![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/158063973/rectangle_large_type_2_8c488edae67bf32a33ca746c86d797d6.png?width=1200)
「なぜガザなのか」サラ・ロイ著
「なぜガザなのか・パレスチナの分断、孤立化、反開発」サラ・ロイ著・青土社2024年8月発行
著者は1955年生まれ、ホロコースト生き残りのユダヤ人を両親にもつユダヤ系アメリカ人。ハーバード大中東研究所上級研究員。専門は政治経済学。「ホロコーストからガザへ・パレスチナの政治経済学」「ガザ地区・反開発の政治経済学」の著書がある。
書名に「なぜガザなのか」とある。理由はイスラエルの目的の本質がガザに現れているため。即ち、パレスチナ問題の核心がガザに現れているからだ。
本書は、ガザ地区研究者の「ガザ地区・反開発の政治経済学」2016年発行書籍の増補論文部分で、2014年イスラエルの大規模ガザ攻撃の直前に書かれた「反開発の完了・ガザ地区を生存不可能にする」と、2015年に書かれた「ガザ地区に対する数々の戦争に対する一考察」の二つの論文の翻訳である。
本書刊行に際し、2019年書き下ろし論文「受け入れがたい非在・ガザ例外主義に対抗する」を追加、さらにパレスチナ問題研究者・岡真理、早尾貴紀、ジャーナリスト・小田切拓の論文を添えている。
パレスチナ問題は、民族、人種、テロなどの複雑な歴史的問題と言われる。しかし問題の本質は極めて単純である。それは第一大戦後に生まれたユダヤ人のシオニズムが発展、第二次世界大戦終了後のユダヤ人国家建設に関し、国際政治の矛盾が表面化したもの。
その結果、国連によるパレスチナ分割決議が1947年に採決された。1948年にはイスラエル建国宣言され、同時にイスラエル対アラブ諸国との中東戦争が開始された。
その意味でパレスチナ問題とは、極めて政治的な問題である。さらに冷戦終了後の大国の利害、大国の都合が問題を複雑化させている。
その大国の政治的利害を全く関係のないパレスチナ人に押し付け、パレスチナ人の領土、居住地を奪い、日常生活、自由さえも破壊してしまっている。
欧米諸国は、パレスチナ人よるイスラエル「修正シオニズム」に対する民族抵抗運動を「テロとの戦い」にすり替え、米国はイスラエルに軍事支援、国際社会は人道支援の名のもと国連に丸投げして、パレスチナの現実に目を背け、解決の道を放棄している。
本書でいう「反開発」とはイスラエルの占領政策がパレスチナの自立、産業発展、国際交流を禁止し、イスラエル内に囲い込み、依存させる政策を言う。サラ・ロイはこの「反開発政策」は完了して、ガザ地区では生存不可能にする政策を実行しているという。
ガザ地区は国際社会の支援のみで生存を維持している。支援も今回のイスラエル攻撃で中断、住宅はおろか水も食料もない飢餓状態にある。いま必要なのは支援ではなく、ガザの占領廃止、ガザの自由を保障することである。
今回のイスラエルガザ攻撃によって、ガザの企業の82%が損壊を受けたか、完全に破壊されたという。灌漑(かんがい)設備など農業資産の80~96%が破壊され、食料生産能力がマヒした。ガザの域内総生産は、22年の水準の6分の1以下まで縮小した。まさにジェノサイド、ガザ消滅がイスラエルの目的と言わざるを得ない。
日本を含む国際社会は、イスラエル占領政策によるパレスチナ人からの収奪に対して、結果的に共犯者の役割を果たしている。それでもまだパレスチナ問題を「テロとの戦い」と言い張るのだろうか?