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労働運動内のアナキスト(2)

原文:https://blackrosefed.org/anarchists-in-the-labor-movement-2/
原文掲載日:2024年8月1日

この記事は、「労働運動内のアナキスト」と題した新しいインタビュー゠シリーズの2回目である。この回では、米国南部の2人の看護師にインタビューする。

タイトルが示しているように、このシリーズでは職場の組織化に取り組んでいるアナキスト達に話を聞く。話を聞く人々の中には、既存労働組合の一般組合員の中で戦闘的少数派を構築している者もいれば、新しい労働組合キャンペーンを通じて未組織労働者の組織化をしている者もいる。また、労働組合の支援が得られない情況下で職場闘争に勝つための能力を構築する方法を見つけている者もいる。

このシリーズの目的には、単に、米国労働運動にいるアナキスト闘士の存在にスポットライトを当てるという面もある。より本質的には、インタビューを受けた人達に、成功も失敗も含めて自身の経験を批判的に振り返り、一般化できる教訓を導き出してもらっている。

このシリーズでインタビューした人達は、全員ではないが、ブラックローズ/ローサネグラのメンバーである。

分かりやすさと長さを考慮して、回答は編集されている。


ザキリ(看護師)

BRRN:あなたの政治見解を一言でまとめてもらえますか?

ザキリ:無政府共産主義。政治経済を共産主義的に分析し、権力関係と国家に関して反権威主義プラクシスを行います。

BRRN:あなたが取り組んでいる組織活動の背景を教えて下さい。

ザキリ:私達はルイジアナ州のレベル1外傷センターで働く800人の正看護師で構成されるグループです。このセンターは、ハリケーン゠カトリーナ後に閉鎖された大規模公立病院の流れを汲む非営利団体です。5年前に働き始めた時から労働組合結成は私の夢でした。新型コロナウイルスによる明らかに切迫した必要性を受けて、これが加速したのです。それ以来、私達は何度も組織化に失敗しているのですが、最近のキャンペーンはこの春に本格化しました。近隣病院の別な看護師グループが、自分達の病院が私の施設の親会社に売却される寸前に選挙を行おうとしていたため、その組織化による多くのエネルギーが私達にも広まったのです。

BRRN:既成組合と組んでいるのですか、それとも独立しているのですか?

ザキリ:私達は既存の労働組合「全米看護師連合(NNU)」と協力しています。彼等が売却された別な病院で現場の看護師として既に働いていたからです。私も彼等と関わることを選びました。彼等が私達の活動を支援するために投じるリソースを数多く持っていたからです。南部で新しい施設を組織する際に既存の組合がリソースを投入するのは一般的ではありません。また、多くの組合より戦闘的な組織化アプローチを取っていることも分かりました。ストライキを厭わず、労使提携を嫌い、組合員増強に焦点を絞らず横断的な公正の諸問題に取り組んでいます。

BRRN:自身のアナキズムの政治見解は、同僚と共に権力を組織化することとどのように関係していると思いますか?

ザキリ:私の政治において大切なのは、一般の人々が急進化し、今いる場所で権力関係を資本から遠ざけるという信念です。それまで自分を政治的だと一度も思ったことのない人達が今やあらゆる闘争に関わっているのを見て興奮しています。これは全て、自分達の集団的力を、そして、支配階級との関係における自分達のポジションを認識することに基づくのです。

BRRN:アナキズムの政治について同僚と話すことはありますか?同僚と「政治」(世界情勢や地元の権力構造)について話しますか?

ザキリ:現段階で、多くの人がこの考え方に慣れていないので、なるべく避けるようにしています。

BRRN:労働組合の組織化は、社会変革や革命といったあなたのヴィジョンに合致していますか?

ザキリ:私は、変革と民衆権力について自分がアナルコサンジカリズム的な理論を持っていると言えると思います。労働組合は現代社会の資源を管理する上で徹底的に民主的な組織に限りなく近い。地域レベルで権力を掌握し、社会全体に広範な影響を及ぼすことは可能だ。このことを人々に示すことが私にとって労働組合を設立する上で最も重要な点の一つです。


デヴィッド(看護師)

BRRN:あなたの政治見解を一言でまとめてもらえますか?

