新型コロナウイルスは生物多様性とどのような関係があるのか?
初出:https://www.todoporhacer.org/covid-biodiversidad/(2020年12月)
今日、全世界がコロナウイルスワクチンの出現を心待ちにし、技術的解決策にあらゆる希望を賭けている。このウイルスの問題だけでなく、それに関わる全てのことを解決してくれるというわけだ。何十億もの金を大手製薬会社に投資し、未だ存在しないワクチンを事前購入し、思い切った封じ込め策を行わず、一刻も早いワクチンの到着を待ち望んでいる。全ては、以前の日常が戻り、経済が回復し、何事もなかったかのように振舞うためである。
このような思考方法・行動様式は、まさしく現代的だ。これは、科学とテクノロジーの総和であるテクノサイエンスがどのような災害に対しても希望の地平を生み出すというモダニティのパラダイムに由来する。極端な気象現象が増えようが、不平等が拡大しようが、全体主義的政府が幅を利かせようが、どうでもいいのだ。科学とテクノロジーがいずれ解決策を与えてくれると言われる。実際、これは科学やテクノロジーに固有の問題ではない。問題は、経済成長というマントラ、それが引き起こす環境破壊・社会破壊、新たなテクノロジーを使えばあらゆる問題を解決できるという主張である。この考えで解決できるのは、今日市場を支配している企業、つまり、GAFAMという頭字語で簡略化して言われている巨大ハイテク企業(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)の利益率を維持することだけである。
予防は治療である
一般的な知恵の方が、GAFAMよりも、未来と人間について偉大なヴィジョンを持っているようだ。「予防は治療に勝る」という表現を聞いたことはないだろうか?この一般的格言は非常にシンプルだが、ターボキャピタリズムの格言とは全く異なるパラダイムを含んでいる。ワクチンは必要不可欠な治療法ではあるが、現在のような情況が予防できるとすればどうだろうか?これほどの規模の出来事を予防するなど本当にできるのだろうか?もちろん、できる。ただ、私達を苦しめているシステムの硬直性のために極度に難しくなっているのである。
予防するためには、その起源を知り、分析しなければならない。コロナウイルスは人獣共通感染症だと聞いたことがあるだろう。つまり、動物由来で人間に感染する能力を持っているのである。新種の病気の70%は動物由来であり、重要度が高いとWHOが宣言した病気は100%が動物由来である。このことで最初の指標が示される。人間と人間以外の動物との関係によって、新種の有害な病気が発生する可能性があるのだ。これはどのようにして生じるのだろうか?常に起こっているのだろうか?
人獣共通感染症:既存の病気
動物由来の病気は目新しいものではない。エボラ出血熱・ジカ熱・西ナイルウイルスなどは、残念ながら、人間の健康に影響を与える例として有名である。この種の病気の起源は、人間と人間以外の動物の接触にある。マダニが媒介して接触したり、野生動物の摂取によってもっと直接的に接触したりする。この見解は、生物多様性と非市街化地域への人間の侵食という問題に直結する。生物多様性は自然のバランスとして機能している。これが乱されると悲劇的結果をもたらしかねない。人獣共通感染症は次のように働く:宿主生物種の中に病原体がいるが、保菌種も複数存在する。保菌種は病原体の宿主だが、その健康は病原体に影響を受けない。こうした種が感染しても、病原体が拡散する見込みは低い。つまり、多様性が高い地域は病原体から身を守るための天然バリアとして機能しているのである。自然のバランスによって、こうした病気が人間まで到達しにくくなっているのだ。
私達は生物多様性を破壊している
人間が野生地帯を伐採し、都会化するプロセスを推し進めると、生物多様性のバランスが壊れ、未知の病気が人間に襲い掛かってくる可能性が高まる。多くの基本的実例がこのことを説明してくれる。
ギニア湾では、巨大多国籍企業が集約的漁業を行ったために、魚の数が半分に減ってしまった。伝統的漁師は生計の手段を失い、それと共に魚の値段が高騰し、魚を糧にして暮らしていたコミュニティも失われた。生計を立てようと伐採業者が参入し、森林伐採が始まり、食料供給のために野生動物との接触が始まった。こうして人間がHIVへ感染するようになったのである。
工業的単一栽培・伝統的農畜産実践の破壊・強制移住、要するに大資本による環境破壊が、これまで知られていなかった数多くの病気を出現させ、人間に恐ろしい結果をもたらしてきたのだ。
さらに、気候変動は生物多様性の損失と病原体の伝染という大混乱を加速させている。半都市部では淀んだ水がある種の蚊を増やし、病気の伝染を加速させている。さらに、生態系バランスの崩壊によってマダニのような別の主要感染経路も増加する。こうした情況に直面して、私達は、これらの虫を非難するという不条理に陥っている。既に見たように、虫を非難して済まされはしない。自然のバランスの破壊は人間活動の結果なのだ。テクノクラートの解決策は全てのダニを殺すことであろう。このような思考はこれほど不条理なのである。
活発なわりに脆弱なシステム
資本主義は「あらゆるシステムの中で最良」だと自身を売り込んでいるが、私達が唯一生息できる惑星の破壊を加速させている。新型コロナウイルス危機は、何十年も前から環境保護主義者が警告していたことを浮き彫りにした。つまり、過度に複雑なシステムには様々な脆弱性があり、深刻なストレスが掛かる情況では崩壊しかねないのである。それと共に、私達も道連れになる。国際貿易とビジネス回路が未曽有の速さで問題を拡大させる。国際的バリューチェーン(価値連鎖)は地域の経済的・政治的自律性を完全に失わせる。私達は、こうした生活様式が提供する利点以上に、現存する脆弱性・潜在的な脆弱性の方がどれほど危険なのかを示すもう一つの実例を目にしているのである。
今日、ワクチンは世界規模のパンデミックに対処するために必要な応急処置に過ぎない。しかし、目標は新たなパンデミックの出現を防ぐことでなければならない。そのためにはパラダイムシフトが必要である。テクノロジーの邪悪な面を全く示さずに、テクノロジーが全ての問題を解決してくれるとする現在のパラダイムとは全く両立しないパラダイムが必要である。
マドリー自治州には、これらのパラダイムの衝突を示す明確な実例がある。保健医療業界はプライマリーケアとトレーサーへの投資による予防措置の強化が叫ばれていたが、ネクロ-ネオリベラルのイサベル゠ディアス゠アユソ自治州政権は、パンデミック専用の新たな病院を建設すると決めた。一方で、公立病院の設備は閉鎖され、民間のリソースを管理して民衆が利用できるようにしてはいない。
新たなパラダイム
この危機のタイミングは偶然ではない。このような出来事が起こる土台を長年作ってきたのだ。医療システムへの投資不足・海外貿易への依存・観光産業の圧力と環境破壊の増大は、切り離して区別できる事象ではない。これまで見てきたように、地球全体の要素なのだ。健康は、看護師・医師・科学者だけの問題ではない。20世紀初頭に、病気と乳幼児死亡率を劇的に減らしたものの一つは、手洗いのような単純で個人的な衛生キャンペーンだった。今や、このようなホリスティックな考え方がこれまで以上に必要である。黙示録的でもなく、ブレードランナーの駄作でもない未来を示すパラダイムを生み出せるようになるには、新しい考え方が必要である。生物多様性を回復し、生活ペースを落とし、大企業世界から権力を剥奪し、商業的基準と利潤に支配されない物事に投資する。新たなパンデミックが生じた場合に備えて、現在こうした措置を取らねばならない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?