対談インタビュー#1_稲垣さん・伊勢田さん・酒井さん・玉有さん(前編)
書籍『描いて場を作るグラフィック・レコーディング 2人から100人までの対話実践』の発売に伴って、「場づくり企画部」が発足しました。グラレコや対話、場づくりにかかわるインフォメーションやコンテンツを発信したり、関係性がうまれていくキッカケづくりを行っていきます。
その第一弾!として、編著者・有廣悠乃(ありひろ ゆうの)さんと共著者のみなさんによる対談インタビュー企画を始めます。
はじめに
書籍『描いて場を作るグラフィック・レコーディング 2人から100人までの対話実践』について
2021年7月7日(水)の七夕に『描いて場をつくるグラフィック・レコーディング 2人から100人までの対話実践』が発売されました。
既にグラフィックレコーディングを実践し次のステップを目指している人にはそのヒントになるような、そして「グラレコって何?」「絵心がなくてもできるの?」という人にはグラレコの効果や可能性を感じてもらえるような一冊になりました。
『場づくり企画部』について
編著者・有廣さんの「この本から、グラフィックレコーディングや、場づくり・対話に関わる人とつながって、一緒に未来を描いていきたい!」という声から、そんな仲間たちがつながり・共に旅をしていくためのプラットフォームになるべく『場づくり企画部』が立ち上がりました。
『場づくり企画部』では本を読んだ皆さんはもちろん、場づくり・対話に関わる人たちが、ゆるやかに心地よくつながれるようなキッカケを作っていきたいと思っています。併せて、グラレコや場づくり等にかかわるインフォメーションを発信していく予定です。
その第一歩として、共著者への対談インタビュー企画を始めることにしました。
編著者・有廣さんと共著者による対談インタビュー企画について
この本には有廣さんと、総勢34名の共著者がいます。
みなさんには、スキルだけでないグラレコのエッセンス、当時の想いや葛藤など、ぎゅっと濃厚にまとめて頂きました。
一方、載せきれなかったこともたくさんありました。
「もっとエピソードがあるのに、伝えきれないのはもったいない!」
「共著者のみなさんのパーソナルな部分や、想いも伝えたい!」
ということで、有廣さんが共著者のみなさんにインタビューする企画をはじめます!
初回は、稲垣奈美(いながき なみ)さん、伊勢田麻衣子(いせだ まいこ)さん、酒井麻里(さかい まり)さん、玉有朋子(たまあり ともこ)さんにお話を伺いました。
4名それぞれの現在地
――みなさんが普段どんな活動をされているのか改めて教えて下さい。
稲垣
マーケティング会社で商品開発のお手伝いなどをさせて頂いており、その中で会社員としても個人としてもグラフィッカーとして可視化のお仕事をしています。
マーケティングの仕事では、コロナもあって新しい商品を生み出すにしても今までと違う方法の必要性が高まる中「何のために私たちはこの商品を作るのか?」というWhyを見つめ直すワークショップ等も増えてきています。
そんな場面で、グラフィックレコーディングによる可視化がある方が場づくりがしやすいので描いています。
酒井
わたしは驚くべきことにグラフィックレコーダーではないんですね。
35年弱サラリーマンとして勤め、今はコンサルタントや研修講師として企業のサポートをしてます。今回本に載せた事例はほとんどイラストのないホワイトボードの事例です。
サラリーマン時代に企業戦士のおじさんたちが話し合いやすくするための緩衝材としてグラフィックレコーディングによる可視化を使った、その時の経験を書いています。
外の人になった今でもホワイトボードや模造紙の前に立っていますが、言葉をたくさん聞き取れてしまうので絵よりも文字をかいている量のほうが多いかもしれません。
玉有
徳島大学でファシリテーターとして仕事をしています。国立大学でこの肩書で仕事している人は他にいないと思います。国の交付金事業のため学内外連携が重要で対話の場づくりをする人材がほしいというニーズがあり、最初の事業ビジョン作成のワークショップから関わって、その後ファシリテーターとして雇われています。
それまでは大学内の地域創生センター(現 人と地域共創センター)で教員を3年、フリーランスで「たまにファシリテーターもするグラフィックレコーダー」6~7年を経て、大学に戻りました。