デヴィッド:ここのところ俺を最も鼓舞してくれるイデオロギーはサンジカリズムかな。

BRRN:あなたが取り組んでいる組織活動の背景を教えて下さい。

デヴィッド:俺は南東部の大きな大学病院で看護師をしている。コロナ禍の最中、俺達の病棟の人達はかなりムカついていて、病院の他の場所でも同じように思っているって聞くようになった。管理職の友人から病院側が組合の動きがあると思っていると聞いて、組合ができるなら参加したいと思ったんだ。NNUは最近、州内の病院で選挙に勝ったばかりだったから、俺達の病院で組織を作っているのはNNUだろうなと思ったのさ。で、NNUに連絡して、俺達の病院で組織を作っているかどうか聞いたんだ。「違う」って言っていた。でも、もし俺が何かを始めたいなら、協力してくれるって言ってくれた。何人かの同僚にどう思うか聞いたら、みんな乗り気だったんで、始めたんだ。

残念だけど、俺達の努力は上手くいかなかった。2年以上かけて組織を作ってきたけど、積極的関わりはゼロになって、NNUは手を引いた。当然だと思うね。そうは言っても、努力が全く無駄だったわけじゃない。俺がいる病棟は、多分ほぼ完全に組織化されていたと思うけど、何年も前から求めていた新しい設備を手に入れたし、酷い看護師長は解任されて素晴らしい臨床チームリーダーに変わった。組合が出来るかもって聞いた病院側は、俺が働いてから最大の賃金アップをしたし、クリニカルラダーを達成するハードルも一部取り除いたし、駐車場手当も出すようになった。組合結成活動は、たとえ失敗に終わったとしても、間違いなく、俺達の病院の看護師に改善をもたらしたんだ。

BRRN:既成組合と組むか独立するか、どのように決断したのですか?

デヴィッド:俺達はNNUと協力した。俺達の施設は南部にあって、組合作りをとても怖がっていたと分かったんだ。皆、俺達の施設は強大で、施設側の思うように人を潰せるという印象を持っていた。だから、他の看護師達は、施設側に立ち向かえるだけ充分確立されていると思える組合に参加したいと強く望んでいるようだった。NNUとの協力によって、病院の看護師達は、実際に前進できる真面目な取り組みだと信頼するようになった。

残念ながら、独立して組織を作ったり、看護師以外の小さな組合と協力したりしても、ここまで俺達を牽引できなかったと思う。とは言え、NNUは完璧じゃなかった。NNUの指導部は、俺達の施設規模を理由に、俺達の取り組みにリソースを積極的に投入しようとしないんだなと感じた。ジョンズ゠ホブキンス病院で敗北した後、彼等は大病院システムに対してかなり臆病になっていて、小さな施設に重点を置いているようだ。より少ないリスクで簡単に勝てると思っているのさ。NNUのオルガナイザーがもっといて、経験豊富なオルガナイザーが多かったら、俺達にプラスになっていたとも思うね。NNUは俺達にオルガナイザーを割り当てて、その後、頻繁にオルガナイザーを変えていた。大抵は引継ぎが上手く行かず、そうこうしている内に問い合わせもできなくなった。それで、NNUは無責任で不真面目だという空気ができて、俺達看護師は間違いなく苛立っていた。

ただ、こうした問題が俺達のキャンペーンを敗北させたと言いたいわけじゃない。結局、俺達がぶち当たった大きな問題は、俺達の病院の離職率の高さだった。まぁ、熟練オルガナイザーがいなくて、オルガナイザーが頻繁に入れ替わるのも何の助けにもならなかったけど。それでも、NNUは恐らく俺達にとって良い選択だったんだろう。看護師達がこの取り組みを信頼するようになる扉を開けてくれたんだから。

BRRN:自身のアナキズムの政治見解は、同僚と共に権力を組織化することとどのように関係していると思いますか?

デヴィッド:俺にとって、職場の組織化は、アナキズム政治の究極の表現だ。俺がアナキズムに賛同しているのは、主に、社会・経済の民主的組織化を信じているからだ。俺が信じているのは、民主的に組織された民衆権力を仕事場で構築すること。俺達が権力の活用と権力の生産に参加するのは職場だ。つまり、職場で権力を得ることは、民衆権力を構築し、自分達の生活条件を変えるための最も直接的やり方の一つだ。これこそ俺が求めていることなんだ。

BRRN:アナキズムの政治について同僚と話すことはありますか?同僚と「政治」(世界情勢や地元の権力構造)について話しますか?

デヴィッド:職場でよく政治の話をするよ。同僚達は普通、政治に無関心だったり、進歩的/リベラルな人達だったりする。彼等と政治の議論をするんだ。彼等とそういった話をしたり、議論したりするのは楽しいね。同僚達は俺がかなり左寄りだと知っていると思うし、仲のいい奴等には、大抵、俺がアナキストだって伝えている。同僚達には左翼的な物言いをしないようにしている。余り左翼になじみがないと思うんで、そんな言い方しても話が通じないんだよ。まぁ、皆いつも上司や経営陣の悪口を言いたがるけど。自分の仕事を管理すること・職場で権力を持つこと・仕事に対する報酬について話すと、皆本当に生き生きとしてくる。また、職場民主主義についての話は、人を結び付ける考えなんだって分かった。政治に無関心な人達は既に民主主義について理解しているから、「なぁ、俺達の職場は何でこんな風になっていないんだ?俺達には政府に対する発言権があるはずだが、何で仕事中に発言権はないんだ?」って具合になるのは大した飛躍じゃない。皆分かっているみたいだよ。

BRRN:あなた方の組織活動には、自らを「政治的」と見なしつつも、異なる政治的伝統や政治組織に属している人々もいますか?

