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【ショートショート】クソださ兄貴【弟視点】
(※上は【兄視点】です。読み比べてみてね⭐)
世の中には、理解しがたいものが数多く存在する。
その中でもオレが殊更に理解しがたいもの――それは、
兄貴のセンスだ。
兄貴にはオシャレの「お」も「しゃ」も「れ」もない。
3つ下の弟であるオレから「クソださ兄貴」と呼ばれて27年になる。
兄貴のセンスは、なんていうか、「センスがない」って次元じゃない。
異次元からお取り寄せしたセンスを持っているというか、常人からすると頭おかしくなるようなセンスなんだ。
オレと兄貴は姿かたちは似ていて、顔立ちや背丈や体格は割と似ている。
並んだら「兄弟だね」ってわかるようなレベル。
でも兄貴の中身はきっと異星人だと思っている。
あと少しで30になろうというのに、「俺は魔法使いになる」とか開き直って彼女の一人も見たことない。聞いたこともない。
どこで兄貴がこうなってしまったのかは正直わからない。
しかしそろそろ30手前になる兄貴が流石に心配だ。
いきなり彼女作れとかは無理ゲーだろうが、せめて人並みの格好が出来る人間になって欲しいと思っている。
オレは時々、兄貴に身だしなみのアドバイスをするようになった。
ダサいだけならともかく、他者が見てぎょっとするような格好で仕事に行ったり外出するのは流石にヤバいと思い始めたからだ。
なんならオレも恥ずかしい。
いつだったか彼女と一緒に近所のコンビニに行った際、偶然兄貴と鉢合わせし、ボサボサ頭に謎の服装(足元ビーサン+下はスラックス+上はイチゴのイラストに何故か「金魚」とフリガナ振ってあるTシャツ)の兄貴を彼女に目撃されてしまい、オレも彼女もすげーいたたまれない思いをした。
身内への被害が一番でかいことをヤツはわかってない。
今日の兄貴は何やらコソコソと家の中をうろちょろしている。
静かに部屋のドアを開けてそっと階段から下を覗くと、洗面所に置いてあるオレのワックスを手に取り無言で見つめている兄貴がいた。
お、髪からセットしてみる気になったのかな。
髪セットするだけでもかなり変わるからな。
兄貴が少しでも変わろうとしてくれている。
おそらく最初は下手くそなセットをしてくるだろうが、オレがコツを教えてやればいい。
俺はそっと部屋に戻り、静かにドアを閉めた。
しばらくして、俺の部屋がノックされた。
お、兄貴ヘアセット終わったのか。
多分オレに見て欲しいんだろうな。
オレはドアを開けた。
そして、仰天した。
「何だよアニ……うはっ!! 何被ったんだよその頭ァ!!」
兄貴の頭はゴキブリも裸足で逃げるほど黒光りし、髪の毛は鎧のようにべったりと骨格に沿って撫で付けられていた。
「ヘアセットだよ(ドヤァ)」
「は!? 何つけたらそーなるんだよ! なんか食い物くせえ! 揚げ物っぽい匂いすんだけど」
「ボトルから出したてのサラダ油だからな(ドヤァ)」
「マジで言ってんの? アホかよ! えっマジでサラダ油つけたのかよ」
「ナチュラルなオシャ…」
「洗って来い! 落としてこい! 信じられんマジかここまでアホだったとは」
「……」
兄貴は去って行った。
てかネタじゃなかったよなアレ本気だったよなやばくね!?
もしかして兄貴はオレが思っていたよりやべー奴だったのかもしれん。
オレは物凄く嫌な予感を感じながら、心を落ち着かせるために音楽を聴いていた。するとしばらく経って再び、部屋がノックされた。
うわ~めっちゃ嫌な予感する。
オレはそーっとドアを開けてみた。
そこには。
異次元からやって来たバージョンの兄貴がドヤ顔で立っていた。
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「な・なんだ 何から突っ込めば...…てかチェッカーフラッグかよ!!
