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付き合って3日目、私は彼氏を門前払いした

もう11年ほど前のこと。

仕事からの帰り道、付き合い始めて3日目の彼から電話がかかってきた。
声を弾ませて会話をしていた私は、当時住んでいたマンションの前に立つ大きな人影に足を止めた。
そこには、電話の向こうにいるはずの彼がいた。
「来ちゃった」といわんばかりの彼の笑顔に、私の身体からサーーーーーッと血の気が引いた。

誤解しないでほしいのだが、私は決して彼の行動にドン引きしたわけではない。
ただ、来てほしくなかったのは事実である。

その日私は彼を部屋に上げずに、帰ってもらった。
理由はただ一つ、「今、部屋が『かたづいていない』から」だ。


ひとり暮らしをしていたその部屋は、小さな私の城だった。

実家にいた頃に割り当てられた私の部屋は、インテリアとかおしゃれとか女子力とかは無縁の、物置みたいなスペースだった。
6畳のその部屋には、小学校入学時に買ってもらった学習机とベッド、私の衣類と私以外の人の衣類のかかったどう見ても容量オーバーのハンガーラックが置かれていた。
床には、公務員試験対策の参考書が山積みになり、ベッドと机のすき間には、小学校の時もらったお土産のキーホルダーから高校卒業時にいただいた色紙まで雑多に詰め込まれた紙袋が、折り重なり息をひそめていた。

だから、社会人2年目にお金を貯めてひとり暮らしを始めたその部屋には、素敵なものしか置きたくなかった
FrancFrancで家具を一式揃え、テレビボードの一角は季節の雑貨を飾る小さな展示コーナーにした。
大好きな絵描きさんのポストカードを飾り、アロマオイルを焚いた。
私の生活感は、唯一の備え付け収納のクローゼットに全部隠しておけばよかった。


15分ぐらい待ってもらって、クローゼットに全部押し込めばよかったかもしれない。
そもそも彼はもしかしたら、私の生活感なんて気にしなかったかもしれない。

でも、そんなこと当時の私には考えられなかった。
だってこの時、私は彼にとって、3日前に初めて上がってもらったときの部屋と同じように、「きちんと装っていてかわいらしい私」でいたかったから。
生活感を隠したクローゼットの存在、そのクローゼットのように帳尻合わせをしている私の内面を、知られては困ると思っていたから。


時は流れ現在。

私はその彼と暮らしている。
我が家には、小学1年生の娘と、4日前に3歳になった息子もいる。

11年前のあの日門前払いをしてしまったことをきっかけに、私は時間をかけて、心のクローゼットからものを全部出し、彼とともにおかたづけを進め始めた

私はおかたづけのプロだが、正直なところ、今の我が家はしっちゃかめっちゃかだ。
でも、その気になれば、15分でそこそこいい感じの状態にはなる。
それも、クローゼットの中も開示し、定位置の共通認識があるので、ただものを押し込むのではなく、然るべきところに然るべきものを置くことができる。


「装った部屋」も「装った私」も、かっこいいし素敵だと思う。だから、否定はしない。
ただ、誰にも言えないクローゼットを抱えたままでは、いつまでたっても大切な誰かを門前払いし続けることになるかもしれない。

空間も心もふうふの関係も、おかたづけには時間がかかるし労力もかかる
これを読んでくださっているあなたに、もし何らか現状を変えたいお気持ちがあるとしたら、まずは勇気を出して、クローゼットの扉を開いてみてほしい。





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みねせりか/しあわせふうふデザイナー
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