自信がない自分の背中を押すのは「喜んでくれる人」の存在 CR Meiyは激動の半年を乗り越えて王者に挑む
「何もかも、変わりましたね」
半年前のインタビュー時と現在を比較して、Meiyはそう振り返る。僅かな期間でMeiyを取り巻く環境は大きく変化した。所属チーム、チームメイト、ゲーム内での役割。だが、変わったのは環境だけではない。彼自身もまた、劇的に変化していた。
『VALORANT』の国内シーンを牽引するチームのひとつであるCrazy Raccoon(以下、CR)に所属し、現在は先陣を切って攻め込んでいくデュエリストを担当するMeiy。だが、内面の自己分析はそんな役割とは裏腹だ。
「とにかく自分に自信が持てないタイプなんです」
悩みや苦しみを乗り越え、Meiyは新たな境地に辿り着こうとしている。
一度は活動休止へと傾いた気持ち
2021年、MeiyはNORTHEPTIONの一員として公式大会「VALORANT Champions Tour(VCT)」を戦った。チームは国内大会で上位に進出し、世界大会への最後の切符を争うAPAC地域の国際大会「ラストチャンス予選(LCQ)」では優勝まであと一歩まで迫り、新進気鋭の存在ながら競技シーンで大きく名を馳せた。しかし、彼らが感じたものは手応えではなく悔しさだった。
「練習量では他のチームに負けていない自信があったんですが、結果は国内でもLCQでも『あと一歩』。メンバーで話し合って、このまま伸び悩んでいる状態で続けるよりも、それぞれの道を行くことに決めました」
AstellとSeoldamはチームを脱退し、TENNNとSugarZ3roはZETA DIVISIONに新天地を求めた。自分以外の4選手が進路を決めてチームを離れていく一方で、Meiyは迷っていた。チームに残り新たなメンバーを待つか、自らFAとなって移籍先を探すか。プロ活動を休止する選択肢も頭にあった。
「ずっとプロゲーマーを続けられるわけではないと理解していたので、将来のために何か新しいことを始めるのも良いんじゃないかと考えていました。当時はかなりメンタルにも負担がきていたんです」
誰よりも練習に打ち込んだが、結果は思うようについてこない。負けず嫌いな性格だからこそ、Meiyは「どんなに頑張っても勝てないのではないか」と、不安から来るプレッシャーに苛まれていた。
「50%くらいは活動休止を考えていた」Meiyだったが、ある誘いが届く。元チームメイトのAstellから、CRで再び一緒にプレイしないかと声がかかったのだ。勝利に飢えていたMeiyは、何度も国内王者に輝いている強豪チームへの加入を決断した。
「プロを続けるなら、勝てる見込みのあるチームでやりたかったんです。以前から親交のあったpopogachiにも声をかけたら乗ってくれて、もう1回頑張ってみようって思いました」
知名度も実績も高いチームで活動することへのプレッシャーは今も感じている。緊張で思うようなプレイができないことも少なくない。それでも、新たに「CR Meiy」として前に進む決意のもと、歩んできた。
偉大なエースへのリスペクトを胸に
加入から間もなく迎えた2022年のVCT国内予選。Stage 1では惜しくも2位に終わり、チームはStage 2に向けてメンバー変更を行った。Meiyはサポート中心の役割から敵陣へと突入するエントリー役へ回ることになったものの、現環境で主にエントリー役としてピックされるジェットやレイズを扱うことに自信はなかった。
「特にレイズは普段からランクマッチでもほとんどピックしてこなかったエージェントで、スクリムでもずっとパフォーマンスが低調だったので不安しかなかったです」
本来は海外プレイヤーの研究をしないMeiyだが、今回ばかりは編成が同じチームの映像をとにかく探し、少しでも自分のものにしようと練習を重ねてきた。
「自分は撃ち合いの自信はあるつもりなのに、大会になるとどうしても安全にプレイしてしまう傾向があるんです。海外の強いプレイヤーは撃ち合うべきところで撃ち合う。デュエリストにはリスクを取る姿勢が必要なんです」
