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爆心へ To Hypocenter vol.1

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トリニティでの原爆実験、その後に続く広島、長崎への原爆投下から80年を迎える2025年。 日本国内外で活動する現代美術作家、キュレーターが中心となり、プロジェクト「爆心へ/To …
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爆心へ / To Hypocenter

文:三上真理子 Text: Mariko Mikami  *English follows このプロジェクト名を決めるとき、気になったのは、助詞の「へ」。 この「へ」は、爆発の中心に向かっていく移動を示す矢印としての「へ」と解釈することもできるし、私が最初に想像したように、手紙を綴るときの「親愛なる〜/Dear」としての「へ」と読むこともできる。 これまで、メンバーとの対話や書籍や映像を通して、同じ「爆心」においても、体験した人によって見え方がまるで違うことーー例えば、

再生

グラウンドゼロへのバーチャルな道のり

(動画:長編映画:PILGRIMAGE(和訳:巡礼)のバーチャル撮影風景)ー2020年2月19日、フランクルフルト郊外ハナウで銃乱射事件が起こる。過激的な右翼思想の白人男性が、移民系のドイツ人を合計9人殺害。中心街にあるシーシャバーと、郊外にあるキオスク兼バーで殺害は行われるが、警察は最初の発砲から1時間以上発動さえしなかった。現在撮影中の映画”Pilgrimage"(巡礼)では、二人のアジア系ドイツ人がヴァーチャルリアリティーを通して、近年ドイツで起こった外国人、移民を狙った殺害事件の”爆心地”グラウンドゼロに連れて行かれて、過激化していくという物語。このシーンでは、ハナウへ実際に役者と共に赴いて撮影をするということがどうしてもしっくりこなかったために新たな方法を考えざるを得なかった。 カメラを、前、横、後ろに設置した車で、殺害者が通った道のりだけを収録。その車窓風景を使い、それ以外はバーチャルスタジオでその道のりを運転しながら、グラウンドゼロへ向かっていくというシーンを撮影。たった4年前の傷を抱えたいまだにセンシティブなこのグラウンドゼロ。そこに向かっていくためには、決して近道はない。だからこそ、様々な工夫が必要であり、今回行ったバーチャルプロダクションなどの方法を含め、様々な想像力、表現力を使うことが求められる。グラウンドゼロに何かを探し求めるのではなくて、そこへ向かう過程にこそ、その場にいなかった人間が果たせる役割があるのではないだろうか?2024年9月29日竹田信平

爆心と環状島モデル

文:新井卓 爆心という言葉から、風が吹いてくる。 大地や海原に垂直に穿れた底なしの穴──その縁に立ち見下ろす顔に、暗がりから吹き上がってくる気流。生臭く生温かいか、あるいは冷たくよそよそしいか。それはその傷跡の古さ新しさではなく、爆心に注ぐわたしたちの眼差しの熱量によるのだろうか? GHQ検閲下、丸木位里と赤松俊子(丸木俊)が出版した絵本『ピカドン』(ポツダム書店、1950年)にある一節「爆心地の話をつたえてくれる人は、誰もいません。」から、中心が沈み込み虚なカルデラの形

におう / When We Were Together Inhaling the Same Scent

文:小林エリカ Erika KOBAYASHI    *English follows Japanese これは、「水爆の父」とよばれたアンドレイ・サハロフ博士の言葉である。 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの本の中に、アレーシ・アダモービッチとの対談の中で語られた言葉として、引用されている。 These are the words of Dr. Andrei Sakharov, known as the 'father of the hydrogen bomb.'