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「ヴェネツィア」を作った男カナレット~『カナレットとヴェネツィアの輝き』展内覧会から

SOMPO美術館の『カナレットとヴェネツィアの輝き』展の内覧会を取材。

カナレットは、本文執筆を手がけた『西洋絵画 風景をめぐる12か月』でも3枚ほどの作品について紹介した。

その時は、そこまで思い入れのある画家ではなかったが、今回の展覧会で彼の大きさを思い知った。
カナレットは、一言で言えば、今私たちが思い描くヴェネツィア」を作った男だった。

広い青空。
きらめく海の上に浮かぶ建物。
都市の中心を貫き、うねる大運河(カナル=グランデ)の上を行き交うゴンドラ。
そして、街で催される華やかな祝祭。

ヴェネツィアという言葉から、思い浮かぶのはこんなところだろうか。
これと同じような場所は、この世のどこにも存在すまい。
そして、このような想像に叶うイメージを提供してくれるのが、カナレットらによる「景観画」だ。
描かれている内容は、必ずしも実景そのままではない。ヴェネツィアの外から来た人々が、心の中に思い描く「イメージ」に合致するよう、実際の風景を「編集」したものだ。
写真が無かった時代、建物やさざ波の立つ水面を正確に描いたカナレットの絵は、現代に例えるなら、旅の思い出に買う絵葉書のようなものだった。
彼の絵を求めたのが、グランド・ツアーでやって来たイギリス人たちだったことも大きい。
カナレットは、彼らのニーズに応えて、「海上都市ヴェネツィア」のイメージをカンヴァスの上に作り上げてみせた。
それは、本国に帰ったイギリス人たちの胸に懐かしさを掻き立て、同時にまだ行っていない人々の胸に旅への憧れを植え付けただろう。
「海上都市ヴェネツィア」のイメージと憧憬とは、DNAレベルで人々の中に刻み込まれたと言っても過言ではあるまい。
それが、さらなる人をヴェネツィアへと連れていく。
その中には芸術家たちもいる。
ターナーも、〈ヴェネツィアを描くカナレット〉によって、ヴェネツィアと大先輩カナレットにオマージュを捧げた。

ルノワールやモネ、シニャックらは、自分たちの足でヴェネツィアを描き、それぞれのやり方でヴェネツィアを描いた。

その根には、カナレットが景観画を通して作った「イメージ」がある、と思うと、彼の存在の大きさは、計り知れない。

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