真夜中に空っぽの冷蔵庫からオニオングラタンスープを作れる人になりたかった
20代の頃、夢中になって読んだ一冊に『聡明な女は料理がうまい』(桐島洋子著・文春文庫)があった。
久しぶりに引っ張り出して読んでみたら、冒頭からまあまあ無茶苦茶だった。
バッサリ。桐島洋子の言いたい放題ぶりが好きだったことを思い出す。そう、本当に好き勝手なことを言っていて、必ずしも意見に賛成できるかどうかはさておき、その勢いが好きだった。
この本には、おいしそうな料理がたくさん登場する。中でもたまらなく憧れたのが、オニオングラタンスープ。
この「ボーイフレンド」って、どういう位置づけ……? バターはさておき、ひからびたフランスパンが転がってるってどういう男!? 玉ねぎはともかく、固形スープとパルメザンチーズあるんだ? ていうか、誰かが置いて行ったの⁉ とクエスチョンがいっぱいになりながら読んだくだり。でも、熱々のオニオングラタンスープを想像すると、そんな引っかかりも一瞬で吹き飛ぶ。
ボーイフレンドは「きみは魔法使いみたいだ」と感嘆したという。「こういう味は熱い熱い思い出としていつまでも残る」と、桐島洋子は振り返る。
いつか、私もそんな風に褒めたたえられてみたい。深夜に火傷しそうなぐらい熱いオニオングラタンスープを食べたい。そんな風に切望しながら、魔法使いにはなれないまま、月日が過ぎた。あんなに読みふけった割に、登場するレシピをひとつも作っていない。読めば、細部まで思い出せるのに。
魔法使いになりそびれた私は「待ってました! 大統領!!」と掛け声をかける担当として、今夜もオニオングラタンスープができあがるのを待っている。
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