いまは学内外の会議やワークショップ等、連携のための場づくりをしており自分の軸が「グラフィックレコーダー」から「ファシリテーター」に段々変わっていて、手段として描くことを使ってますっていう感じです。
教職員のみなさんはガチガチな雰囲気があるんですけど、「ホワイトボードかきますよ!」とふわっと入って「あ、この人いると助かるな」って気持ちになってもらいバリアを崩していく、っていう役割ですね。
伊勢田
研修やコンサルティングをしている会社で働きながら、複業をしています。そのベースとなっているのは本の1章に牧原ゆりえ(*1)さんが登場されてますが、その方々と『Art of Hosting and Harvesting』(*2)っていうプラクティスを実践していて、そのひとつの手段としてグラフィックレコーディング・ファシリテーションを使っています。具体的にはグラレコ依頼にはじまり、学生と社会人が共に学ぶ講座の取りまとめや時々コマをもらってファシリテートしたりしています。
また、深層民主主義ムーブメントにも関心を持っています。例えば、女性は生理の時に痛み止めを飲んで仕事したり、家族にケアが必要な人は時間をやりくりして夜中仕事をするなど、めちゃくちゃ頑張らないと一般的な男性社員と同等に評価されないようなことってあると思うんですが、そのような構造的な不平等が嫌なんですね。
きっと日本の組織でたくさん起こっていることなんですけど、研修の会社にいるのでその先の何千人もの受講生に影響を与えられる、世の中を変えられる可能性があると思っています。
そのための小さな動きとして社内でこっそり、会社をどう変えていきたいかとか、女性の人だけで集まって悩みを打ち明けたりとかの対話の場をつくり始めています。
*1…牧原ゆりえ(まきはら ゆりえ):一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事、Art of Hosting Japan世話人。
*2…Art of Hosting and Harvesting(アートオブホスティング&ハーベスティング):参加型リーダーシップを学び、実践する技法。日本をはじめ世界中で合宿型トレーニングも行っている(現在日本での対面トレーニングは停止中)。
この本が生まれることに対する感動があった
――本の執筆依頼が来た時、どう思いましたか。
玉有
わたしは方法論ではなく実践例の本を作りたいっていう話自体がグッときました。グラフィックレコーディングを始めた頃は周りに実践者がほぼ居なかったので、こういう本があったらどんなに助かっただろうって思ったんですよね。
「わたしも書きたい!その時の自分に読ませたい!」という気持ちがすごくありました。
有廣
具体的に何に悩んでいたんですか?
玉有
大学の地域創生センター時代に、中山間地域での公開講座の内容を受講生のみなさんにしっかり持ち帰ってもらうために何かできないかな?と模索してた時グラレコに出会いました。
描き続けてみると「表面上はこういう事象が起こってるけど、実はこういうことが参加者の中で起こってるな!」っていう実感が生まれてきたけど、本当にそうなのか、さらに進めるために何が必要なのかはわからなかった。東京で講座があると聞いて行ってみるも、描き方しか教えてくれなくて「描き方はもうええんや!対話をグラレコでどう促進させてるんだー!」って首根っこをつかまえてゆさゆさ揺らしたかったです。
そんな時に出会ったのがさっき名前もあがった、牧原ゆりえさん。
ゆりえさんの講座は「こういう理想があって、社会を変革したい」という切り口から始まりドキッとしたんだけど、聞いていたら「そうか、やりたいことや望む世界がそもそもあって、そこに向かうために描くんだ」ということが自分の中にじわっと入ってきたんですね。
それから描くことに対して、もっと意識的になりました。
地方で描くことが7~8年前は暗闇で手探り状態だったのを、いまだに思い出すんですね。描いてて役に立ってる気はするけど、どういう方向に足を踏み出せば良いのか・何を学べばいいのかわからない時期は、すごく苦しかった。
いまは描いている人もたくさんいるし機会も色々あるから、この本はいま出るべくして、出すべくして出す本だと感じています。
有廣
泣きそうなくらい嬉しいです…(笑)
これだけ共著が集まったっていうのも、いま出るべくして出すことの表れかもしれないですよね。伊勢田さんはどう感じましたか?
