第9回:緑が減り続けることの先には…
都会の「緑」の減少が止まらない
明治神宮外苑の再開発で、多くの樹木が伐採される計画が持ち上がったことは記憶に新しい。地域住民はもとより、アーティストや芸能人、超党派の国会議員や東京都議会議員の議員連盟なども合同で計画中止を求めるなど、多くの人々を巻き込む事態となった。
また、横浜市でも全面返還された緑豊かな米軍通信基地跡地を開発し、東京ディズニーランドに匹敵する規模で、次世代型テーマパークを核とした複合施設を建設する予定だという。
「都市部の遊休地を開発し、打ち出の小槌に転換することに何の問題があるのか?」との意見を持つ人も少なくない。しかし環境的には温暖化のリスクをさらに悪化させる可能性があるのだ。最も分かりやすいのは、樹木を伐採する過程で二酸化炭素の排出が増えると同時にその吸収源が減少することだ。もっとも、お皿に添えたパセリ程度の緑しかない都会では、この影響は限定的と言えるかもしれない。
しかしもう一つの影響はどうだろうか。それは太陽光を遮る樹木が減ることで地面が吸収する太陽熱が増え、気温の上昇がさらに加速することだ。東京や大阪、名古屋などの日本の大都市の平均気温は、この100年間で2.0~3.0℃上昇していると言われている。主な原因は「ヒートアイランド現象」によるものだが、温暖化の影響にヒートアイランド現象による気温上昇が加わり、急速に温度上昇が進んでいる。その影響は熱い空気の逃げ場のない山がちな近県の盆地にも波及する。
気温の上昇が加速するばかりか、炎天下での日陰で涼むことも期待できなくなる。夏場は熱中症にかかる人が増え、建物や車から出るエアコンの排熱でさらに高温の空気が滞留することになる。まさに暑さと熱さの無限ループに陥りつつあるのだ。
世界の森林はいま
さて世界に目を転じると、さらにやっかいな緑の問題に直面する。地球規模での森林の減少だ。森林減少を止める国際公約にもかかわらず、熱帯原生林の消失は悪化しつつある。世界資源研究所が運営する「グローバル・フォレスト・ウォッチ」によると、2022年の熱帯原生林の消失面積は410万ヘクタールで、これは1分間にサッカー場11面分の森林が消失したことに相当する。この森林消失により、インドの年間化石燃料排出量に匹敵する2.7ギガトン(Gt)の二酸化炭素が放出された。
このレポートでは世界の原生林の消失順位を公開している。まず世界最大の森林消失国はブラジルで全体の43%を占め、2005年以来の高い水準となっている。とくにアマゾン西部での大規模な森林伐採、そして高速道路沿いに放牧地が拡大しているという。
第2位はアフリカのコンゴ民主共和国の12.5%で、記録的な高水準で熱帯原生林の破壊が進んでいる。アフリカでは小規模農家の貧困と農業生産性の低さが、森林破壊の主な原因となっているようだ。一方、第3位はボリビアの9.4%で、近年は熱帯原生林消失が急速に進んでいると報告されている。
第4位はインドネシアの5.6%。この国はかつてパームオイル等の大規模な農園開拓が問題となっていたが、近年は熱帯林の破壊は減少傾向にあり、2022年には記録的に低い水準を記録した。森林破壊を食い止めるためのパームオイル産業に対する政府の規制強化や企業の取り組みが功を奏したというのがその理由だ。この後にペルー、コロンビア…と続くが、第10位のマレーシアは1.7%。この国もインドネシアと同じように企業のコミットメントや政府の活動が功を奏し、一次林の消失は2022年には低水準にとどまって近年は横ばいとなっている。
森林の減少が続いている理由
世界の森林は、1990年以降の30年間で、日本の面積の5倍にあたる約1億8,000万ヘクタールが消失したといわれている。「地球の肺」とも呼ばれる森林が失われる原因はさまざまだ。ここでは本連載ですでに述べた「森林火災」を除き、主に人間の活動によって森林が減少している要因についてまとめてみよう。
森林減少の最大の要因の一つとされるのが、「大規模農地開発」である。アマゾンなどでは、牛肉や大豆など、増大する世界的な食料ニーズに応えるべく、農地を広げるために森林が大規模に切り開かれている。
また、国際的に需要の高い木材や家具の材料となる樹種をターゲットにした「違法伐採」も森林減少の一因だ。世界銀行の推計によれば、毎年、違法伐採による木材取引は1000億ドル以上に上り、これが森林破壊を加速させているとのこと。不当に安い価格で輸出されることが多く、日本では輸入した木材が合法的かどうかを確認するシステムがぜい弱で、法律の効果が限定的との指摘も出ている。そのことに目をつぶって安易に購入しているとすれば、日本を含めた需要国側の責任も大きいわけだ。
最後に、開発途上国で見られる森林破壊の要因としては「焼畑農業」がある。焼畑農業は、一定の土地を使用した後に新たな森林地帯を切り開き、その地を農地とする方法だ。しかし、この農法は森林の回復を阻害し、土壌の劣化を招くことがある。国連食糧農業機関(FAO)によると、焼畑農業により年間約200万ヘクタールの森林が消失しているという。
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