【読切短編:文字の風景⑦】子供部屋
玄関で靴を脱ぎ、すぐ右側にある和室が私の子供部屋だった。
割と広い部屋だった気がするが、畳の配置を思い出すと7~8畳ほどだった気がする。弟と一緒に並べられた勉強机があり、寝具は無い。2階の寝室に家族全員で川の字になって寝ていたからだ。
窓際には床の間があったが、ほとんど物置と化していた。その奥には小さな庭があり、大きな紫陽花の株が部屋を覗いていた。
父の趣味で、物置には大きな自立型のサンドバッグが置いてあった。私は昔からそのサンドバッグが怖かった。勉強机に向き合うと、それは私の死角に回った。なんとなく見られているような気がして、居心地が悪かった。
机には教科書類が乱雑に並べられており、足元にはおどうぐばこや粘土セットが置いてあった。ランドセルはいつも椅子に背負わせていた。勉強机自体はキャメルの木目調で、私はその机が好きだった。
テーブルには勉強用のライトを置いていた。弟にお下がりで渡った以前の机は、テーブルが折り畳み式になっていたので、上に物を置くと罪悪感があった。堂々と、ライトやノートを置いておけるようになったのが嬉しかったのかもしれない。夜ライトを付けると、照らされた周囲の闇がひとつ濃くなる感覚が好きで、部屋の電気を付けずに勉強して母に怒られた。
私たち家族はその後居を変えたが、あの家は父の仕事の社宅だったので無くなっていない。今も、知らない誰かを紫陽花が庭から覗いている。