伊勢田
多分私だけじゃないと思うんだけど、自分以外みんなすごく見えた。
一同 大きく頷く
伊勢田
共著者の名前をおおよそ知っている中で「自分は大したことないんじゃないか」って印象があって。1周2周回って「きっとお互いそう思ってるよね」と落ち着いたけど、最初はそんな風に思いましたね。
一方で、この本を作る活動そのものに対する賛同の感覚がすごい湧き上がったし、20~30人が同じプロセスを一緒に進むっていうことに価値を感じて…すごいワクワクした。
「おおっ!きたきたぞう!!」みたいな感じだったなあ。
言い切る責任と、言い切れない可視化の探究
稲垣
大人数で共著すると聞いて「すごいことするなあ!」っていう衝撃と、そこに自分が入れるとは思っていなかったのが初めの素直な印象ですね。
最初は楽しく「なに書こっかな~」って思ってたんですけど、考えれば考えるほど怖くなっていきました。本っていま考えていることが形として残るから、いつか読み返した時に違和感になるだろうなって思ったんですね。
未だに「あれはよかったんかな?!」と思うこともあるんですけど「誰かの役には立つかもしれへん」って捉えることにしました。また、いまのわたしが一生懸命考えたことをアウトプットできる機会がもらえたっていうのはすごいありがたいことだなって感じています。
有廣
その怖さは具体的にどんな時に感じたんですか?
稲垣
グラフィックレコーディングや可視化っていろんな考え方、いろんな効果、いろんな手法、いろんな目的があって、ある意味全部が正解じゃないですか。だから「こうすればこうだよ」っていう言い切りはあんまりしたくなかったんですけど、結果的にそうした部分があります。
でも自分の体験と感じたことという内容自体は、偽りなくそのまま書いているので「違和感持つひとにはすみません、感じなかった人はよかったら受け取ってください」くらいで思ってます。
有廣
言い切る・言い切らないの話、わたしも一番悩みました。
編集者さんに「本は言い切るものです!」と言われ、「言い切るものをつくってへん!」と投げ返し、話し合うっていうのを何回もしましたね。(笑)
人の感情って動くものじゃないですか、そういう感情とか…不確定なところを言い切るってすごく難しいなと思っています。共著の何人かから相談も受けましたね。
稲垣
みんな同じところで悩んでたんですね。わたしはグラフィックファシリテーター稲垣というより、会社員としてだったら言い切れる気持ちになれたので、会社員の稲垣として、事例も会社のものだけ取り上げて書きました。
組織の一員として振る舞う際、ある程度のロジックが必要だと考えています。例えば報告書が「~~だと良いかもしれない」って曖昧な表現だと「結局何したらいいねん」って判断ができないですよね。だから裏付けの検証ができたものは「~~です」と言い切る意識があり、会社員の稲垣には言い切る責任が生まれるんですね。
でも、グラフィックファシリテーターの稲垣奈美は可視化に対する探究をしたい気持ちがあって「まだまだ可能性があるはずですよ!」って言いたくなっちゃう。
なので、組織の一員として「グラフィックを会社で描きたいんだ!」っていうひとりの若い子を読者としてイメージして書いたら言い切ることができたんですよ。
第一に、受け取り、共に感じるということ
――みなさんが書きたかったけど書ききれなかったこと、載せられなかったことはありますか。
玉有
「美しいグラレコをのせたい!」と一瞬思ったけど、いやいややめようって早々に諦めました。
ずっと「たまちゃんのグラレコはきれい」って言われてたから葛藤があったけど、今回はきれいさを見せたいわけじゃない、事例として役に立つ方が大事!と諦められたことが「自分に勝った!」と思いました。
有廣
玉有さんがそれを出さないと決めた流れってどんな感じだったんですか?
玉有
グラフィックに対してきれいに見せることじゃない、何のために描くのかっていうところに軸足が立ってきて、「役に立つんだったらええわ」フェーズにいけたっていうことです。
取り上げた事例の一つに、3年間伴走支援した障がいのある子どもを持つお母さん方のNPO法人「ほっとハウス」さんと徳島市の市民協働事業があるんですね。徳島県なので南海トラフによる津波被害が必ず来ると言われている中で、災害が起きた時に子どもたちの命が助けられるかが不安で、どうにかするための事業をやりたいと始めたそうです。
その話を書いたら、この本のデザイナーさんが徳島出身で「ほっとハウスに行ったことある!」と。だからこの事例をすごく頑張ってデザインしてくれたという話も聞いて、思わず「わあっ」と興奮しましたし、ほっとハウスの方に伝えたらものすごい盛り上がって!
