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ネオ翻訳塾(1)君はフィードバックと向き合え
君は今、硬質なチャイム音とともに届いた一通のメールを前に固まっている。その胸のうちに去来する感情は喜び?悲しみ?いいや--恐怖だ。
なぜなら君は件名からわかっている--それがフィードバックの添付されたメールだと。
怖い。そう。私も怖い。君も怖い。みんな怖い。それがフィードバックだ。大丈夫、君はひとりじゃない。そしてその恐怖心はまた、君がアンドロイドやロボットではなく、血の通ったひとりの人間--ヒューマンであることの証左でもある。胸を張ろう。
フィードバックは確かに怖い。それまで君が必死にかき集めてきた自尊心や肯定感を一瞬にして吹き飛ばしてしまいうる、獰猛な怪物だ。“ビースト”だ。同時に翻訳という業に携わっている君にとって避けがたいものでもある。
フィードバックは怖い。怖いが、向き合い方ひとつで頼もしい味方となる。そしてそれをどう前向きに咀嚼できるかが、今後の君の十年を左右する。
フィードバックが怖い君がまずやるべきことは、フィードバックが怖い君を客体化することだ。手っ取りばやいのは「変装」だ。変装には一時的に別人になれるという魔法が宿る。そこで君は帽子をかぶる。夏なのにセーターを着る。カネゴンの着ぐるみをまとう。あるいはちょっと冒険したい気分なら--全裸になるのもいいだろう。
そうやって、なんでもいいから「フィードバックが怖い君」とは異なる君を一時的に作り出そう。するとそこにいるのは「フィードバックが怖い君」ではなく、「カネゴンの君」となる。カネゴンの君はフィードバックとは無縁の次元におり、フィードバックを恐れない。ポテェイトゥチップスの袋を開けるようにメールを開けよう。
ここまで来れば、あとは難しくない。フィードバックが怖くないカネゴンの君は、客観的かつ冷静な視座から、そこには大切な金言が詰まっていることを見て取れるだろう。
そうするうちに「フィードバックへの恐怖心」は「翻訳をよりよく磨き上げる」--いやさ“今すぐ今すぐ磨き上げたくてたまらない”という激烈な意欲に取って代わり、カネゴンだった君は元の君--フィードバックが怖かったが今はもう怖くない君のなかへと戻っていく。ほら、できただろう?
さあ、あとは魔法が解けないうちに一気に仕上げてしまおう。
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