「島宇宙化」の予言は30年経って証明された
宮台真司氏が1990年代に唱えていた「島宇宙化」論をご存じでしょうか?
1980年代後半、世間では「ネクラ」「ネアカ」といった記号的な思考を繰り返し差別化を図る態度が流行しました。
それはちょうど日本の戦後の経済成長が止まり、国民が同じ方向を向いているのが無理になった時期と一致しています。
そしてその差別化が行きつく先は、世間共通の価値観というものがなくなり、同じ価値観を持った人だけが所属するコミュニティが多数存在し、それら同士は交わることがなくなる、という「島宇宙化」です。
今から30年近く前の1994年に宮台真司氏はそう予言していました。
渋谷のコギャルとアキバのオタク
「制服少女たちの選択」という本は、記憶している範囲では当時の女子高生の衝撃的な生態について書かれた部分が多く、その切り口だけが注目され過ぎたように感じます。
私は、バブル崩壊後の不況と、オウム真理教などのカルト宗教への支持といった、社会が大きく変わりつつある90年代前半の状況を一言で表した「島宇宙化」という言葉を発明したことが、彼の凄さではないかと思います。
渋谷を中心としたコギャルや、秋葉原を中心にしたオタクを観察し、それらがともに「家」「学校」「地域」ではない仮想・匿名的なネットや街という「第4空間」に所属し、既存の常識から逃れ始めていることをいち早く発見して言語化したこと。
まだ当時はインターネットも一部の人のもので、携帯電話はあったがスマートフォンはなく、ほとんどの人がまだ「第4空間」にいなかった時代にその存在に注目し、2022年の今多くの人がそこに実際にいるようになったこと。
1994年にそこまで見通せていた人は少ないと思います。
「島宇宙化」の行きつく先
宮台真司氏は、島宇宙化の行きつく先のひとつとして、世間の共通認識の消失によりエンターテインメントの単純化が進むと書いています。
・知識や理解力を必要とせず、「祭り」のように誰でも分かりやすく盛り上がれるもの
→現在のライブ配信、ゲーム配信、VTuberなど
・時間をかけなくても一瞬で良さを味わえて、共通の話題として消費しやすいもの
→現在のtiktok、ショート動画、切り抜き動画など
上記は2007年のブログから引用しましたが、方向性としてまったくずれがないと感じ、現在にも十分当てはまると思います。
また「祭り」や「共通の話題」というキーワードが、当時より今のほうがよりフィットしていて驚かされました。
そして、これからもこの考えは通用するはずなので、この理論を使って試しに未来予想的なことができるのではないかと考えました。
エンタメの今後を予想してみる
① お笑い
お笑い、バラエティの人気番組に多いパターンとして、ベテラン芸人と若手女性タレントまたは活きのいい男性芸人などが、お題に沿って言葉の応酬を繰り広げるような構成をよく見ます。
しかしTVをよく見ていないと、事務所はどこに所属しているか、先輩後輩同期は誰か、といった芸能界という世界の文脈を暗黙の了解として話されるネタは、知らないので共感できません。
その代わり初めてでも一瞬で目を引き付けられる芸やユニークさがあれば、誰でも共感できるではないかと思います。
もはや共有されていない蘊蓄や文脈ではなく、芸を見せられる技術、ユニークな切り口を作れる話芸が残っていくのではないでしょうか。
② 映画
当たり前ですが映画は時間が長く、映画館では途中で席を立つのもはばかられ、スキップも繰り返しもできません。
若い世代は2時間近くじっと見続けることを受け入れづらいと思います。
また間違いなく面白いと予想できるシリーズ物などを別として、事前に内容が分からないので、その映画に時間を使うべきかの決断が難しく、外れたときのショックが大きいと言えます。
そのようなことから、映画は下記の方向へ変化していくと思います。
巨大資本が投下されたみんなが知ってる作品のみ全国公開される。
単館上映の作品やミニシアターの類はほぼなくなる。
メジャーなもの以外は短い動画ばかりになり、映画とは呼ばれなくなる。
私のつたない未来予想はさておき、宮台真司氏の「島宇宙化」という考えは30年経ってもその正しさが色あせていないようです。
このnoteもそうですが、仮想・匿名的なネットや街という「第4空間」に拠り所を求め、趣味嗜好や自由な意思で集まった宇宙はとても居心地がよく、もうこれなしでは過ごせないと感じます。
しかし物事には両面あり、「家」「地域」という空間の崩壊が、少子化、地方の衰退、格差などを生み出す一因となっているように思えます。
「学校」も、子育てを通じて見ている限り、矛盾が噴出しています。
居心地の良すぎる島宇宙内だけではなく、リアルな空間の課題を見ることが必要で、私もnoteでそこに触れていきたいと思います。
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