徳島狭いとおもってたけど、日本も狭かったね(笑)って。
有廣
結構ざわめきましたよね!めっちゃええ話やなと、ほっこりしました。
玉有
地方でグラフィックで組織や事業に入り込むのが大変だった中で、ほっとハウスさんを3年間伴走支援できたというのはわたしにとってめちゃめちゃ快挙だったんですよ。
それ自体嬉しかったんだけど、お母さんたちの緊張している顔が段々ほぐれていく様子を見れたのがものすごく嬉しかったんですね。
3年間の最後の日に、いちばんかたーい顔してた人に「玉有さんには一回も否定されたことがなかった。それがほんとに嬉しかった!」って言われて、もう…「否定する要素は何もないじゃない!」って感じたんです。
わたしは『まず受け取る』っていうことがグラフィックの基本だなって思うんですね。まず描く、まず受け止めます、ってところが本当の基本だと思っているから、そう言ってもらえたのがですねえ…もうすごいなんか…「描いてよかった!」って思って。
小さなつぶやきから広がっていった話もたくさんあって、それらみんなの話一つ一つ宝物だと思ってずっと描いてた気持ちと、そうやって受け取ってもらってたっていう気持ちが相まってですね、こう…ものすごい大きい感情が押し寄せてきました。
一番大切だった事業を本の形で残せたことっていうのが、ほんまよかったなあと思ったんです。
有廣
この話を聞いた上で、改めて読んだらまた違いますね。
稲垣さんは、グラフィックファシリテーター稲垣奈美として書ききれなかったことはありますか?
稲垣
自分は本当は気持ちが前面に出てくるタイプなんですけど、情緒の関わることは今回書いてない気がします。
玉有さんのほっとハウスさんのエピソードとか、いま、もう、こんなんですわ!!
(両手を交互に、前へ前へ繰り出すようなジェスチャーをする稲垣さん)
こんなわたしなので想いのある事例も、もちろんありました。
あるマーケティング支援のプロジェクトで、お子さんはまだだけどご結婚されている女性の方がいらしたんです。お母さん世代の商品を作られていたんですが「共働きのお母さんはすごく大変!時間がない!」っていうデータが出てきたんですね。プロジェクトの間、女性は中々その現状に共感することが難しそうだったんです。
わたしはグラレコをする時「あ、なんかここ、感じる。」っていう発言をキャッチしてそのまんまの言葉をかきとめるようにしているんですけど、その方がプロジェクトの最後に言われたことが衝撃で、
「この、今の社会でお母さんになりたくないから、どうにかしたいです」
って言わはったんですよ。
もう、超感動して。その言葉をかいて…わたしは彼女に背中しか見せていないんですけど、もう…涙もんですよね。
どう文章にしたら良いかわからなかったですが、ああいう体験を残せたらすごい嬉しいなと思います。いまも全然言語化できてないから、みなさんの受け止める力とわたしの身振り手振りでなんとかなってる。(笑)
有廣
いま、ちゃんと伝わってますよ!
このインタビュー企画のキッカケは、なんかもったいないなって思ったからなんです。
本にしていく過程で、目に見えない部分が圧縮されたり言い切られたりしちゃって…でもみんな「こっちが大事なんだ!」って言っていて。だから、本当に伝えたいことを違う形で表現したいなと思ったんです。
・ ・ ・
前編はここまで!
後編は数日後に公開予定です、見出しだけ先にお見せしちゃいますね
記録ではなく、ありたい未来へ向かうための手助け
グラレコを切り口に、組織で小さな変革を起こす
グラフィックの向こうにある未来をつくるために、描く
対談インタビューを終えて
お楽しみに(*^^*)!
▼書籍『描いて場をつくるグラフィック・レコーディング 2人から100人までの対話実践』好評発売中&さっそく重版決定!