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【映画感想文】強奪されようとする故郷を武器を持たずに守り続ける「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」

SNSのTLにガザの子どもたちの遺体写真を見るようになって、どのくらい経っただろうか。

このドキュメンタリー映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」は、パレスチナ人のバーセル・アドラーとユダヤ人のユヴァル・アブラハームらが共同で撮った、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の「日常」だ。

彼らの日常は人権を侵害されることの繰り返しだ。

ずっと住んでいる土地にいきなり兵士たちがやってきて、「どけ!」と言われる。どかないとなったら、銃を構えた兵士たちとブルドーザーがやってきて家を壊す。途方に暮れた住人が、また家を建てる(コンクリートブロックの壁にトタン屋根のような本当に簡易的なものだ)。また壊されてる。また建てる。また壊される。

それが親の代からずっと繰り返されている。反抗した人(武器など持っていない)が、撃たれることもある。兵士たちだけではない。西岸地区に移ってきたイスラエルの「入植者」たちも、武器を持って襲ってくる。そしてまた丸腰のパレスチナ人が撃たれる。警察や裁判所はパレスチナ人のために何もしてくれない。そもそも、パレスチナ人には自由に移動する権利さえない。水道や電気など最低限、必要なインフラも攻撃され奪われている。

「そんなところにいなくていい。どこかに行けばいい」と言う人がいるかもしれない。そういえばトランプが実際に言ってたっけ。

トランプ氏はさらに、ガザの人々が「悲惨な生活を送っている」と述べ、移住すべきだと主張。その費用は中東の裕福な国々が負担し、ガザの人々が「快適で平和に暮らせる」ようにすべきだと述べた。

アメリカがガザ地区を「引き取る」とトランプ氏が発言、ネタニヤフ氏との会談後
2025年2月5日 BBC NEWS

ちなみにこれは、トランプが考える未来のガザの動画。ガザでのパレスチナ人の死者数は9カ月で6万人超とも言われている。彼らを殺してその土地の上にこれを?


なんでもこんなふうに単純に考えられたら、何かに深く悩むなんてこともないんでしょうね。うらやましい。でも世界は積み木でできていないし、人をコマのように動かすことなんてできない。性犯罪を疑われる人が大統領になってしまうくらいなんだから実際、世界は相当に複雑だ。

映画を観る前に読んでいた本

「なぜガザなのか:パレスチナの分断、孤立化、半開発」サラ・ロイ著 岡真理・小田切拓・早尾貴紀 編訳(著者のサラ・ロイはホロコーストを生き延びたユダヤ人を両親に持つアメリカ人。ハーバード大学中東研究所上級研究員)を読むまで、イスラエルとパレスチナの間で起こっていることについてよくわかっていなかった。

本書にはこう書かれている。

イスラエルはパレスチナと、地域内で勢力争いをしているのではない。人口の大半が「流入民」でありながら、先住民から土地を強奪しているのである。しかも最終的には、最小限の土地とともに先住民の人口だけを自国と切り離そうとしているのだ。これは人口の「入れ替え」だ。

「なぜガザなのか」P27

そしてガザ地区と西岸地区(このドキュメンタリーの撮影地)についてイスラエルがどう考えてきたかについては、以下のように説明している。

西岸地区は、自国領候補地である。ガザ地区は(沿岸で発見された地下ガス田の利権関係で土地の領有については不透明な部分があるが)、領土を奪った後の人口の「要処分地」だ。

「なぜガザなのか」P31

また、このあたりもわたしは誤解していたと思う。

パレスチナ人を、ガザ地区の民衆を、たんなる客体や犠牲者としてはならない。それでは人道援助と同じくガザ住民を救済対象とみなす構図に陥ってしまう。そうではない、それではいけない、とロイは強調する。(中略)それゆえ私たちは、イスラエルと国際社会を批判しながらも、行為主体としてのパレスチナ人を、ガザ民衆の行為主体性を、どこまでも尊重する姿勢が必須なのである。占領をゆさぶり転覆させる力はパレスチナに、ガザ地区にあるのだから、とロイは語る。

「なぜガザなのか」P20

パレスチナで起こっていることを知るのに、小説「とるに足りない細部」もとても役に立った。著者はパレスチナ人の女性だ。

過去に起きた少女のレイプ殺人について調べるパレスチナ人の女性が主人公。彼女は西岸地区に住んでいて、日常的な移動にさえ命の危険を感じている。「何もしてない」のに。


人と土地の深いつながり

人と土地の繋がりについて思い知らされたのは、東日本大震災のときだった。わたしもそれまでは単純に、「何かあったら引っ越せばいい」くらいに思っていたかもしれない。

けれども、東日本大震災に限らずどんな災害の被災地の人たちも簡単には土地を離れたりしない。離れられない。離れる人もいるが、何が起ころうとそこに元から住んでいた人がいなくなることはない。人と土地の繋がりは深く複雑なのだと、その度に思い知らされる。

パレスチナの場合、避けられるはずの土地の強奪なのだ。だから映画の中でも監督であるバーセルが言う。「パレスチナ人を追い出すことはできない」と。

政治家に命令されてパレスチナ人の家を壊し続ける兵士たちを見て、彼らの方を不憫に思った。




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