【トピックスレポート:第17回】teenage engineeringのマーケティング
こんにちは!B.O.Mの竹内です。
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B.O.Mのnoteでは、月に2本程度音楽やマーケティングについてのトピックスを紹介しています。
第17回は「teenage engineeringのマーケティング」です。
皆さんはteenage engineeringという会社を知っていますか?
音楽ハードウェア市場に彗星の如く登場した同社の開発するアイコニックな製品の数々は、打ち込み音楽に親しみがある人ならば一度は目にしたことがあるかもしれません。
今回はそんなteenage engineeringの製品開発から流通に至るまでのマーケティングについて考察を行っていきます。
彼らは一体どのようにしてその独特なブランドを構築してきたのでしょうか?
teenage engineeringとは?
会社概要
teenage engineeringは、2005年にJesper Kouthoofd、David Eriksson、Jens Rudberg、David Möllerstedtによって設立され、ストックホルムに拠点を置くスウェーデンの会社です。
沿革
彼らの初期の代表作になったのは、2010年のNAMM Showで発表された最初のプロダクトの「OP-1」と名付けられたマルチインストゥルメントです。
これまでのサンプラーやシンセサイザーといった枠組みを取り除き、かつてない自由な創作を可能にした画期的な製品として市場に大きな衝撃を与えることとなりました。
ミュージシャンだけにとどまらず多くの人々に受け入れられたOP-1は2012年にスウェーデンのDesign S Awards 10部門のうちの1つを受賞。 その後も既存の楽器概念に囚われない自由な発想を元に、モダンなデザインやレトロなデザインをうまく融合させ、ポケットオペレーターシリーズやOB-4などの多くのプロダクトを世の中に送り込んでいます。
プロダクト
OP-1 field
teenage engineering社の代表的なプロダクト「OP-1」をに100もの新機能を追加した最新のモデルです。
音源のエディット、演奏、サンプリング、ミックスまでをスタンドアローンで行えるうえにスピーカーを内蔵しているため、作曲のあらゆる段階をこの一台で完結させることができます。また、コントローラーやノブはそれぞれアクセサリーとして別売りされており、更に個々の好みに合わせてカスタムすることも可能になっています。
多機能・高価格帯の音楽機材は高度な知識を持つ専門家をターゲットに販売することが前提とされることが多かったなか、OP-1はその優れたデザインとUIによって初心者やアマチュアミュージシャンといった人々までターゲットを拡大しました。
OD-11
100Wの出力を誇るアナログ・クラスDアンプを搭載したスピーカー。
コンピューターを内蔵しており、Wi-Fiを用いてデバイスに接続して使用することができます。
デザインと製品コンセプトはスウェーデンの音響デザイナーStig Carlsson氏が1974年に発表し4年間で10万代を売り上げたOD-11が元になっており、独特な構造によって床に立てても本棚に置いても壁に取り付けても、その音質が大きく変わることがなく、どの位置からでもより良い音質でのリスニングを提供します。
こちらにも高機能でありながらも専門家のみをターゲットにしていない、OP-11と同様の精神が製品開発において現れていることがわかります。
field desk
DIYで作った部品や、オプション製品で拡張可能なモジュール式ワークスペースデスクです。
リサイクルされたアルミニウムを脚部に使用し、天板には両面フォーマイカ加工をしたカバノキ合板を使用し組み立てられた立体トラス構造となっています。
製品カテゴリとしてはこれまでのteenage engineeringのプロダクトの領域を越え出ているものの、デザインのシンプルさ、アマチュア精神、DIY志向といった製品の核となってきた精神はそのまま受け継がれていることが読み取れます。
teenage engineeringというブランド
ブランド開発
teenage engineeringの創立メンバーのひとりで、その中心となっているJesper Kouthoofd氏は元々は音楽業界出身ではなく、大学でグラフィックデザインを専攻し、アーティストのアートワークデザインなどを経験したのちファッションブランドACNEの広告部門で働いていた人物です。
彼はteenage engineeringのブランド開発、製品設計のスタート地点は常に「デザイン」にあると語っています。
teenage engineeringの製品はデザインを非常に重視していますが、評価の高さはそこによるもののみではなく、むしろそのデザインからくる操作性の高さを実現しているところに大きいと考えられるでしょう。
