プルシアンブルー
原稿を書いている途上、プルシアンブルーことベロ藍について調べることがあった。
プルシアンブルーは、早い時期に作られた人工の青色染料。
18世紀初頭にドイツ(プロイセン)で発明され、19世紀には江戸時代の日本へ。
それまで日本で青色顔料といえば、植物を原料とする露草や本藍だったが、プルシアンブルーは、それらにはない鮮やかで透明感のある青色を作り出すことができ、さらにグラデーションも可能だった。
これを手にした絵師は、どんなに心踊っただろう。
モチーフであれ、題材であれ、クリエイターにとって、インスピレーションを心地よく刺激してくれる物との出会いはまさに宝だ。
北斎は70にして、このプルシアンブルーをふんだんに使った〈富嶽三十六景〉を制作した。
〈神奈川沖浪裏〉が最も有名だが、この〈甲州鰍沢〉のような青一色の作品もある。
波立つ海に網を打つ漁師を描いたこの作品は、網と漁師、漁師が立つ崖が作り出す線と遠くに見える富士山の形とが呼応しているのが面白い。
富士山を共通項として据え、一枚一枚に異なる趣向を凝らしていく北斎の発想力、遊び心はまさに衰え知らずだ。
一体、どうしたらこんなにも引き出しを蓄えることができるのやら。