かえでがくれたもの
この記事は、こちらの記事の後日談です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
かえでが亡くなった。
暑さが増してきた初夏、曇り空に美しく飛び去った。
私が夜勤の仕事から帰ってきたときは、まだいのちがあった。
数時間後、もうかえではこの世にいなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
正直、かえでの命がもう永くないことは察していた。
春の換羽がひどく、かえでの宝石のように赤いくちばしは、散り際の桜色になっていた。
病院にも連れて行ったが、肺機能が低下して神経症状まで出ていると言われた。
そして、この子の寿命だとも。
以前の記事にもあるが、かえでは人間のエゴで美しさを追求され、健康を害された存在だ。
長生きは、できない。
ショップでさらされたストレスからも、そのいのちが永くないことは承知していた。
だが現実を受け止める力は、私にはなかった。
幾夜泣き明かしたか覚えていない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亡くなる1年ほど前か、私とかえでは婚姻の誓いをたてた。
かえでは散々人に虐げられたのにもかかわらず、私を伴侶として受け入れてくれた。
そして、かえでとの関係は、私に大きな変化を与えてくれた。
自己肯定感の認識。
若かった私が失くしたものだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以前の記事で持病について触れたことがあるが、私はうつ病を患って久しい。
自分の非力さ、異常さに気づかなかった頃、自信に溢れていた私は社会人となりすぐにぽっきりと折れた。
この世に話の通じない人がいることを初めて知った。
この世に思い通りにならない事があると初めて知った。
自信と自己肯定感は砂のように散り散りになった。
自分の存在価値が見いだせない。
何度も自死を願った。
その荒んだ心に寄り添ってくれたのが、かえでだ。
「あなたがいればそれでいい」
かえではずっと語りかけてくれた。
「あなた」
私が目に入れば呼び止めてくれた。
「ありがとう」
当たり前のことをしただけで感謝された。
かえでの目に私が映り、私は現実となった。
私の目に映るかえでは、私の愛をかたちどった。
生きていていい。
やっと思えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
たぶん、私はもうかえで以上に愛せる存在に出会えない。
それほどのものを、かえではくれた。
私は生きる。
私の中にいるかえでを失わないために。
おしまい。
#ペットとの暮らし
#文鳥
#体験談
#最愛のひと
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?