カレンダー遍歴
覚えている限り、最初に自分の部屋に飾ったカレンダーは、印象派だったと思う。
ルノワールだっただろうか。
とにかく、美術史にはまり始めたばかりの頃で、そのきっかけが「印象派」関係の展覧会に行き、『巨匠に教わる名画の見かた』なる本を手にしたことだった。
その後、どんなカレンダーを飾っていたか。
思い出せる限りのものを書き出して見ると、
・トスカーナ地方(写真)
・猫
・花
・ウィリアム・モリス
トスカーナ地方、特にフィレンツェは、とにかく夢だった。
勉強の合間、なだらかな丘と青空を背景に聳え立つ糸杉を見るたびに憧れを募らせた。
いつか、ここに行きたい、と。
猫は、可愛い物が好きだから。
「滑り込む猫」の動画で有名なまるが好きで、写真集も二冊ほど持っている。
段ボールに滑り込む代表作だけではなく、茶色い紙袋を被ったまま、何事もなかったかのように歩いて行く動画「覆面ねこ」は、何かとよく見ていた。緊張をほぐすために頭の中で再生することもあった。
実は、今年分のカレンダーの候補の一つとして、「まる」のカレンダーもあった。
ウィリアム・モリスは、何気なく立ち寄った書店で見かけ、「珍しい!」と思って即座にレジへ。
そして、今年は―――
アンリ・マティスにした。
去年、児童コーナーの季節展示を担当した際に、書庫にあった小学館の「あーとぶっく」シリーズを、あるだけ出したところ、驚いたことにすぐに棚から消えてしまった。
戻ってきても、あっと言う間にまた借りられて行ってしまう。
特に人気があったのが、マティスの巻で、シャガールとローランサンがそれに次ぐ。
展示を担当した側としては、自分がセレクトした本が手から手に渡っていくのは嬉しい。
同時に、この20世紀の巨匠に好奇心を掻き立てられた。
ピカソと同時代に生きた、この色彩画家について、いつか書きたいとすら思った。
そして、新しいカレンダーを買おう、と思ったとき、真先に思い浮かんだのが「アンリ・マティス」だった。
どうしても「マティスのカレンダー」が欲しい。
その思いを胸に、大きめの書店に行くたびに、カレンダーのコーナーに足を運び、探した。
が、ない。
ありそうで、ない。
印象派や猫の写真、風景を集めたものはいくらでもあるのに。
ゴッホも、ムンクも、ミュシャも、ピカソもあるのに。
マティスがない。
私は唸った。
マティスの描く赤い部屋が、窓のある室内画が、そして金魚鉢を描いた絵が、頭から離れない。
あれを、自分の部屋に飾りたい!
思いは、脳に焼き付いてしまっていた。
その後―――
Amazonでどうにかマティスのカレンダーを発見。
ラインナップは少し地味目だが、それでも見つけたこと自体が嬉しくてすぐに購入した。
そして、それは今、この記事を書く私の横の壁に飾られている。
諦めなくて、妥協しなくて、本当に良かった。
満足感と共に、こんな事も思う。
マティスの著作権が切れたら、彼の作品はテキスタイルや壁紙のデザインとして、引っ張りだこになりそうだな、と。
すでに今年9月の展覧会には、注目が集まっている。
願わくば、カラヴァッジョの<キリストの埋葬>展のようになりませんように。
ただそれだけ。