不安だらけの挑戦だったが、リスペクトする存在も力になった。Stage 1で共にプレイし、今は北米地域のT1に所属しているMunchkinだ。長らくCRのエースデュエリストとして大暴れを披露してきたMunchkinはMeiyの “前任者” にあたる。力強い突破力を武器に、苦境をこじ開けていく背中は今もMeiyの記憶に鮮明に焼き付いている。
「自分とマンチ(Munchkin)で一番違うのは自信です。マンチは本当に何があっても自分に自信がある。対照的に僕は一生自信がないタイプで、彼の自信を一番リスペクトしてます」
弱気なメンタルを奮い立たせて試合に臨むと、練習や研究の成果は結果となって表れた。Stage 2のPlayoffsでREJECTと対峙した際は「自分でも止まらないなと感じた」ほどキルを量産し、35キルの大暴れ。“Meiyジェット” として、確かな存在感を示した。
それでも自分のパフォーマンスには満足していない。経験から来る勝負勘など、足りない要素も自覚している。目指すのは「こいつさえ残っていれば勝てそう」と思わせるほど、圧倒的な信頼を寄せられるプレイヤーだ。
喜んでくれる人がいるから頑張れる
迎えるStage 2のPlayoff Finals。奇しくもCRは、古巣であるNORTHEPTIONと、元チームメイトの所属するZETA DIVISIONとの対戦の可能性を残している。
「どっちも直接負けている相手ですから、チャレンジャーの気持ちで行きます。勝ち上がって、世界に『日本には他にも強いチームがいるんだぞ』というのを見せたいです」
モチベーションの一旦となっているのは、Stage 1の世界大会でZETA DIVISIONが見せた快進撃だ。出場権を争った相手が躍進する姿を見て、穏やかな気持ちではいられなかった。
「正直に言えば、彼らが勝ち進む姿を見ているのは悔しかったです。でも、元チームメイトのふたりの活躍は誇らしいし、他の選手も僕が『VALORANT』をプレイする以前からプロとして活動している選手で、リスペクトも大きいです」
リベンジの舞台とも言えるPlayoff Finalsだが、昨年から本格的にプロ選手としての活動をスタートしたMeiyはオフラインでの対戦経験はほとんどない。大舞台での対戦には楽しみと不安が同居する。
「試合前日は緊張や吐き気で眠れないし、試合中も手の震えが止まらないんです。大きな会場ですから当日は絶対に緊張するでしょうけど、できるだけ考えないようにしています。でも試合を重ねるごとに成長している実感があるので、試合をするのは楽しいです」
自分の気持ちとの向き合い方も変わった。以前は試合やスクリムの後に行う反省会でミスや欠点に向き合うのが苦痛だった。それが、今は「また強くなれる」と思えるようになった。
Stage 2の途中から全メンバーがチームオフィスに集まってのオフラインブートキャンプに取り組んできたことも、気持ちを大きく変えた。普段のコミュニケーションも試合後のフィードバックも、チームメイトと対面して話し合うことで格段に良くなったと感じている。
「今でも時折弱気になることはあります。どうしても未来のことを考えて行動するタイプなので『いつ自分のプロ選手としてのキャリアが終わるのか』を想像してしまったりするんです」
常に不安や緊張と闘いながら、それでも努力を続けられるのはファンや家族の支えがあるからだ。Meiyにとっては「自分のやることで喜んでくれる人」の存在は計り知れないほど大きい。
「昔は勉強が嫌いだったんですけど、教えられると友達が喜んでくれるのが嬉しくて頑張れたんです。今も応援してくれて、結果で喜んでくださる人が沢山いるから頑張れます。ひとりだったら、絶対にプロは続けていないですね」
新星として名を轟かせたLCQから半年で、何もかもが大きく変わった。次の半年でも何が起こるかは分からない。ただ、確かに言えることがある。
「半年前より今の方が100%強いですし、チームでの活動も楽しいです。プロを辞めなくて良かったですね」
そう言って笑ったMeiy。彼のプレイがチームの未来を切り拓く。
(取材・文 ハル飯田)
Crazy Raccoonが出場する国内大会『2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2』 のPlayoff Finalsはさいたまスーパーアリーナにて6月25~26日に開催。試合の模様はYouTubeやTwitchでも配信されます。