20枚シナリオ⑤鏡 『鏡の裏側』(改稿版)

『鏡の裏側』



   人物
宇佐美 健介(27) シェフ
小森 奈々子(23) 大神家メイド
小荒井 壮一(65) 大神家執事

〇高級住宅街
   両側には立派な門構えの邸宅が整然と並び、塀の向こうには木々が突   き出ている。
   カジュアルな服装に、大きなボストンバッグを下げた宇佐美健介(2    7)、スマホの画面を見ながら、歩いている。
   宇佐美、足を止めて、画面に表示された地図と周囲を見比べながら、
宇佐美「……えっと、次の角を右に、そのまま坂を登って、と」


〇大神邸・外観
   大きな両開き式の門の向こうに緩やかな坂があり、その先にヨーロッ   パ風の3階建ての大きな邸宅。

〇同・1階・大広間
   高級そうな輸入家具や、オブジェが並ぶ室内。
   2階までの吹き抜け構造になっており、欄干のついた廻廊がめぐらさ   れている。
   壁にはシカやイノシシの頭部の剥製が飾られている。
   剥製を眺める宇佐美。
   ポケットから煙草の箱を取り出そうとして、
宇佐美「……ん?」
   宇佐美、背後に気配を感じ、振り返る。
   奥の壁際に置かれたサイドボードの上の壁に、瀟洒な細工がほどこさ   れた四角い鏡が三枚並んでいる。
   近づき、鏡を見つめ、
宇佐美「今、誰かに見られてた……なんて、気のせいだよなあ?」
   鏡へと手を伸ばす宇佐美。
小新井の声「宇佐美さま?」
   慌てて手を引っ込める宇佐美。     
   振り向くと、スーツをきちんと着こんだ小新井壮一(65)が立ってい   る。
宇佐美「あ、ど、ども。ご無沙汰を」
   小新井、会釈して、
小新井「……その後、叔父君のお加減は?」
宇佐美「コロナ禍で大変だったのが、やっぱ りたたったみたいで……せっ かくご指名いただいたのに申し訳ない、と言っておりました」
   小新井、小さく頷く。
宇佐美「今回は、叔父の代理として、その……び、微力ですが、シェフとし て、精一杯務めさせていただきます」
小新井「お願いしますよ」
宇佐美「は、はい。えっと……明後日の立食パーティーに出す料理30人 
 分、っすよね」
小新井「それから、旦那様がその後に召し上がる特別メニューを」
宇佐美「特別?」
小新井「ジビエ料理の経験はおありですよね」
宇佐美「(戸惑って)え?ええ、まあ……」
小新井「補佐役も付けますので、わからないことなどございましたら、彼女 にお訊ねください」
  小新井の背後、部屋の入り口にメイド服を着た小森菜々子(23)が現   れ、会釈する。

〇同・1階・キッチン
   数台のコンロやオーブンが備わった広いキッチン。中央にはシンクつ   きの大きな作業台が置かれている。
   宇佐美を案内している奈々子。
   奈々子の横顔に見惚れる宇佐美。
奈々子「……ここまでで、何か聞いておきたい事は?」
宇佐美「え……?あー、……小森さんって、ここ長いの?」
奈々子「(微笑んで)まだ数年ですね。来たのが大学2年の時ですから」
宇佐美「大変じゃない?こういうところって」
奈々子「……そうですね。でも、私、順応するの早いんです」
宇佐美「そうなんだ。……ちなみにさ、ここの主人の大神さんってどんな 
 人?」
   奈々子、黙って宇佐美を見つめる。
宇佐美「……叔父貴の店に昔よく来てたってことはコアラさ……小荒井さんか らも聞いてるんだけどさ、俺は直接会ったことなくて。今日はいない 
 の?」
奈々子「旦那様が、ここにいらっしゃるのは、年に数度、それも今回の誕生 会とかそういう特別な時だけなんです」
宇佐美「へえ……」
奈々子「ご到着は明後日のお昼前になるそうだから、ご挨拶もその時に。そ れと……」
   と、宇佐美に一歩近づく。
   奈々子、宇佐美のポケットに手を伸ばし、煙草の箱を引っ張り出す。
奈々子「ここにいる間だけでも、やめた方が良いわよ?ウサギさん」
宇佐美「(戸惑って)ウサギ……?」
   奈々子、ニッコリと笑ってキッチンを出ていく。
 
