「弱い円の正体・仮面の黒字国日本」唐鎌大輔著
「弱い円の正体・仮面の黒字国日本」唐鎌大輔著・日経プレミア新書2024年7月発行
著者は1981年生まれ、みずほ銀行エコノミスト。
本書は2022年発行「強い円はどこに行ったのか」の後続書である。前書で円高の流れは終了、今後は構造的な円安の期間に突入したと断じた。
本書は前書の流れを受けて、円安の構造的仕組みを国際収支分析によって明らかにする。第1章で「新時代の赤字」として従来からの貿易赤字に加えて、サービス収支での「デジタル赤字」の実態を明らかにする。
第2章では経常収支黒字も関わらずキャッシュフローとしての収支分析から円転されない、日本に戻らず、海外に滞留する黒字額の存在によって仮面の経常収支黒字国・日本の現実を示す。
第4章で購買力平価と現実の為替レート乖離拡大によって、通貨の基準水準が不透明になっている。その原因は2012年以降の貿易黒字の消滅、赤字化に原因がある。それによって円高期間は2020年で完全に終結。以降は構造的な円安期間に突入した。
第5章で日本の今後の対策は海外資本による対内直接投資額増加によってGDPの増加を図る。半導体、バイオ分野での直接投資の増加が必須であると言う。
対内直接投資のモデル国としてアイルランドを挙げる。同国はGAFAなどIT企業、グローバル企業による投資が増加している。アイルランドは税制優遇による海外資本の導入であり、日本の実態とは大きく異なる。
最近、日本はGDPでドイツに抜かれ、第4位に転落した。ドイツの人口は日本の7割。同じ人口減少国でも絶対的人口数は日本より少ない。
経済成長は労働力と資本と技術革新の掛け算の結果である。ドイツとの違いは長年の経済成長力の差であり、同じ製造業中心でも資本と技術革新の差に大きな違いが出た結果である。
通貨に限定すれば、日本は構造的な円安と輸入インフレによる物価高に苦しみ、企業は円安による表面的利益向上で潤う。企業と庶民生活の乖離が拡大し、歪んだ経済成長になっている。
名目賃金上昇でデフレは脱却したの声もあるが、実質賃金は低迷、生産性も向上していない。通貨対策、金融政策による対症療法ではもう限界に来ていることは明らかだろう。
生産性向上と技術革新による経済成長へ向けた具体的対策を早急に構築する必要がある。それは目先の成果でなく、長期的な展望を持って実行しなければならない。