目がちかちかする!! 目が痛ぇ!!」
「お主にはまだ早すぎたようだな……(ドヤァ)」
「外に出る気じゃねーだろーな!! 公害だぞやめろ! 恥さらし!」
「はっ、恥さらしとなっ!? 貴様兄に向って……」
「こんな不幸な弟も居ねえよ!! 何の祟りだよ!!」
もうホント、これ何の祟りだよ!!
兄貴が祟られてんのかオレが祟られてんのかすらわからん!!
オレはふーっと深い息を吐き兄貴に向かってこう言った。
「てかさあ、兄貴さあ、遊びとか行かねーんだから先ずは私服より先にスーツとか仕事に着ていく服から選べば? 一応公務員だろ」
「そうだ、吾輩は役所で地球人の記録を管理しておるフフフ」
「市民課ね」
「そうとも言う」
「いっつも吊るしで買ったバブリーなスーツ着て出勤してるだろ……。先ずはあれから何とかしろや」
「なるほど、良き助言だ」
「あっ、変な店行くなよ。あと着替えて行け。白Tにジーンズとかで良いから。間違っても気合入れて良く知らない店行くなよ。洋服の〇山とかでいいから!!」
「委細承知した。フフフ……」
兄貴は着替えて、家を出ていった。
大丈夫かな今日のアイツいつもより狂ってるからな……。
なんかすげー寒気するし。
嫌な予感しかしねえ。
今日みたいにテンション高い時は、ろくなことしねーからなアイツ。
いきなりオシャレにならなくてもいいんだよ。
ちょっとくらいダサくても、素材は悪くねーんだから普通の格好してりゃ彼女出来たら彼女が改造してくれるだろうし。
まあ兄貴の場合そこまで行けるかどうかが問題だが、普通っぽくさえなれば多少オタクでも彼女くらいできるって、うん。
そしたら兄貴だって、彼女と並んで歩く事とか出掛ける事を考えざるを得ないだろうし、自然と髪型とか服装にも気を遣うようになるだろ。
そんなことを考えながらオレはYouTubeでお気に入りのゲーム実況を観たり、時々彼女とLINEしたりしていた。
どれくらい時間が経過しただろう。
しばらくして、部屋をノックする音が聞こえた。
お、兄貴かな。帰って来たのか。
お気に入りのゲーム実況と彼女とのイチャコラLINEで気分が元通りになっていたオレは、つい油断してサラッとドアを開けてしまった。
「兄貴スーツ買え……うわああああ!!!」
こんなことがあっていいのか。
髪型以外は実写版・ルパン三世と化した兄がそこにいた。
オレの脳内に、「♬ルパン ザ THIRD~♬」が流れた。
「フフ、お前から貰った助言を無視してすまない……。しかしこの通り兄は完璧なスーツを入手してきたぞ(ドヤァ)」
「そんなスーツで働く奴がいるかよ!! ルパンかよ!!」
「ほう、確かに言われてみれば吾輩の敬愛するルパン三世とやや似ているなフフフ……(ドヤァ)」
「おめー店員に遊ばれただけだろ!! 何だよその黒シャツ! 黄色いネクタイ! 赤スーツ! ルパンコスプレ以外の何だって言うんだよ!!」
そしてオレは。
残念そうな兄貴を無理やり引きずって件の店に行き、スーツ一式を返品させた。このクソ店員、兄貴がアホなのをいいことにトータル18万ものアイテムを売りつけやがって許せねえ。
オレの怒りが伝わったのか、店員はなるべく目を合わさずに焦った様子で手早く返金対応に応じた。
そしてオレは当初の予定通り兄貴を洋服の〇山に連行し、「冠婚葬祭以外ならどこへ着て行ってもOK」なグレーのスーツを選び、買わせた。
兄貴は少しがっかりした様子だった。
まあ、ちょっとかわいそうだよな。
本人もきっと頑張ったんだし……いややっぱり許せねえ(色々と)。
兄貴がまともにならない限り、オレにも災いがエンドレスでやってくる気がする。
「お前はまず普通になれ(怒)」
オレは兄貴にそう言うと、ちょっと休憩しようと兄貴を連れて近くにあったスタバに入った。
兄貴が
「ほう、これは複合魔法でオリジナルの……」
とか言い出したので、軽く蹴ってやった。
【FIN】
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