多くの音楽機材はプロフェッショナル向けになるほど複雑なデザインと機能を所狭しとUIに盛り込んでいくようになる一方で、TE社の製品は遊び心のあるデザインとミニマルな表示によって誰しもが直感的に触れるようになっているのです。
ブランド要素
teenage engineering社はブランド創設当初から、ハイエンド音楽機材という市場において類を見ない卓越したマーケティングを行ってきたことでその独特のポジションを作り上げてきました。
これまで紹介してきた同社の製品を見ていくと、次のようなブランド要素が共通して反映されていたことがわかります。
アマチュアリズム
ユーザーをプロのミュージシャンやクリエイターに限定することのない使用シーンや機能の提案。
シンプルで直感的なデザイン
ユーザーとの簡潔でわかりやすいコミュニケーションの構築がもたらす、使い勝手が良く手元におきやすいプロダクトの作成。
DIY精神
ユーザーが自らプロダクトを作り上げていくような仕組みの提供。
ブランド精神の反映
teenage engineering社のブランドの一貫はプロダクト単位のみにとどまらず、彼らはそれまでの音楽機材の販売戦略とは一線を画すような、ブランドの精神を反映した販売チャネルの活用をも実現しました。
多くの伝統的な機材メーカーが商品を楽器店を通じて販売し続けているのに対し、teenage engineering社は自社オンラインストアの他にはssenseやIKEAといった、音楽とは全く異なる領域に特化した小売に販売を一部委託しているのです。
こうした販売戦略はプロダクトだけに焦点を当てた場合、他者との競争に大きな不利があるように見えますが、委託している小売ブランドは実は先ほど挙げたブランド要素に強い共感を持つものばかりです。
製品やサービスを購入する場合に消費者が検討するのは純粋なプロダクトの性質のみではなく、ブランドの持つ性格や精神性もその大きな割合を占めているものです。
そのため、消費者に対しいかにそのブランドの特性を効果的に、望ましい形で伝えるということはマーケティングにおいて非常に重要な段階となります。
言い換えれば、消費者とのコミュニケーションを構築しうるあらゆる段階においてブランド要素に合致するものを適切に選択することが、市場における優位性の獲得を導き出すことができるのです。
つまり、この方法はブランドの価値と強みを理解した同社だからこそ実現できた、ブランドを主軸に置いたマーケティングにおいて非常に聡明かつクリティカルな手法なのです。
その他のプロダクト
同社はこれまでに紹介したものの他にも多種多様なプロダクトを販売しており、上述したようなブランド精神の反映を読み取ることができます。
TP-7
レコーダー/インターフェース
6mm x 68mm x 16mmの小型ボディながらも7時間駆動のバッテリーと128GBの容量を搭載。iOS用のアプリケーションを使用すれば自動文字起こしが可能です。
USB接続によりオーディオインターフェースとしても機能します。
pocket operator
ハンドサイズサンプラー
音源内蔵タイプのポケットサイズサンプラー。スタンドアローンでループの作成ができるうえ、のteenage engineering製プロダクトや他社製品と組み合わせることで音源としてさまざまな活用もできます。
frekvens
スピーカー/ライティングシステム
teenage engineeringとIKEAが共同で開発・販売を行ったモジュラータイプの製品です。様々なデザインのスピーカーやサブウーファー、LEDライトがラインナップされ、それぞれをDIY的に組み合わせることで、自分好みのスピーカー&ライティングシステムを作ることが可能になっています。
PO-80 record factory
レコードプレイヤー/カッティングマシン
学研と共同で開発されたレコードのカッティング機能を搭載した小型レコードプレイヤーです。外部接続した音源をマシン上の盤に収録することができるようになっており、「ファクトリー」をかたどった知育玩具風のデザインが目立ちます。
おわりに
今回は、独創的な製品とマーケティングプランの展開によって唯一無二のブランドを作り上げているteenage engineering社について考察を行いました。
伝統的なマーケティングやプロダクト設計の手法にこだわらず、一貫した軸をもって構築されたブランドを中心に据えて行われた画期的なマーケティングによって同社は業界内に独自の地位を築き上げてきました。
実際に製品を手にとって見てみると、同社がいかにブランド価値を守り、活かしていくことに情熱を注いでいるかを見てとることができます。
みなさんもぜひ一度製品を手に取り、遊んでみてはいかがでしょうか?
今後もB.O.Mのnoteでは、本件のような音楽・マーケティング業界におけるトピックスについての発信を行っていく予定ですので、ぜひフォローしていただけますと幸いです!
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