大躍進のNORTHEPTION「胸を張って帰れるように」 リーダーBlackWizが語る自分たちの強みと成長の理由
日本の『VALORANT』競技シーンでは、長らくZETA DIVISION(以下、ZETA)とCrazy Raccoon(以下、CR)が双璧とされていた。これまで開催されてきた全ての公式大会「VALORANT Champions Tour(VCT)」 の国内大会決勝戦では、CRとZETAが鎬を削り続けてきた。
その慣習に初めて穴を穿ち、あまつさえ優勝を果たしたのがNORTHEPTIONである。「2022 VCT Challengers Japan Stage2 – Playoff Finals」で、直前の世界大会で3位に躍進したZETAを破り、世界大会「Masters - Copenhagen」へ日本代表としての出場を決めた。
日本の『VALORANT』シーンにおいては間違いなく快挙ではある。だがNORTHEPTIONのリーダーを務めるBlackWizに話を聞くと、少し違う側面も見えてきた。
「今回は勝って当然でした」
淡々とそう話す彼の瞳は奇妙なほど落ち着いている。虚勢ではなく、本気でそう思っているのだ。その自信の源は一体どこからくるのか。
好きだからこそ追求し続け、NORTHEPTIONのチームリーダーへ
BlackWizは自身を特別な人間だとは思っていない。幼い頃からごくごく普通の少年時代を過ごし、中学生になってからは陸上部の活動に勤しむようになった。家に篭るよりも外で体を動かすのが性に合っている。そんな子供だった。
高校生になっても陸上を続けていくだろうと当然のように考えていたが、進学した学校の陸上部は劣悪な環境だった。高跳びに使用するマットが水たまりに侵されたまま放置されている様子を見て、自然と陸上からは離れてしまった。陸上の代わりに出会ったのはゲーム『カウンターストライクオンライン(CSO)』だ。
「当時はあくまで趣味の範囲でプレイしていました」
ゲームが好きだから趣味として追求し続けた。それは『VALORANT』がリリースされた当初も同じだった。会社員を務めながら、あくまで趣味として接していた。
だが、そんな折に知人から誘われて大会に出場することになり、強豪チームのCRに対して1マップを取ったことで急激に知名度が上がった。これがきっかけでプロチームから所属を打診され、BlackWiz自身のキャリアが始まった。彼にとってゲームが趣味から仕事に変わった瞬間でもあった。
それでも、BlackWizの実力が日の目を見るようになるまでは、かなりの時間を要することになる。
彼の得意としていたヴァイパーというエージェントはマップによっては強力な選択肢ではあったものの、熟練度を要することもあって汎用性はあまり高くないと考えられ、長らく注目されていなかった。
しかし、NORTHEPTIONに所属する直前、世界大会でGambit EsportsのnAts(現在はM3 Championsにも所属)がヴァイパーを使用して大活躍したことで底知れぬポテンシャルが世界的に明らかとなり、急速にヴァイパープレイヤーの需要が高まることになる。ヴァイパーの練度を高めていたBlackWizにとっては追い風だった。プレイヤーとしての力量だけではなくその人望と経験も評価され、新生NORTHEPTIONのチームリーダーへと抜擢された。
△Nthオーナーとの2ショット
「リーダーを務めるようになってから、チームにおける責任とかプレッシャーも前以上に感じるようになりました」
そういう部分でもLazと自分を重ねてしまう、とBlackWizは言う。これほどのプレッシャーの中、Lazは折れずにトッププレイヤーとして成長し続けている。その凄さを改めて思い知るようになった。ZETAに勝利した今でも、その想いは全く変わっていない。
「今回は勝って当然だった」唯一無二のチャンスを掴んだNORTHEPTION
NORTHEPTIONの優勝。この出来事は周囲からすると偉業ではあったが、チームリーダーのBlackWizは全く別の視点を持っていた。
「ZETAはレイキャビク(で開催された世界大会からの帰国)以降、あまり練習時間が取れていないのは明白でした」
