらうのは難しいという思いの両方があります。
特に人事という役割を担うと、会社の制度など、目に見えるものの番人もしている。なのでわざわざ見えないところに行くよりも、分かりやすいところを整理整頓することを先にやるべきだと経営者から期待されている。だから、信念としては絶対こっちがいいと思うけど、結果が出ない限りそこを説明して説得するのは難しいなと思う人事の人たちはいると思います。
「対立」の先にある成果とエンゲージメントの両立
――ハイコンテクストを扱うチームコーチングは、今後どう導入されていくんでしょう?
松村:
国際コーチング連盟(ICF)の定義によるとチームコーチングのニーズも世界的に増えています。チームファシリテーション、それこそロジカル・ファシリテーション、チームビルディングなどと比較すると、集団を扱うところは似ていますが、あくまでコーチングとして目的に向かってゴールを握り続けるところが特徴です。
伝え方が難しいのは、ICFの定義が、チームコーチングは中長期(数ヶ月)だいうところです。頻度は月に2回とか、実際には月1回もありますが、この表現だと伝わりにくい。
どちらかというと、コーチングが広がってきて、コーチングに取り組んだ延長に、「個人が変わっても、その人に活躍して欲しいチームはいまいちなんだよね」という状態になったときに、チームを何とかしたいニーズが生まれてきているという機運を感じます。
岡田:
別の視点でいうと、チーム目標と聞くと、チームで実現したい出来事とか成果物に思考が行きます。プロジェクトマネジメント的には大事ですが、チームに関わる人たちの成長とか、「このチームで良かった」となるためにはコーチングの要素が重要だと思います。経営者に聞かれたときに、確かにタスク・目標を達成するためだけにはなくてもいいかもしれないが、チームコーチングを入れることによって、チームで関わった人たちがそのチームに対して貢献実感や成長実感を高めるところは加速する。満足度や充実度、意義ややりがいは、チームコーチングの導入によって変わると思います。
長瀬:
チームコーチングの効果をウェルビーイングとエンゲージメントの尺度を入れてみると、定量的に測れる気がします。
岡田:
実際にチームコーチング的に関わったプロジェクトチームの例ですが、その人たちはチームが出来たときからプロジェクトの目標達成にしか思考が行っていなかった。まず「自分がこのチームでどんなふうにやりたいか」と話すことを促して、みんながいきなりお互いを知り出すことから始めたら、結果的にお互いの強みを生かすことができ、成果にたどり着いたときにすごい納得度が上がりました。なので、参加者のウェルビーイングとかエンゲージメントには効果があると思います。
長瀬:
エンゲージメントは上がると思いますし、具体的な成果ももっと上がりそうな感覚もあります。皆で何かを成し遂げようとすると妥協が起きる。僕自身も対立や喧嘩も嫌なので、揉めそうなときに、飲み込んでしまいやすい。でも本当は自分の思いを出して対立させれば、より良いシナジーや新しいことが生まれるはず。普通にやっても達成できたかもしれないけど、GTCを入れることで、より達成度が高くなる気がします。
「どちらも正しい」からこそ求められる視点
松田:
ということは、今後は、ハイコンテンツとハイコンテクストのハイブリッド時代になるんだろうなと思います。
ロジカル・ファシリテーションでは、合理性、正しさが優位になりますが、正義対正義だと片方のポジションの人が勝って、もう片方の声が出なくなりやすい。だけど、「君の言うことって本当はどういう意味があるんだろう」と背景に関心を持って、「私達が気づいてないことでしょうか」と深いコミュニケーションができると、パワーの濫用に対する自覚、お互いの背景・リソースなど人に対するリスペクトや好奇心が出てくるような気がします。
人間の頭と心はセットなので、日常からそういう姿勢で話し合っていると、人や組織に対する眼差しが会社全体で変わってくるという気がします。
長瀬:
それを聞くと、すごく感じるものがあります。人事としては反省させられる機会にもなり、目の前の人や社員の方々を一人の人間として扱っているのか、自分と「それ」のような感覚になってないかと疑問を持ちました。
岡田:
ほんとそうですね。人事の意味って「人の事」なので本当は人を扱っているのですが、時々事柄の方に行ってしまっているなと感じました。
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<インタビュアー>
Profile:宮本大輝
バランスト・グロース・コンサルティング契約コンサルタント
ジェネレーティブ・チームコーチング講師/カリキュラム開発
<編集後記>
ロジカル・ファシリテーションとチームコーチングとの違いを探求していくと、効率的に物事を決めていくだけではない、活動する人の根源的な充実感や、健やかな関係性を育んで行こうとする思想が浮かび上がりました。
それはまさに、業績達成と働く人の幸せの間で揺れ動く「人事」という仕事が直面するテーマそのもののようにも写りました。(丹羽妙)
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