クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #76~メゾ・ソプラノ、フローラ・ニールセン ジェラルド・ムーアと共に
78rpm(SP盤)をコレクトしていると、LP時代になってからは名前を聞かなかったり、そもそも78rpm時代にもあまり録音を残していなかった声楽家を縁あって耳にした時、「こんな人がいたんだ」と、新たな発見をすることがある。
今回はそんな歌手のひとり、メゾ・ソプラノのフローラ・ニールセン(Flora Nielsen) を。
ジェラルド・ムーア
そもそもフローラニールセンの78rpmに出会ったのは、オークションサイトでヴォルフの歌曲2曲を収めた彼女の10inchを目にしたのがきっかけ。メゾやアルトがヴォルフを歌っている78rpmは意外に少なく、加えてそのピアノ伴奏をジェラルド・ムーアが担っていることが食指を動かした。850円という出品価格もあり「取り敢えず」落札してみた、という感じ。
ジェラルド・ムーア(Gerald Moore、1899年7月30日 - 1987年3月13日)は言うまでもなく、20世紀の、いや我々が文章や音源で知り限りの史上最高の歌曲伴奏ピアニストである。
エリーザベト・シューマン、マギー・テイト、キャスリーン・フェリア、ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、エリーザベト・シュヴァルツコップ、ヘルマン・プライ・・・、その名前を挙げればきりがないほど偉大なリート歌手がムーアに絶大な信頼を寄せて共演を望んだ。さらに言えば、リートの解釈においては歌う本人以上に、ムーアの方が卓越していたと思うようなフシさえある。
単なる伴奏に留まらず、時には積極的に自己主張することで、結果、その歌曲が訴えたいことを、より聴き手に伝えることを成し遂げた人である。
フローラ・ニールセン
そんなニールセンのリートの伴奏をムーアが務めている。ムーアがその歌手の才能を認めず、ルーティンとして伴奏を引き受けるわけはないだろうから、ニールセンは少なくともムーアの耳にはよい歌手だと思われたのだろう。
実際にヴォルフの2曲で聴かせる少しスモーキーで重たくならない質感を持ち、落ち着きを払ったその歌声は、ヴォルフの作品を歌う声としては素晴らしいものがあるように思える。
これで彼女の歌が気になって、たまたまその直後にやはりオークションで見つけたシューマンのリート3曲が収まった12inchの78rpmも手に入れた。シューマンであってもその美質は変わることはなかった。こちらもムーアが伴奏をしている。
ただし、彼女について調べようと思っても、WEBではこれといった記事を目にすることはない。画像も「これだ!」というものがなかなか見当たらない。
知り得た情報は、彼女が1900年にカナダで生まれ、その直後に家族とイギリスへ移住、ロンドンの王立音楽院で勉強したということ、そしてグライドボーン音楽祭に出演していたということくらい。
音源についても、78rpm時代のメゾやアルトの歌を収めたオムニバス・アルバムに、私が手にしたシューマンの歌曲2曲が収められいるくらいだ。もしかしたらこのCDのライナーにはニールセンについてもう少しまともな情報が記されているのかもしれないが・・・。
【ターンテーブル動画】
というわけで、今一つ痒いところに手が届かないが、それによってフローラ・ニールセンの歌そのものが色褪せるものではない。むしろ、これから時間をかけて彼女のことを知っていき、その歌声にさらに出会えることになることを焦らずに楽しみにしたいと思う。
では、ニールセンとムーアの演奏で、ヴォルフの棕櫚の木のまわりに浮かぶものたちは(Die ihr schwebet um diese Palmen)』(スペイン歌曲集 第1巻)、同じく『明け方に(In der Fruhe))』(メーリケ歌曲集 )。そしてシューマンの『レクイエム(Requiem)』(6つの詩とレクイエム 作品.90-7)、『新緑(Erstes Grün)』(12の詩 作品35-4)、『Frühlingsnacht(春の夜)』(リーダークライス 作品39-12)。この5曲をクレデンザ蓄音機で。