VCT 2022 Stage 2は新パッチが適用されたことにより、メタ(ゲーム内で主流となる戦術や戦法)が大きく変わった。こういったメタの転換点で重要なのは練習量だとBlackWizは考えている。どういった構成や立ち回りが最適解なのか誰も分からない状態では、ほとんどの練習が手探りになる。
反射神経やエイム操作などに大きな影響があるわけではないが、スキルの使い方による連携や知識、各エージェントの相対的な強さ、受け攻めの解答などは大きく変わる。新しい環境下で強い戦術を探すためには推論に基づいた総当たりのようなアプローチに頼らなければならず、それでもなお最適解を導き出せないことも多い。
世界3位を獲ったことで脚光を浴びたZETAは、必然的にメディアでの活動が増えた。それはチームとしても個人としても避けられない活動ではあったが、間違いなく練習量が減っているはずだとBlackWizは察した。対照的にNORTHEPTIONは練習時間の確保に余念は無く、加えて新規メンバー加入の時期も重なったことで、チーム全体の勢いとモチベーションは高まりつつあった。
「周りの評価抜きに考えると、練習量で圧倒的に上回っていたこともあり、今回は勝って当然だったのかなと個人的に思ってます」
ZETAは確かに怪物チームであり、最も尊敬しているプレイヤーが所属するチームでもある。あなどっているわけではない。むしろつぶさに観察してるからこそ、今大会が千載一遇のチャンスだと正確に理解していた。ここを取り逃したら優勝なんて夢のまた夢。そういう思いを抱きながら、どのチームよりも入念に下準備を行った。
「優勝しても自分で驚かない、それほどの練習をしてきたつもりです」
それでもなおUpper Bracket Finalでは敗北を喫してしまうほどに、ZETAの強さは想像の上を行っていた。だが返す刀のGrand Finalでは圧勝してみせた。NORTHEPTIONの対応力の高さ、本番での勝負強さを証明した試合だった。
「僕達はチームごとに対策をすることはありません。あくまで汎用的な能力や連携を築き上げて、本番でもスクリム通りに戦うことを最も重視しています」
NORTHEPTIONにはアナリストが存在しない。チームごとの傾向や対策をまとめあげるほどのマンパワーも、対策の練度を追求するほどの時間も彼らには無い。何よりも多国籍チームなので、細かすぎる決め事やチーム毎の対策を用意しても、コミュニケーションエラーの原因になりやすいと判断した。
「僕達がコミュニケーションエラーをしていないように見えるのは、事前に予防策を講じているからです。マップ毎に基礎的な部分や大まかな決め事を整えておき、指示なども日本語で一言二言で済ますようにしています。合図や決め事によるコミュニケーションを主軸にしているからこそ、いざという時に迷わないんです」
基礎と汎用性を追求する硬派な王道チーム。それがNORTHEPTIONの特徴だ。こういった汎用的な考え方を練り上げるには、毎日の会話や座学が重要だとBlackWizは説く。会話や座学を重視する練習スタイルは、一見すると楽に見えるが、実際には非常にタフな時間である。
すぐにお互いの考えが一致すれば理想だが、そう簡単にはいかない。意見のぶつかり合いや根本的な価値観の違いに戸惑うことが多く、そのたびに選手のメンタリティは消耗しがちだ。お互いの意見が完全な平行線になってしまったら、折り合いをつけるのも一苦労だ。
「本当なら意見を激しくぶつけ合うなんて、誰もしたくないと思います。でも強くなるためには必要なことでした」
来る日も来る日も、何時間もかけて話し合いをした。地道にすり合わせを重ねていくことで、チームの練度も日増しに上がっていった。文化や価値観の違いは手探りで埋めていくしかなく、近道など無い。
「世界大会という舞台でどこまで行けるかは分かりませんが、胸を張って帰れるように、やれる限りのことをやります」
国内優勝の勢いのまま、新時代の旗頭となるか。BlackWizとNORTHEPTIONの本当の挑戦が始まる。
(取材・文 gappo3)
NORTHEPTIONが出場する公式大会「VALORANT Champions Tour 2022: Stage 2 Masters - Copenhagen」は、7月10日(日)22時(日本時間)からTwitchとYouTubeにて配信予定
※一部誤った表現がありましたので、修正いたしました。