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文:新井卓 爆心という言葉から、風が吹いてくる。 大地や海原に垂直に穿れた底なしの穴──その縁に立ち見下ろす顔に、暗がりから吹き上がってくる気流。生臭く生温かいか、あるいは冷たくよそよそしいか。それはその傷跡の古さ新しさではなく、爆心に注ぐわたしたちの眼差しの熱量によるのだろうか? GHQ検閲下、丸木位里と赤松俊子(丸木俊)が出版した絵本『ピカドン』(ポツダム書店、1950年)にある一節「爆心地の話をつたえてくれる人は、誰もいません。」から、中心が沈み込み虚なカルデラの形