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「パレスチナ人はなぜ苦しみ続ける・なぜ国連は解決できないのか」高橋宗瑠著
「パレスチナ人は苦しみ続ける・なぜ国連は解決できないのか」高橋宗瑠著・現代人文社2015年発行
著者は1968年生まれ、2009年~2014年まで5年間国連人権高等弁務官事務所パレスチナ事務所副所長を務めた。現・大阪女学院大学大学院教授。
著者が務めたパレスチナ事務所は1996年設置。人権高等弁務官事務所の任務は、人権状況の調査報告、人権保護の環境整備改善を目的とする。一方、難民弁務官事務所は難民の救済支援を目的とする。人権侵害の把握が主任務であり、最も現実に近い場所に位置する。
当時のパレスチナの状況は、2006年総選挙でハマス勝利、政権を獲得した。しかし「イスラエルを認めない政権は正統な政府でない」とする米国のクーデターにより、内戦化、西岸地区から追放され、ファタハ、イスラエルによってガザ地区に封印された。
副所長就任中の5年間では、2009年「キャスト・レッド作戦」2012年「ピラークラウド作戦」2014年「ディフェンシブ・エッジ作戦」とイスラエルによる3回の大規模軍事進攻が実施された。その間、ガザ攻撃だけでなく、西岸地区でもイスラエル軍によるパレスチナ人殺害、人権弾圧政策が強化された。
本書は一般市民パレスチナ人への人権侵害、イスラエルの軍事占領の実態、歴史を問う。著者は言う。パレスチナ問題は宗教、民族の問題ではない。ハマスはテロ集団でもなく、民族帰還の抵抗運動体であり、正式に選ばれた政党である。問題の本質はイスラエルの入植者植民地主義(セトラーコロニアリズム)と白人至上主義による人種差別主義に原因がある。ゆえに極めて政治的な問題であると。
米国の民主主義とは、「自分に都合の良い人を選ぶ民主主義」である。昨日5月10日、国連のパレスチナ正式国連加盟支持決議が採決された。賛成は日本を含む143か国、反対は米国、イスラエルら9か国、英国など欧州国は棄権し、棄権25か国の結果だった。正式加盟には安保理事会の勧告が必要である。先月、米国は拒否権行使して、加盟勧告を否決している。
パレスチナ問題、ガザ攻撃の本質は欧米文明側から中東、イスラムを野蛮側とみなす欧米人種主義と植民地主義の歴史的全体を含めた結合の結果である。私たちは単純に暴力、憎しみの連鎖の一言で、この現実を見過ごしてはならないだろう。