シレナ1912×78rpmの邂逅 Vol.10~イボリカ・ギャルファス 『ドリゴのセレナーデ』
イボリカ・ギャルファスは1901年にブダペストで生まれ、1986年にカナダで亡くなった女流ヴァイオリニスト。
幼い頃からすでに並外れた才能を示したギャルファスは、 7 歳で初めて公のコンサートで演奏し、10 歳でベルリン・デビューを果たす。その後世界各地に演奏旅行に出かけ国際的名声を得たと言われている。
が、特にベルリンが彼女にとっては最も大切な場所であったようだ。
ところで彼女が独VOXを始めとして何枚かのSP盤を録音していることは確認できるが、詳しいプロフィールや彼女の画像などはネットでも全くと言っていいほどヒットしない。
試しに「Ibolyka Garfas Violin」で画像検索すると、日本人を始めとして、世界中の若いヴァイオリニストの画像がたくさん出てくる。
これはどういうことかというと、それらヴァイオリニストは皆「イボリカ・ギャルファス財団」が主催するヴァイオリン・コンクールの入賞者たちなのだ。
ギャルファスは1986 年にカナダで亡くなった時、ベルリン芸術大学に 48,000 ドルを遺贈した。
それが基金となり財団が発足し、その利息から賞金が贈られるヴァイオリン・コンクールが行われるようになったのだ。
ただし、ギャルファスの遺書にはこの遺産について注目すべき条件が付されている。
「ドイツが国家社会主義になった場合、その4万8000ドルはカナダのオタワのがん研究に返還されなければならない」。と。
ドイツが再び極右政党に支配されることは考えにくかったであろうが、ギャルファスにはナチス時代の悲しく辛い記憶がたくさんあったに違いない。
またこのコンクールへの出場条件に「ベルリン芸術大学とハンス・アイスラー音楽院のヴァイオリン学生」というものがある。
2つの大学の学内コンクールの体だが、大学が大学だけにそれは世界の名だたるヴァイオリン・コンクールと遜色ない競いの場なのだろう。
現在でもこのコンクールは毎年開催されている。
今回はそんなギャルファスの録音の中から『ドリゴのセレナーデ』をシレナ蓄音機で再生。
リッカルド・ドリゴ(Riccardoo Drigo, 1846 - 1930)は、イタリアのバレエ音楽作曲家。
『セレナーデ』は彼の代表作の一つ、バレエ音楽『百万長者の道化師』第一幕に演奏される曲。
バレエ音楽に留まらず、特にSP盤時代、器楽曲、そしてヴォーカライズされた歌曲に編曲され、数多くの演奏家、声楽家に演奏され、歌われた。
ギャルファスの洒落た節回しにご注目。