78rpmはともだち #19 ~I.ヘンデルとR.クーベリックのベートーヴェン~
イダ・ヘンデル
昨日、12月15日は今年6月30日に亡くなったヴァイオリニスト、イダ・ヘンデル(Ida Haendel,1928年12月15日-2020年6月30日 )の生誕日だった。
今年亡くなった音楽家の中でも、個人的には特に感じ入ることが多いのがヘンデルだ。
ヘンデルについてはこのシリーズの#8で、彼女のチャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲』の【ターンテーブル動画】とともに綴ったので、詳しくはそちらをご覧いただければと思う。
10歳にならない頃からステージに上がり、80代まで現役だったヘンデル。そのー人並み外れた長い演奏活動、インタビューでのウィットに富む発言など、彼女の音楽に対する愛情とセンス、そして当然そこに存在していたであろう苦労を考えると、「まだまだ青いな」と自分を振り返ることしきりである。
そんなヘンデルが1949年9月、ロンドンでラファエル・クーベリック、フィルハーモニア管弦楽団と共演してレコーディングしたベートーヴェン『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61』。
ヘンデルの生年は諸説ある(それについてもチャイコフスキーの稿に記した)が、1928年とすれば彼女はまだ20歳だ。
1949年、クーベリック亡命
クーベリックはこの年の夏、エディンバラ音楽祭に出演するために渡英。そのままイギリスに留まり、社会主義国家であるチェコスロヴァキアから亡命した。
よって、このベートーヴェンはその直後の録音ということになる。
祖国を捨てたクーベリックがどのような心持ちでレコーディングに臨んだのか? そんなことも考えさせられるレコードだ。
でもそれは、その後のクーベリックの西側諸国での活躍、チェコスロヴァキアが民主化され、当時のハヴェル大統領や指揮者V.ノイマンの招きもあり、1990年に41年振りに里帰りして、スメタナの『我が祖国』をチェコ・フィル演奏、録音録画したことを知っている我々が、2020年の今だから思うことであり、案外クーベリックの気持ちはただただ「清清した」くらいのものだったのかもしれない。
【ターンテーブル動画】
そんなことを思うほど、ここでのクーベリック、そしてヘンデルの演奏はフレッシュで覇気がある。そしてヘンデルの毅然としながらも華やかなヴァイオリンは、色に喩えれば赤みの強いオレンジ色のような音色で、気持ち晴れやかにさせる。それでいて、第2楽章の静寂の中での程よい緊張感に美しさが漂う。