〇大神邸・外観(朝)
   門が大きく開き、黒塗りのリムジンが入っていく。
 
〇同・3階・書斎(朝)
   デスクの前に立つ、スーツ姿の恰幅の良い男性、大神秀剛(54)。
   小荒井に紹介され、緊張気味に挨拶する宇佐美。
   後ろで見ている奈々子。
 
〇同・1階・キッチン
   中央の台の上に野菜や肉など食材の入った段ボールが3、4個乗って   いる。
   コック姿の宇佐美が鍋を火にかけている。
 
〇同・外観(夕)
   開いた門の間を高級車が次々と入っていく。
 
〇同・1階・玄関ホール(夕)
   盛装した男女の客を出迎える小荒井。
 
〇同・1階・大広間(夕)
   料理を乗ったテーブルが並ぶ。
   皿やグラスを手にした客たちが談笑している。
   その間を、トレイを持った奈々子が歩いて行く。
 
〇同・1階・キッチン(夕)
   宇佐美、フルーツを切って、皿に盛りつけている。
   ドアが開き、奈々子が入ってくる。
奈々子「お疲れ様」
   宇佐美、顔を上げて、
宇佐美「あ、奈々子ちゃん。料理とか足りてる?大丈夫?」
奈々子「ええ。コックさんが頑張ってくれてるおかげで」
   宇佐美、笑う。
   奈々子、妖艶に微笑み、
奈々子「でも、本番はこれからよ」
宇佐美「例の『特別メニュー』ってやつ?」
   奈々子、頷く。
宇佐美「特別メニューって言ったって、一体何を作れば良いのか。小荒井さ んに聞いても教えてくれなくってさ」
奈々子「仕方ないわ。旦那様次第なんだから」
   奈々子、宇佐美の手を取り、
奈々子「何なら、見に行きましょうか?」
宇佐美「え?」
   奈々子、唇に人差し指を当てて、悪戯っぽく笑う。
 
〇同・1階・廊下~大広間入口(夕)
   奈々子に先導されて歩く宇佐美。
   宇佐美、足を止め、
宇佐美「あれは?」
   廊下の奥、大広間の隣にある扉から、小荒井と大神が出てきて、大広   間に入っていく。
奈々子「……行くわよ」
   奈々子、早歩きで廊下を進み、小荒井達が出てきた扉の向うに入って   いく。慌てて追いかける宇佐美。
 
〇同・1階~小部屋(夕)
   窓も照明もない、暗く、細長い間取りの部屋。
   真っすぐに奥へと進む奈々子の後ろを、宇佐美がおっかなびっくりつ   いて行く。
   よく見ると、左の壁には黒いカーテンがかかっている箇所が、等間隔   に三つ並んでいる。
   奈々子、一番手前のカーテンをまくり、
奈々子「見て」
   奈々子の隣からのぞき込む宇佐美。
   カーテンの下には四角い小窓があり、広間で談笑する客たちが見え    る。
宇佐美「これ……もしかして、広間にかかっていた鏡が?」
奈々子「そうよ、マジックミラーになってるの」
   と、隣のカーテンをまくり、
奈々子「こっちはもっと面白いわ」
   宇佐美、奈々子の肩越しに覗き込み、驚く。
   広間の客たちの顔は、鳥や動物の顔になっている。
奈々子「……これが彼らの本性。人間の皮を被っていてもねえ、内面は、こんなもの。それは、肉質や味にも反映される」
宇佐美「肉質?」
奈々子「旦那様、今年はどなたを召し上がるのかしら?イグアナか、それと も、あちらにいる孔雀の脳味噌かしら?」
   舌なめずりする奈々子。
   青ざめる宇佐美。

評価と訂正点


・広間の鏡がマジックミラーになっているというのがわかりにくかったので、セリフなどで説明すべき
→台詞に反映
・少々詰め込み過ぎ
・鏡がマジックミラーになっていることがわかりにくい。書き方が小説的。

学習ポイント


登場人物の情報や、状況説明などを視聴者に提供するためには、台詞をうまく使うべし。

個人的なあとがき

・個人的にはスタンリー・エリンの短編『特別料理』を意識してみた
そこに、昔話『狼の眉毛』を追加
(狼の眉毛:ある男が、狼にもらった眉毛をかざして他の人間を見ると、皆獣に見える、という話)
・お気づきの方もいるとは思うが、
 宇佐美→ウサギ
 小荒井→コアラ
 小森→コウモリ
 大神→オオカミ
・宇佐美は最初「乾(→イヌ)」という名前だった。
・小森奈々子は、古川琴音さん、小荒井は小日向文世さんのイメージ。
(当て書きは、けっこう書き進めやすい)


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