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Photo by
daraz
シュレディンガーの布団
目覚まし時計がりんと鳴る。止める。
目を覚ます。が、布団から出られない。これではいけない。締切があるのだ。でも先日購入したばかりの、軽くて暖かい奇跡のような布団の魔力たるや凄まじく、頭ではわかっていても体が言うことを聞かない。
起きているのに、起きられない。
その時、まだ寝惚けている脳を雷鳴のような閃きが貫いた。これはもしや--シュレディンガーの布団なのでは?
布団の中の私は、あのシュレディンガーの猫の思考実験と同じ状態にある。箱の中の猫が「生きている」のに「死んでいる」ように、私も「起きている」のに「起きていない」。第三者に観測されるまで、ふたつの矛盾する状態が重なり合った量子的存在であり続ける。
大半の者はきっと、今の私を「寝坊」や「怠惰」という凡庸な言葉で切り捨てるだろう。浅慮なことだ。物事の上辺だけを見て、本質に気づけない。私が今、布団の中で量子の神秘を体現していることに。これは宇宙誕生の答えに迫ろうかというスケールの話なのだ。
決して単なる寝坊ではない。私は今、布団の中で、森羅万象の創造主と--人によっては「神」と呼ぶものと対話をしている。無数の星屑と戯れ、ビッグバンを目撃している。
締切などに縛られはしない。
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