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No.2 岩井勇気 「僕の人生には事件が起きない」

お笑いコンビ「ハライチ」の岩井さんによるエッセイだ。ハライチの目立たないほう。そんな風に呼ばれがちだが、この人はネタ作り、絵、ピアノ、サッカーなど多彩な能力を持つ。

僕の人生には事件が起きない。
そう。本書では事件が起きない。それなのに、違う角度から日常を見る筆者のショートストーリーに、思わずクスリと笑ってしまう。ほんの6ページ程度の物語が20以上詰め込まれている。いずれも筆者の日常に根差したものだ。

私が気に入ったエピソードを1つだけ紹介しよう。

風邪をこじらせた筆者は保温性の高い水筒を買って、そこに温かいはちみつドリンクを入れて飲んでいたことがあった。風邪の具合もすっかり良くなった著者は、ある時からあんかけラーメンにハマる。あんかけラーメンというより、あんかけスープに中毒性を覚えたのだ。スープを自分の好きな時に飲みたい。そう思った著者は、以前購入した水筒にあんかけスープを入れればいいのだ!という謎のひらめきを得る。いつもの日常の中に、あんかけスープという非日常が生まれることで、著者の妄想は広がっていく。人前であんかけスープを飲む背徳感に興奮を覚えているのだ。ある種の変態としか言いようがない。

本当に何気ない日常なのだ。それなのに、いや、それだから、読者は情景を浮かべてにやけてしまう。
エピソードの核になっているのは岩井さんの独創的な視点と感情の起伏だ。日々の何気ない喜び、怒り、焦り、妄想が起点となってエピソードを創り上げている。
僕の人生には事件が起きない。いや、誰の人生だって毎日が事件ばかりではない。

「芸能人はみんな、化学調味料で元の味などわからなくなるくらい嘘のように濃い味付けにして(話を)提供してくるのだ。そんなものばかり食べていると、そのうち舌がバカになる。物の味なんてわからなくなってしまう。事件が起きなくても、楽しめないわけではない。平坦に見える道でも、顔を近づけてみると、いびつにぐにゃんぐにゃんと曲がっているのだ。」

そういって岩井さんは本書を締めくくる。
違った角度で日常を見てみよう。本書は地に足をつけて楽しめる日常を示してくれる。何気ない日常にも変化はあるのだから。

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