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短編小説読書メモ13本目~雛倉さりえ『ダンス・デッサン』
https://www.amazon.co.jp/アンソロジー-舞台-創元文芸文庫-近藤-史恵/dp/4488803113
『アンソロジー舞台!』もいよいよ4作目。毎回異なる視点から、多種多様な「舞台」をめぐる物語を見せてくれるから、楽しくて仕方がない。
良いアンソロジー、そして作品たちに出会えた。
今回の雛倉さりえさんの『ダンス・デッサン』は、劇団に所属する俳優から見た、ミュージカルがテーマ。
ミュージカル、というと華やかなイメージがあるが、その舞台裏はなかなかシビアで過酷だ。
さらにこの『ダンス・デッサン』で描かれるのは、
職業としての綺羅。
業務としての祝祭。
さらに、「必要なのは特別な才能ではない」とまで言いきられる。
主役級として華やかな立ち位置にいる俳優すら、替えのきくパーツに過ぎない。
そして、アンサンブル枠で躍り続けていた主人公も、それを理解し、満足していた。
そんな彼が、ミュージカル『ダンス・デッサン』の主人公の友人役、つまり名前つきの役に初めて出演することになる。
紛れもないチャンスであると同時に、自分に務まるのか、という不安。その葛藤が物語の軸となる。
そして、初日、舞台に立った彼は、中学時代に自ら命を断った親友との思い出を思い出す。
彼が舞台のひかりに触れ、殻を破る瞬間が臨場感たっぷりに描き出される。読んでいて、圧倒された。
もういない大切な人に、「あなたに生きていて欲しかった」と伝えつづける。
そして、今この舞台を見ている誰かに、すこしずつでも人生を続ける力を渡すために。
それが主人公の軸になっていくだろう。役に名前があろうとなかろうと、あるいは今の劇団を辞めてどこか別の場所に行くとしても、その思いと共にこれからを生きていく。
そんな姿が目に浮かぶ。
不特定多数の中にいる誰かに向けてのメッセージを籠める、という点は、舞台にしろ何にしろ、「表現」には共通していることなのかもしれない。