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「月島慕情」浅田次郎著

「月島慕情」浅田次郎著・文春文庫2009年11月発行

著者は1951年、東京生まれ、自衛隊に入隊、アパレル業界など様々な職種につく。「蒼穹の昴」「中原の虹」など清朝末期の作品他多くの著書がある。

本書は表題「月島慕情」のほか6作品の短編集。「月島慕情」は明治末から大正にかけての吉原を舞台とした物語。同じく浅田の大正時代の作品には「天切り松・闇がたり」がある。この時代は江戸時代の雰囲気が残り、日本人の原点を感じさせる。

吉原は1911年(明治44年)に江戸時代の建物が大火で全て焼失した。その後、石造りの半分西洋化した吉原が再建された。しかし1923年(大正12年)9月1日関東大震災で再び壊滅した。明治末からの大正12年まで13年間の短い吉原。幅一間のおはぐろどぶで囲まれ、南北150間、東西200間の内側に、遊郭大小270軒余り、2,000人の娼妓を擁していた。

吉原遊女・ミノは12歳のとき吉原・亀清楼に身売りされた。26歳で遊女トップの「生駒大夫」と呼ばれまでになる。30歳を過ぎて、駒形一家の若衆・時次郎に身請けされることが決まる。二人は相思相愛の仲。自由を求め続けたミノの夢がやっと実現しようとする。しかし時次郎の家庭事情を知って、ミノはある決断をする。

月島とは築地の沖にできた人口の島。ここから見る月がきれいで月島と名付けた。遊女と博奕打ちとの恋愛、下町人情が語られ、最後は涙なしで読めない哀しい物語である。

「シューシャインボーイ」は、終戦直後の新宿ガード下の靴磨きの老人が主人公、戦後大きく成長した新興企業のワンマン社長、その社長付運転手となったり元銀行員、三人の人間関係と絆の物語。著者の好きな競馬が物語に花を添える。

戦争と戦後復興がテーマ。宮城まり子の歌った「ガード下の靴みがき」のような人間愛と市井の世界で、人知れずに消えていく庶民の物語。無名の人の中にこそ、真実は存在するのであろう。どの短編小説も、読後にほのぼのとした人の温かみと哀しみが残る作品集である。


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