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輝きを失った広告代理店の諸行無常
私はかつて広告等に関連する業界にいたことがあり、そこで企業系の広告・プロモーションにまつわる仕事をしていました。
そこでは広告代理店の人と仕事をすることが多く、彼らは熱心で優秀な方ばかりでしたが、なぜか多くの人に共通する傾向がありました。
クライアントは力の限り持ち上げるけれど下請けには冷たく、契約や関係値を盾に立場の弱い人を恫喝し(昔はよくありました)、有名人に近い立場であることを自慢し(これも多かった…)、状況が悪くなるとすぐ逃げる。
もちろんすべての広告代理店の人がそうだったわけではありませんが、割合が多かった気がします。
1986年に制定されたかつての電通CI (Communications Excellence Dentsu)を初めて見たとき、広告界を支配する巨大企業としてのカッコよさはもちろん感じましたが、自らExcellence(卓越)と名乗ってしまう彼らの姿に、「おごれる人も久しからず」という平家物語の一節がふと浮かんできたことを思い出します。
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そして時は経ち、広告代理店、特に電通がかつての栄華の見る影もなく落ち込んでいて、就職人気の低落、度重なる犯罪や事件、そして業績低迷といった問題が発生しています。
今回はその状況と今後について考えてみました。
オールドメディアの凋落と落ちる就職人気
日本の広告費はかつて大半がテレビ向けでしたが、2019年にインターネットが一位の座を奪って以来数年で倍近い差になってしまいました。
電通はインターネット広告も多く扱っており決して時流に乗り遅れているわけではありませんが、テレビ広告を独占していた時代とは異なり競合が非常に多く苦戦しています。
電通の力の源泉はメディアの広告を支配することによる、主要な大企業すべてとのコネクションとマスメディアのコントロール力にあり、国民すべてがテレビを見ていたので容易にその支配を行うことができました。
しかしもうその力はなくなり、ネット広告ではOne of themとして戦わざるを得ず、さらにかつての強烈に属人的な昭和の営業スタイルは今の先進的企業には通用しなくなりました。
そういった大きな変化を受け、2000年ごろまでは一桁だった就職人気ランキングも何十番目の普通の大企業となり、もうかつての栄光を取り戻すのは難しいでしょう。
高橋まつり氏の過労死や五輪談合の犯罪
高橋まつり氏の自殺に関しては数年前に大きく報道され覚えている人も多いでしょうが、広告代理店の過酷な労働環境を一度でも見聞きしたことがある人間にとっては、正直何を今さらという感じもありました。
しかし世間はこの問題を許すことはなく、ブラック労働の撲滅へと多くの企業を動かしたエポックメイキングな事件となり、ネット等でこっそりささやかれていた彼らへの非難の声にお墨付きを与えました。
電通関連の報道や動画等への人々のコメントは今でも常に大半が皮肉な発言や、「いらない会社」「潰れろ」などという誹謗中傷にまみれ、正直見ていられない状態となっています。
そんな状況では、オリンピックでの談合による有罪判決が出ても「ですよね~」という声しか上がらず、本来なら裏方の企業のはずなのに社会から目をつけられ、もう許されることはなさそうです。
経営コンサルへのシフトという無理な挑戦
そんな彼らはマスメディア広告という事業の柱を失い「経営コンサルティング事業」へのシフトを進めているようですが、実際のところ数字以上に苦戦しているように見えます。
詳細は先に挙げた動画等を見ていただいたほうがいいですが、簡単に言うと、すでに外資を含めた強力な競合が多い業界で電通が本当に強みを持てるのか?という話です。
電通には数えきれないほど多くの広告の実績、また世界的なイベントのプロデュース等他にはない強力な武器がありますが、ITや経営に関する技術や実績はあまり聞いたことがなく、すでに何十年もそのフィールドで戦ってきている世界的な競合他社にどうやって勝つつもりなのか分かりません。
例えば富士フイルムのように、主力事業だったカメラのフィルムがデジタル化で消滅したあと、ヘルスケアや電子部品の製造など事業を変革・多角化して生き残った企業もあります。
テレビ広告の縮小とネットの台頭はそれに近いインパクトがあるはずで、解体的出直しをして臨むくらいの変革が必要だと私は思いますが、今のところそのようには見えません。
あの輝いていた広告代理店が時代の波と世間の非難にさらされて社会の表舞台からフェードアウトしていくのか、それとも別の存在として再び輝くことができるのか、今後の動きに注目です。
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