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「料理の日本史」五味文彦著

「料理の日本史」五味文彦著・勉誠社2024年9月発行

著者は1946年生まれの歴史学者、東京大学、放送大学名誉教授、専門は日本史。著書に「院政期社会の研究」があり、この中で院政期の政治上の事件は必ず男色関係が絡むと強調し、画期的な「男色論文」と話題となった。

本書は縄文から現代まで、料理という縦糸を通じて、日本の歴史を指し示す。食べる行為は、おのずと歴史を咀嚼することでもあると言う。

縄文時代はドングリ、トチの実を食べ、海水より塩を作った。弥生、古墳時代は粟を蒸したこわ飯、魚の塩焼きを食べた。平安時代貴族の食事はあわび等15品、下級役人で7品の食事内容、庶民は一汁一菜と玄米の粗食である。

12世紀の鎌倉中期に書かれた「病草紙(やまいのそうし)」という書籍に「歯槽膿漏の男の食事内容」が載っている。飯と汁と3種類の菜を並べる一汁三菜で「日本料理の基本形」である。器は洗って何度も使える日常の道具で、安価に購入できた漆塗りと言う。

饗応(きょうおう)や宴などで供された本膳料理は、権勢や華美を競う手段となって社会的な役割を果たした。武将や公家の献立をじっくり読むと、全国津々浦々から山海の珍味や食材を集めること自体が、力の誇示だったのだと気づく。

江戸時代の屋台売り、振り売り、京都の料理店の発展など、多くの図面、絵を多用して解説する。特に近世では「料理物語」「日本山海名物図会」など食関係の書籍の刊行された。

とりわけ江戸時代は商人や職人の活躍が目立つ。廻船の発達、食をめぐる歴史の諸相において、江戸、大坂、京都の三つの都市を繫ぎ、食事、食料は近世経済を活性化させる毛細血管となっていったと主張する。

令和の現代、人間社会も進歩して社会保障制度も充実した。しかし、その社会保障の底辺に流れている根本思想は「働かざる者、喰うべからず」の自己責任と上から目線、そして江戸時代から続く、お上的な「お情け主義」による権力者思考かもしれない。

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