デヴィッド:他の看護師達と繋がる手助けをしてもらえないかと思って、市内の左翼組織に連絡したんだけど、残念ながら余り手助けにはならなかった。政治的にアナキスト寄りの人達も参加していたけど、本当に積極的に一貫して関わってくれた人達もいれば、そうじゃない人達もいた。正直なところ、俺達のイデオロギーを公言しているような人達が現れなかったのにはちょっとがっかりしたね。さらに、多くのアナキストが無批判にトラベルナース(訳註:看護師不足の病院や施設で、期間限定で働く看護師)をやっているのにもちょっと凹んだ。トラベルナースは施設のリリースバルブみたいなもんで、誰も解雇せずに施設側が看護師を入れ替えられるようにしている。スタッフがいなくなったから最終的に俺達のキャンペーンは台無しになったんだ。

俺達が行き着いたのは、スタッフ規模で空洞になった多くの病棟だった。そこには、問題なく定年退職しようとしている超高齢の看護師と、ここに留まるつもりのない新卒看護師しかいない。どっちも組合を実現するために自分の病棟でリーダーシップを引き受けるつもりなんてなかった。こうした病棟でリーダーを努められる人達、何年も勤務している中堅看護師、同僚を良く知っている人達は、全員トラベルナースになった。特に、政治的な奴等や、労働条件をアジっていた奴等がそうだった。奴等はしばらくの間は良い給料をもらっていたかもしれないが、結局は、俺達全員がさらに酷い状態になっている。アナキズムに賛同する人は皆、アナキズムに基づいて行動する気がないのなら、政治的アイデンティティを持つ意味があるのか考えるべきだと思う。

BRRN:労働組合の組織化は、社会変革や革命といったあなたのヴィジョンに合致していますか?

デヴィッド:そういったわけで、俺は「革命」という考えを少し信じられなくなっている。革命が実現するかどうか分からない。俺達の運動は現時点で比較的マージナルで、リーチも限られていて、権力はさらに限られている。これは左翼全体に言える。だから、権力を構築でき、そこから拡大できるニッチを探さねばならないと思う。そうすれば、危機が起きた時に、自分達の立場を活用して、より大きな民衆権力を得られるようになる。看護師組合はそのための優れた手段だと思う。例えば、次に新型コロナウイルスのような危機が起きたら、俺達が病院を乗っ取るかもしれない。そこから先は誰にも分からないけど。

BRRN:組織を作る上で、最も役立ったリソースは何ですか?

デヴィッド:正直言って、俺は理論をあまり読むほうじゃない。これまで何年もラディカルな組織化に参加していて、仲間達から多くを学んだね。

BRRN:労働組合を組織しようとしているアナキストにどのようなアドバイスをできますか?自分が始めた時に、知っておけば良かったことは何ですか?

デヴィッド:あぁ、もっと違うようにやりたかったよ。第一に、俺達は慎重に始め過ぎた。もっと早く始めればよかった。数カ月早いだけで、大きな違いがあったかもしれない。すぐに皆に声を掛けよう。俺が話すのを先送りにしていた人達がたくさんいて、彼等は支援してくれたし、助けたいと思ってくれていたんだけど、俺が始めた時には職場からいなくなっていた。こんなふうにいろいろ遅くなったのは、結局、安全上の懸念からだった。安全は確かに重要だが、そのためにペースを遅くしちゃダメだ。もちろん政治的な人達にも接触すべきだけど、当てにしちゃダメだ。同僚と連帯の精神を持って関わることが大切だと思う。職場で皆一緒にやっているのだから、仕事仲間全員に訴えたいと思うはずだ。

もう一つ言いたいことがある。これは恐らくどの組合にも当てはまると思うけど、NNUと協力する時には、独自の連絡網を維持するようにしよう。オルガナイザー達は、自分達を通じて多くの人脈を繋ごうとするが、そのフォローアップがどれほど上手いかどうかには、当たり外れがある。さらに、一旦組合が結成されると、NNUは余り体制を整えてくれなくなるようだ。統治機構がない中で、全国組織の指導部を既定のものとせず、権力を一般組合員の手に残し続けるようにするには、その空白を埋めるために使える独自のネットワークを維持しなければならない。オルガナイザーに組織化を委ねてはならない。労働者権力を勝ち取り、維持するために積極的に関わり続けねばならないんだ。

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