奥泉光『死神の棋譜』
こんなにも私は物語を求めていた。
自覚したのは、奥泉光の『死神の棋譜』の60ページを過ぎたあたりである。
本を手に取ったのは、『このミス』の最新版がきっかけだった。
美術書の出版に向け、画家とその作品についての原稿を書くことが、ここ2ヶ月の優先事項で、図書館では、700番台の美術書のコーナーをうろついては、一行でも使える箇所がないか、と本を漁っていた。
おかげで、何かの別のものを、と思った時、これは、と思う作家名やタイトルが出てこない。
書店の平積みされた本を見ても、心に刺さってくるものがない。
どうしたものか、と手を伸ばしたのが『このミス』。
ミステリーが特別好き、というわけではなかったが、何かワクワクすること、新しい何かを求めていた。
そして、国内小説のランキングを見て、直感的に引っ掛かったタイトルを選び出した。それが、『死神の棋譜』というわけ。
正直、碁は、2年前に亡くなった祖父に少し手解きしてもらったが、将棋に対する知識はゼロだ。
だが、物語の始まり、解けない「詰将棋」というモチーフが気になった。詰碁を少しやった経験がある身としては、問題に挑む人々の気持ちが少しだけわかるような気がした。
矢に結びつけられていた謎の「詰将棋」。
それに関わって、失踪した、若手有望のアマチュア棋士。
今読んでいる箇所は、その影に、戦前に作られた将棋に絡んだ宗教の影がちらつき始めたところだ。
はてさて、どうなる?
何か見えない力で奥へ奥へと引っ張られている気もする。将棋にはまるのも、同じような感覚なのだろうか。